花咲く君は、いつか透明なハナになる

 ハッとして隣を向くと、乙谷さんがふわんとした顔でうなずいていた。
 急に恥ずかしくなって、枕に顔を伏せる。姫先輩のことを想像して答えていた。穴があったら入りたいと、頭まで布団をかぶる。

「華ちゃん、照れすぎだよ。可愛いね」

 布越しに撫(な)でられて、むくっと顔だけを出す。
 赤くなっている場合じゃなかった。次は私が問題の人。
 何も浮かばなくて、どうしようかと頭の引き出しを探していると、バーカと笑う姫先輩が見えた。
 いつも適当だし、からかって来るのに楽しくて。傍にいたくて、この毎日がずっと続けばいいと思った。
 でも、時間は止まってくれない。

「春なんて……来なければいいのに」

 一瞬、静まった部屋。変なことを口走ったと、間違えましたと言おうとしたとき。

「全然分かんない。メルの負け。ねえ、王子ちゃんの持ってる答え、なあに?」

 河合さんが、降参(こうさん)の旗をあげた。乙谷さんも、気になるねとこちらへ顔を向ける。

「……春になったら、卒業しちゃうじゃないですか。だから、寂しいなって」

 三年生は、あと半年で高校生になる。同じ時間は、もう二度と過ごせない。

「……ふーん。じゃあ、メルが罰ゲームね。今から、告白タイムしまーす!」

 こほん、と校長先生のように咳払いをして。

「小さい頃から、メルは響と一緒だったの。家が近くて、よく遊びに行って、家族ぐるみで旅行もした。メルはひとりっ子だから、響といるのが楽しくて、誰にも渡したくなかったの。困ってるの知ってても、メルだけの響ちゃんでいて欲しかった」

 昔を懐かしむような落ち着きのある口調。隣でうつ伏せになりながら、私たちは黙って聞いていた。
 幼い頃の河合さんは、兄弟がいなくて寂しかったのかもしれない。その気持ち、分からなくもない。
 だから、私にあんなことを……?

「それで、何が言いたいのかって言うとーー」

 勢いよく起き上がって、河合さんがこちらを向く。

「メルは響が好き! 乙ちゃんと王子ちゃんと、悠晴くんもみんな好きっ! だから、来年もみんなと一緒にいたい……デス。以上」

 きょとんとして、乙谷さんと目を合わせて、それからふふっと笑みがこぼれて来た。
 さっきの文章に、返事をしてくれたようにも聞こえて。河合さんの思いが素直に嬉しくて、胸があったかくなる。

 私もみんなが好き。この時間が好き。

 布団の中で手を繋いで、ふわふわした優しい気持ちで眠りにつく。
 どうかいつまでも、こうして仲良くいられますようにと祈りながら。

「……もう、メルは大丈夫だから」

 どんな夢を見ているのか、そんな寝言が耳の上を飛んでいった。