花咲く君は、いつか透明なハナになる

 残っていたクラスメイトがいなくなって、教室には私だけが残った。そろそろ帰らなくちゃ。かばんを肩に掛けるけど、ずるりと落ちる。
 あれ、目の前がにじんで見えない。もう泣かないって、決めたのに。久しぶりにこらえられない。
 涙があふれて止まらなくて、崩れるようにその場へしゃがみ込んだ。

「お化け屋敷かぁ。このクラスセンスねーの」

 ぽんっと頭に手が乗っかる感触がして、見上げるより先に開きっぱなしのスマホが奪われる。

「これ、ひでーな。クラストークに貼るとか、嫌がらせじゃねーか」

 のぞき込まれた拍子に、パチっと目が触れ合った。姫先輩の思いがけない登場に、体が動かなくなる。

「……見ないで下さい」

 取り返そうとしたスマホは、ひょいっとかわされて、ボイスマークが表示された。
 えっ、まさか、ちょっと待って!

「俺のしゅーたい晒(さら)したやつ、明日覚えとけよー」

 いつものやる気ない口調が、あっという間にピコンと送信された。手元に返ってきた画面を何度見ても、現実はしっかりと残されている。

「なんてこと……もう、ほんとにおしまいです」

 また二股とか、男たらしとか言われる。
 さっそくトークへ反応が来た。クラスの中心的女子で、さっきまで教室にいた子たち。

『だれ?』
『高嶺くんじゃなくない? この黒髪の人?』
『また新たな男説』
『ムリー』

 虫が群がるように、たちまち画面は埋め尽くされる。こんな場面を見られたくなかった。情けなくて、みじめで、恥ずかしい。

『てか普通にイケボ』
『たしかに。すぐるに似てる』
『誰だよそれ。あ、もしかしてアニメの?』

 床に置いたスマホを見ながら、隣で姫先輩がまじまじと。

「なあ、俺ってイケボらしいぞ」

 能天気なことを言うから、腕に軽くパンチを入れて。

「……先輩っ、遊んでるんですか? 私は、真面目に」

 ガシッと手首を掴まれて、阻止された。

「好き勝手言ってる奴に、どう思われてもいいだろ。どうせ卒業したら二度と会わねーじゃん」
「そうかも、しれないけど……。まだ一年、あるから」