花咲く君は、いつか透明なハナになる

 夏休みが明けて、二学期が始まった。えだまめと花姫のキーホルダーが、通学かばんの持ち手に仲良く顔を並べている。
 席替えをして、高嶺くんは窓側、私は廊下側と真逆に離れた。前よりも、話す機会が減った気がする。

 ショートホームルームが終わり、来週に行われる文化祭の準備が始まった。うちのクラスは、定番のお化け屋敷。
 切られたダンボールに絵を描くため、絵の具を用意していると、後ろ側から笑い声がしてくる。
 彩葉ちゃんが、新聞で井戸を作っているのだ。パレットに出した黒を筆につけ、ひたすら塗りつぶしながら、内心そわそわしている。
 いつ言おうか。そればかり考えていた。
 静かになった時を見計らって、振り向いた。

「あの、そこの黄色……もらっていい?」

 少し驚いたような目をして、彩葉ちゃんが足元に視線を落とす。

「あ、気付かなくてごめんね。はい」
「ありがとう」

 久しぶりに、話すことが出来た。それだけで、胸がキュッと熱くなる。
 このままでいいのか、ずっともやもやしていた。
 受け取った絵の具を軽く握り締めながら、小さく息を吸って。

「もう、ちょっとで終わるから、よかったら……そっち手伝うよ?」
「えっ、いいの? でも……」
「彩葉ちゃん、こっち来て」

 話を遮(さえぎ)るように、廊下から彼女を呼ぶ声がした。
 ごめんね、とささやくほどの言葉を残して、さあちんの元へ駆けて行く。
 ふんっとポニーテールをなびかせて、背を向けたさあちん。ふわりとした茶色のボブを気まずそうに触りながら、彼女の隣へ立つ彩葉ちゃんから、そっと目を離した。
 少しだけど、前に進めている。そんな気持ちが、すぐに砕かれることになるとは思わなかった。


 文化祭を翌日に控えた日の放課後。お化け屋敷の組み立て作業を終えて、ノートをかばんにつめていたとき。ブブブ、とスマホのバイブが鳴った。
 まだ教室に残る生徒からも、同じように音がして。クラスで作られたグループトークが表示され、不思議に思った。
 ほとんど使われたことがなく、ましてや学校にいるのに。

「ええー、なにこれ? 普通にヤバくない?」

 開くより先に、女子たちの大げさな声が耳に入る。
 ワンテンポ遅れてピコンと表示されたのは、二つの画像。
 私が高嶺くんと図書室でお弁当を食べているものと、もう一つは病院前の公園で姫先輩といた時のものだ。
 おじいさんが亡くなって気を落としていた先輩が、ちょうど私に寄りかかっているところ。
 どうしてこんな写真があるの? 誰が、なんのために……。