――三年間か。
自分が付き合っていた期間の短さを思うと、私の知っている彼より、美優さんから聞く彼の方が本当の彼なのかもしれない。彼の中では、いつでも美優さんが一番だったのかもしれない。
そう思うと突然恥ずかしくなった。私だけが一人浮かれて、私だけが好きだったのかもしれない。マメに連絡をくれてたのも、美優さんを忘れたかったからかもしれない。
――あー、もうやだ! あんなやつなんて、好きじゃない! なんでいつまでも引きずってんだよ! 私!
なんだか、そう思うと腹も立ってきた。じゃあ、私が会いたいって言ったら会いに来てくれたのも、私に向けてくれた、あの時の笑顔も、あれも全部嘘だったの? 私に向けてくれてたんじゃなかったの?
私は涙が出そうになって、慌てて酎ハイを飲んで誤魔化した。
「あー、なんか分からなくなってきた」
「何が?」
「美優さんの話を聞いてると、私が愛していた人なんて最初からいなかった気がする」
「ん? どういうこと?」
――あっ、私、何言ってんの? えっと、えっと。何か言わなきゃ。
「いや、なんていうか、私も彼がどう思うかとか考えてなかったのかもなって、私が勝手に彼を優しくて、繊細な人だって決めつけて、私もちゃんと彼を見てなかったのかもしれないなって思って」
――ああ、そうか、そうだ。私は『彼に愛されていたのか?』ということばかり知りたがってた。つまりそれは、私も自分のことしか考えてなかったとも言える。
「そっか」
「違う人だったら、上手くいってたのかもね」
「あー! そうだね。私たちも、もっと上手くやれる人と出会えるよ。きっと」
「え? あ、そっか」
「そうだよ」
「うん。そうだね」
私は可笑しくなって、声をあげて笑った。
――この人には勝てる気がしない。
そんな私を見て、美優さんが突然、笑い転げた。
「やばい。ツボった〜。莉子ちゃん可愛すぎる」
笑っていると、涙が目尻から溢れそうになって、慌てて手で拭った。
「いや、美優さんがおかしいって」
私たちはしばらく笑っていた。
落ち着いてきた頃、美優さんが私に聞いた。
「今回いいなって思う人いなかったの?」
「いや、そんなふうに見てなかったし」
「えー、もったいない。こんなに人いるんだから」
「美優さんこそ、いなかったの?」
「いや、私は今作ったら、ワーホリ行きたくなくなっちゃうからさ」
「あ、そっか。ワーホリっていつ行くの?」
「お金貯まったらかな。でも私すぐ使っちゃうんだよね。だからあんまり貯まらなくて」
「そうなの?」
「うん。まあでもそろそろちゃんと行かなきゃだよね」
「私なんて、ここ一年、ダラダラ過ごしてただけだから」
「私だってそんな変わらないよ。短期バイトばっかりしてるし」
「そうなんだ……」
「でも、もう二十四になるし、そろそろちゃんとしなきゃなあ」
「そうだね。私もちゃんとしよう」
「莉子ちゃん綺麗だからすぐに見つかるよ」
「あ、ありがとう」
何だか照れて、残っていた缶酎ハイを飲み干した。それを見た美優さんは立ち上がった。
「さあ、もっと飲もう! 明日は休みだ!」
ふざけたように言いながら、美優さんは冷蔵庫から新しい缶酎ハイを取り出し、私の横に座った。そして、冷えた缶を私の頬に当てた。
「冷たっ!」
美優さんがいたずらっ子のような顔で笑っている。私もおかしくなって笑った。
今となっては、あの時、彼がどう思っていたかなんて知り得ない。でもそんなことはもう、どうでもいいような気がした。私があの時感じていた彼は、もしかしたら、私がただ一方的に見ていた幻なのかもしれないし、やっぱりその彼も本当の彼だったのかもしれない。それは私には分からない。
それでもあの時、手を繋いだ温もりも、キスをした感触も、私の体の中に残っている。
私は彼を好きになった。その気持ちは確かにあった。彼の気持ちが分からなくても、その思い出までなかったことにしなくてもいい。大切な思い出として置いておけばいいのだ。
私は、また人を好きになりたい。今度はちゃんとその人を見て、その人にも私を見てもらえたらいいな。
私は隣で一緒に笑っている美優さんを見ていた。美優さんの瞳がキラキラしている。それを見ていたら、私も何か新しいことを始めてみたくなった。そういえば、私は初め、旅行が好きでこのバイトをしてみようと思ったんだっけ? しばらくこのバイトを続けてみてもいいのかもしれない。
私はテーブルの上から美優さんが飲んでいた発泡酒の缶を取り、彼女の頬に当てようとした。
「隙あり!」
「やめて、こぼれちゃうから」
美優さんが焦ったように顔を後ろに引いた。
「美優さんから始めたんだからね」
私もいたずらっ子のように笑って、美優さんの顔に缶を近づけようとした。すると、美優さんが私の腕を掴んで、缶の飲み口に口をつけた。美優さんが上目遣いで私を見上げて発泡酒を飲んでいる。酔っ払っているのか瞳が潤んでいるように見えて、私はなぜだか鼓動が早くなった。それを隠すように、私は真顔で呆れたように言った。
「自分で取って飲みなよ」
美優さんが発泡酒の缶から口を離して、ニヤッと笑った。
「莉子ちゃんって、可愛い」
「あー、はいはい。随分酔っ払って……」
私はそう言って、発泡酒の缶をテーブルに戻し、缶酎ハイを開けてぐびぐびと飲んだ。美優さんが顔を赤くして笑っている。私もおかしくて一緒に笑った。
自分が付き合っていた期間の短さを思うと、私の知っている彼より、美優さんから聞く彼の方が本当の彼なのかもしれない。彼の中では、いつでも美優さんが一番だったのかもしれない。
そう思うと突然恥ずかしくなった。私だけが一人浮かれて、私だけが好きだったのかもしれない。マメに連絡をくれてたのも、美優さんを忘れたかったからかもしれない。
――あー、もうやだ! あんなやつなんて、好きじゃない! なんでいつまでも引きずってんだよ! 私!
