花咲く君は、いつか透明なハナになる

 シャーッとカーテンを開ける音がして、繋がっていた手を慌てて離した。姫先輩も相当焦ったみたいで、その拍子に引き出しで指をぶつけて痛がっていたから。
 看護師さんとお母さんが入って来て、表情からよくない話をされるのだと、なんとなく分かった。

 姫先輩が病室の外へ出て、二人だけになってから、お母さんが静かに口を開く。その一文字ずつが耳に入るたび、もう一度頭の中で再生し直して、やっと胸に落ちてくる。

「……なんで?」

 それしか出てこなかった。何も感じない耳裏が、逆に怖い。

「そんなに、傷深くないよね? だって……もう痛くないし、それに」

 やっと咲いたのに……どうして?

「茎の半分がダメになっちゃってるんだって。裂けたところから、菌に感染したんだろうって。このまま付けたら、首の組織まで死んじゃうよ」
「でもっ! だって……」

 恋咲き花を失ったら、やっと見つけた私の恋は、姫先輩への気持ちはどうなっちゃうの?
 消えて、なくなっちゃうの?
 震える両腕を抱きながら、背中が丸くなっていく。

「華の気持ち、よく分かるよ。でもね、花を取っても、生きていけるの。花を取ったら、普通の生活して生きていられるのよ」

 消灯時間になり、真っ暗になった病室。お母さんの言葉が、ずっと胸の中に残っている。
 言われたことは、理解出来る。そうする選択肢しかないとも、分かっているつもり。
 花を切除するのは、いわゆる親知らずを抜くのと似たようなものだと、医者(せんせい)は言った。
 もとより必要のないものだから、失くなっても心配はいらないと。

 でも、ーーやっぱり怖い。
 花は感情の証だって、聞いたことがある。
 先輩への気持ちは本物だって、思い始めてたのに。この初めての気持ちと、さよならしなくちゃならないんだ。

 あれから、姫先輩が戻ってくることはなく、そのまま帰ってしまったらしい。
 スマホのグループトークは、みんなからのメッセージでいっぱいで。大丈夫だよと返すはずだったのに、何も打てなかった。