花咲く君は、いつか透明なハナになる

 部室を出て、階段を上がる。教室の前に差し掛かったとき、歩幅の狭くなっていた足が止まった。
 どうしよう、動かない。やっぱり、クラスのみんなの反応が怖い。

 ──恋咲き花、取ったってほんと? どんな気分?

 ──うわ、そんな感じになるんだ。なんか、変だね。

 ──罰が当たったんじゃない? かわいそう〜。

 勝手な妄想ばかりが頭を占めていく。また白い目で見られたらと考えて、不安になる。
 強く目を瞑ったら、震える手に手が伸びてきて。

「救急車で運ばれたって聞いたとき、華ちゃんがいなくなっちゃう気がして、すごく怖くて。ずっと逃げてる自分を……変えなきゃって思った」

 まっすぐ前を見つめる彩葉ちゃんが、つぶやいた。何かを決意したように繋がれた手は、力強い。

 一歩踏み出して教室へ入ると、ざわついていたクラスメイトたちがこちらを見て静まり返った。
 この無音の時間が怖い。そう思ったとたん、一人が声を上げた。

「おはよう」

 それに続いて数人が寄ってきて、あっという間に私たちは囲まれた。あまりに驚いて、おはようと力なく答えるのが精一杯。

「大路さん、もう大丈夫なの? 大変だったね」
「オレも入院したことあるけど、病院の夜ってめっちゃ怖くない? 二度と行きたくねぇよな」
「あ、うん。そうだよね」

 物珍しそうに見られると思ったけど、腫れ物に触る感じはなくて。クラスのみんなは、新しい私に目を向けてくれていた。

「その花、めっちゃ可愛いじゃん! 違和感ないねー!」
「うちらのよりキレイ。似合ってるし」

 手のひらを返したように、まるで反応が別世界で固まってしまう。学園祭までは刺々しい空気が流れていたのに、どうなってるの?

「あ、ありがとう」


 あとから聞いたことは、私と一緒にいたのは勉強を教えていただけだと、高嶺くんが誤解を解いてくれていた。
 クラスメイトに勉強を教えることになったと話していたのは、そういう経緯(いきさつ)があったらしい。

 さあちんと彩葉ちゃんは、しばらく教室で浮いていた。グループココアでの一件や、今までの振る舞いで、クラスのみんなが自然と距離を置いていったみたい。
 無視や嫌がらせをされているわけではないけど、以前と同じようにはならなかった。

 一度与えてしまった印象を、塗り替えることは難しいのだろう。