なんだか、そう思うと腹も立ってきた。じゃあ、私が会いたいって言ったら会いに来てくれたのも、私に向けてくれた、あの時の笑顔も、あれも全部嘘だったの? 私に向けてくれてたんじゃなかったの?
私は涙が出そうになって、慌てて酎ハイを飲んで誤魔化した。
「あー、なんか分からなくなってきた」
「何が?」
「美優さんの話を聞いてると、私が愛していた人なんて最初からいなかった気がする」
「ん? どういうこと?」
――あっ、私、何言ってんの? えっと、えっと。何か言わなきゃ。
「いや、なんていうか、私も彼がどう思うかとか考えてなかったのかもなって、私が勝手に彼を優しくて、繊細な人だって決めつけて、私もちゃんと彼を見てなかったのかもしれないなって思って」
――ああ、そうか、そうだ。私は『彼に愛されていたのか?』ということばかり知りたがってた。つまりそれは、私も自分のことしか考えてなかったとも言える。
「そっか」
「違う人だったら、上手くいってたのかもね」
「あー! そうだね。私たちも、もっと上手くやれる人と出会えるよ。きっと」
「え? あ、そっか」
「そうだよ」
「うん。そうだね」
私は可笑しくなって、声をあげて笑った。
――この人には勝てる気がしない。
そんな私を見て、美優さんが突然、笑い転げた。
「やばい。ツボった〜。莉子ちゃん可愛すぎる」
笑っていると、涙が目尻から溢れそうになって、慌てて手で拭った。
「いや、美優さんがおかしいって」
私たちはしばらく笑っていた。
落ち着いてきた頃、美優さんが私に聞いた。
「今回いいなって思う人いなかったの?」
「いや、そんなふうに見てなかったし」
「えー、もったいない。こんなに人いるんだから」
「美優さんこそ、いなかったの?」
「いや、私は今作ったら、ワーホリ行きたくなくなっちゃうからさ」
「あ、そっか。ワーホリっていつ行くの?」
「お金貯まったらかな。でも私すぐ使っちゃうんだよね。だからあんまり貯まらなくて」
「そうなの?」
「うん。まあでもそろそろちゃんと行かなきゃだよね」
「私なんて、ここ一年、ダラダラ過ごしてただけだから」
「私だってそんな変わらないよ。短期バイトばっかりしてるし」
「そうなんだ……」
「でも、もう二十四になるし、そろそろちゃんとしなきゃなあ」
「そうだね。私もちゃんとしよう」
「莉子ちゃん綺麗だからすぐに見つかるよ」
「あ、ありがとう」
何だか照れて、残っていた缶酎ハイを飲み干した。それを見た美優さんは立ち上がった。
「さあ、もっと飲もう! 明日は休みだ!」
ふざけたように言いながら、美優さんは冷蔵庫から新しい缶酎ハイを取り出し、私の横に座った。そして、冷えた缶を私の頬に当てた。
「冷たっ!」
美優さんがいたずらっ子のような顔で笑っている。私もおかしくなって笑った。
今となっては、あの時、彼がどう思っていたかなんて知り得ない。でもそんなことはもう、どうでもいいような気がした。私があの時感じていた彼は、もしかしたら、私がただ一方的に見ていた幻なのかもしれないし、やっぱりその彼も本当の彼だったのかもしれない。それは私には分からない。
それでもあの時、手を繋いだ温もりも、キスをした感触も、私の体の中に残っている。
私は彼を好きになった。その気持ちは確かにあった。彼の気持ちが分からなくても、その思い出までなかったことにしなくてもいい。大切な思い出として置いておけばいいのだ。
私は、また人を好きになりたい。今度はちゃんとその人を見て、その人にも私を見てもらえたらいいな。
私は隣で一緒に笑っている美優さんを見ていた。美優さんの瞳がキラキラしている。それを見ていたら、私も何か新しいことを始めてみたくなった。そういえば、私は初め、旅行が好きでこのバイトをしてみようと思ったんだっけ? しばらくこのバイトを続けてみてもいいのかもしれない。
私はテーブルの上から美優さんが飲んでいた発泡酒の缶を取り、彼女の頬に当てようとした。
「隙あり!」
「やめて、こぼれちゃうから」
美優さんが焦ったように顔を後ろに引いた。
「美優さんから始めたんだからね」
私もいたずらっ子のように笑って、美優さんの顔に缶を近づけようとした。すると、美優さんが私の腕を掴んで、缶の飲み口に口をつけた。美優さんが上目遣いで私を見上げて発泡酒を飲んでいる。酔っ払っているのか瞳が潤んでいるように見えて、私はなぜだか鼓動が早くなった。それを隠すように、私は真顔で呆れたように言った。
「自分で取って飲みなよ」
美優さんが発泡酒の缶から口を離して、ニヤッと笑った。
「莉子ちゃんって、可愛い」
「あー、はいはい。随分酔っ払って……」
私はそう言って、発泡酒の缶をテーブルに戻し、缶酎ハイを開けてぐびぐびと飲んだ。美優さんが顔を赤くして笑っている。私もおかしくて一緒に笑った。

