花咲く君は、いつか透明なハナになる

 花に囲まれた世界で、誰かが私の手を引いて歩いている。おひさまのような手が頭を包み込んで、優しくなでた。
 頬に添えられた指先。その耳元に恋咲き花はない。見つめ合う彼にも花はなく、まるで初めから存在していないみたいに違和感がない。
 近付く顔は光がかかって見えないけど、
 この人はーー。

 重いまぶたをゆっくりと上げて、天井のまぶしさに目を細める。
 見覚えのないピンクのロールカーテンから視線を落としたら、こちらを見る影が浮かび上がった。

「……おい、華、わかるか?」

 ぼやけていた視界がくっきりして、心配する顔がのぞき込む。
 誰だか分かったとたんに、目頭が熱くなってじんわりと涙があふれてくる。

「せんぱ……い」
「なんだよ、痛むのか? 医者(せんせー)呼ぶから、ちょっと待って……」
「……違う」

 ナースコールを押そうとする腕を掴んで、止めた。白いベッドの上に横たわっていると知り、ようやくここが病院なのだと気付く。
 聞けば、高熱のため保健室で倒れて、救急車で運ばれていたらしい。

「さっきまで乙谷たちもいたけど、遅くなるから帰した。あと、お母さんは……医者(せんせい)と話してる」

 点滴が繋(つな)がれた手を見てハッとする。もしかしたら、おじいさんのこと思い出して、つらい思いを蘇(よみがえ)らせてしまったかもしれない。

「付き添ってくれて、ありがとうございました。もう平気なんで、姫先輩も帰っ……」

「ほっとけるわけねーだろ」と、姫先輩はベッドの上でこぶしを震わせている。
 どうしてそんなに、私よりもつらそうなんだろう。
 固く閉じられた指にそっと触れると、力強く握り返された。
 まだ意識がもうろうとしているのか。それとも熱のせいか、耳のせいか、正常な判断が鈍(にぶ)っている。

「私、先輩のこと……」