花咲く君は、いつか透明なハナになる

 緊張したーー。まだドクドクと心臓が早い。
 言いたいことは、全部じゃないけど言えた。

「おーい、次のお化け早くして」

 裏の方から、クラスメイトが叫んでいる。

「あの、ちょっと保健室行ってくるね」
「えっ、その格好で……って、それ本物の血? 大丈夫?」

 昨日、文句を連ねていた人が、こうして心配してくれた。
 たとえ状況は変わっていなくても、些細なことが何かを変えるきっかけになったりする。

「ありがとう。大したことないから、すぐ戻るね」

 廊下へ出ると、周りの人が二度見していく。口の裂けた幽霊が、血を垂らして走っているなんてホラーだもん。想像すると自分でも怖い。
 姫先輩が目撃したら、なんて言うかな。ふいに笑えてきて、余計にカオスな状況になる。
 保健室へ向かっているのに、着くまで怪我をしていることをすっかり忘れていた。


 ***

「ああー、根元が裂けてるね。痛いでしょう。どこかに引っ掛けでもしたの?」
「……はい」
「気を付けてね。ちぎれなくてよかったわよ」

 消毒液の触れたところが、ひりひりとしみる。頑張って走りすぎたのか、動悸(どうき)がすごい。額や首筋に汗が浮き出ている。
 でも、大丈夫。先生が応急処置をしてくれたから、しばらくしたら痛みも治るはず。
 一人足りなくなっちゃったけど、お化け屋敷どうなってるかな。みんなに申し訳ない。
 なんだか保健室の外が騒がしくなって、引き戸が大きく開けられた。

「大路さん!」
「華ちゃん!」
「王子ちゃん!」

 血相を変えて駆け込んで来たのは、高嶺くんと乙谷さん、それから河合さんまで。ガシッと肩を掴まれて、大きな目にのぞき込まれる。

「なにしたのよ、これ! 花がぶらぶらしてるじゃない! ねえ、先生! これちゃんとくっ付くの?」

 落ち着いて、となだめられる河合さん。当人の私より取り乱した様子で、とても心配してくれていることがわかる。

「私たちね、ちょうど華ちゃんのクラスへ行こうとしてたの。そしたら、幽霊の格好で走ってく華ちゃんを見かけたから」
「これは一大事だと思って、呼び込みしてた悠晴くんさらって飛んで来たの!」
「……大丈夫?」

 一歩下がっていたところから、高嶺くんが顔を出した。昨日の写真のこともあって、お互いに微妙な空気が流れる。

「大したことないから……、平気だよ」
「それなら良かった。あと、昨日の……だけど……」

 あれ、なんだか体がふわふわする。高嶺くんの声が小さくなって、目の前の景色が何重にもブレていく。みんなの顔が驚いてて、何か言ってた。

 意識が遠のいて、完全に真っ暗闇になる。

 そういえば、姫先輩は来てくれなかったなぁ。耳、やっぱりすごく痛いや……。