花咲く君は、いつか透明なハナになる

 一週間ぶりに登校する日を迎えた。
 支度する足が象みたいに重い。
 術後初めて、鏡の前でガーゼを外す。花びらが舞うように、重なったガーゼを一枚ずつ開いていく。
 耳元があらわになったとたん、胸の奥がギュッと苦しくなった。
 先輩を想って咲いた白い花は、もうないーー。

 学校へ行く途中、ちらちらと視線を感じた。物珍しそうな目で見てくる人もいた。
 とっさに手で耳を覆(おお)いながら、うつ向いて早足に歩いた。

「おはよう」

 校門のところで、彩葉ちゃんが気まずそうにしながら小さく手を振っている。
 昨日の今日で、こっちもどう反応したらいいのか戸惑った。
 おはようとだけ挨拶を返して、私はまた口を閉じる。

 耳から手を離せないまま、正面玄関へ向かった。
 たぶん、花を切除したことは先生から聞いているだろう。

「一緒に行っても、いい?」
「……うん」

 話していていいのかな。彩葉ちゃんまで、変な目で見られるかもしれない。
 周りを見渡すけど、さあちんの姿はない。

 ──なにもかも取らないでよ。

 また、知らずのうちに嫌な思いをさせるかもしれない。悪気はなくても、そう捉えられることもある。
 階段を上がり、まだ二年生の階ではないところで彩葉ちゃんの足が止まった。つられて、私も立ち止まる。

「ちょっと、寄りたいところがあるんだけど。華ちゃんも……来てもらっていい?」
「……うん」

 黙って付いて行くと、新聞部の部室の前へ誘導された。わけが分からず立っていると、彩葉ちゃんがジェスチャーでドアを指差す。
 なんだろう?
 促されるまま、おもむろにドアを開けると、乙谷さんと高嶺くん、河合さんが立っていた。

「……みんな、そろって、こんなところでどうしたの?」

 いいからいいからと、河合さんにかばんを奪われ椅子に座らされる。
 なになに? 何が始まるの?
 挙動不審になっていると、姫先輩が入って来た。その後ろから、揺れるポニーテールが見える。
 おずおずと顔を出したさあちんが、私の目の前に立つ。
 顔を合わせるのは学園祭以来で、あの時の光景が鮮明に蘇る。ないはずの耳が、ズキンと痛む。
 なんとも言えない重い空気が流れて、誰も声を発さない。
 息が苦しい。あれ、呼吸って、いつもどうやってしてたかな。
 思わず立ち上がりかけた時、さあちんが頭を下げた。

「……ごめんなさい」

 突然のことで、喉が氷で固まったみたいに言葉が出てこない。
 口を開きかけて止まっていると、さあちんが静かに話し始めた。