好きになっても良いですか?

 おれは呼吸を整えると、守沢くんをまっすぐに見据えた。

「そ、それでも好きです。付き合ってください!」

 言った瞬間、心臓がドクンッて跳ねた。ワンコが全力で吠えたみたいな勢いで言ってしまったから、守沢くんは目を見開いたまま固まっていた。

「た、滝本くん……」

 その声は、さっきまでの弱気な声じゃなかった。でも、驚きと戸惑いと、ちょっとした震えが混ざっていた。

「ぼく……さっき言ったよね。そんなふうに思ってもらえるような人間じゃないって」
「……うん。でも」

 おれはぎゅっと拳を握る。怖いけど、言わなきゃいけないことがあった。

「おれ、頭悪いし、勉強もできないし、効率も悪いし……守沢くんみたいにで(・)き(・)る(・)人じゃないけど……」

 言いながら、その情けなさに胸が軋むように痛む。それでも守沢くんに伝えたいことがあった。ちゃんと自分の言葉で伝えたかった。

「それでも……守沢くんが好きなんだ。きっかけはたしかに『頭が良いから』だったけど……守沢くんが、守沢くんだから好きなんだ」

 守沢くんの目が、ほんの少し揺れた。

「ぼく……そんな特別な人間じゃないよ」
「特別じゃなくてもいい! というか、おれにとってはもう特別なんだけど……」

 おれは必死に、一生懸命頭を働かせる。少ないゴイリョクをかき集めて、少しでも自分が言いたい、本当の気持ちに合った言葉を探し出そうとする。

「勉強しかしてこなかったって言ってたけど……おれのために時間使ってくれた! おれのノート見て笑ってくれたし、おれが頑張ってるの、ちゃんと見ててくれた……!」

 今までの記憶を辿るだけで、おれの顔は勝手に緩んでしまう。それはとっても愛(・)お(・)し(・)い(・)記憶。……ああ、「愛おしい」なんて難しい言葉、使ったのはこれが初めて。だけどたぶん、こういう気持ちのときに使うはずだ。
 守沢くんは、はっと息を呑む。

「それって……すごく幸せなことだと思う。おれは、それが嬉しかったんだ。だから……守沢くんのことが好きなんだ」

 言いながら、涙がまた滲んだ。でも、泣きそうなのは悲しいからじゃなくて、胸がいっぱいになったからだった。

「おれ、守沢くんのこと……好きになりたいです。好きでいたいです。お付き合いしたいんです……!」

 最後はもう、言葉がぐちゃぐちゃだった。だけど、これがおれの言いたいことのすべてだった。全部、本当のことだった。
 守沢くんは、しばらくおれをぼんやりと見つめていた。黒髪から覗く目は、まるで信じられないものを見るみたい。けどその奥で、何かが揺れていた。

「……滝本くん」

 ゆっくり息を吐くと、守沢くんは微笑んだ。

「そんなふうに言われたら……勝てないよ」

 呟くような言葉は小さくて、普通の人なら聞き逃しちゃうくらいだった。でも、おれにはちゃんと聞こえた。大好きな守沢くんの声を、おれが聞き漏らすはずがない。
 守沢くんは、おれの手をそっと取った。

「ぼく……滝本くんのこと、好きだよ」

 その言葉に、おれは頬がぽっと熱くなるのを感じる。

「ぼくのために頑張ってくれるの、嬉しかった。ぼくと話してるとき、楽しそうにしてるのがかわいかった。……人をそんなふうに思ったの、初めてだった」

 守沢くんは、少し照れたように笑った。

「ぼくも君が好きだ、滝本くん。……だから、付き合ってください」

 その瞬間、おれの世界がぱぁっと明るくなる。まるで桜が一斉に花咲いたみたい。おれがワンコだったら、その木の下で尻尾をぶんぶん振り回しちゃってるかもしれない。

「……はいっ!」

 声が裏返ったけど、そんなのどうでもよかった。おれは嬉しくて、泣きそうで、でも笑っていた。
 二人きりの教室で、おれたちは友達から恋人になる。……おれの『告白リベンジ大計画』は、こうして無事、成功に終わったのだった。