花咲く君は、いつか透明なハナになる

 何日か経って、乙谷さんから連絡が入った。突然、泊まりに来ないかと誘われて、驚いたけど嬉しくて、夏の終わりが待ち遠しくなる。
 夏休み最後の週。簡単な荷物が入ったリュックを背負い、乙谷さんの家を訪れた。友達の家にお泊まりなんて生まれて初めてで、昨日はなかなか寝付けなかった。この日のために、新しく寝巻きを買ってもらったりして。
 夜遅くまで布団にくるまって、二人でガールズトークなんかしちゃったり……って思ってたんだけど。

「女の子とお泊まり会って初体験なのー! どうしよう、二人ともパジャマ可愛すぎない?」

 さっきから、ひとりテンションの高すぎる河合さんに圧倒されている。みっつ並んだ布団の上で、ゴロゴロと転がる姿はふーちゃんそっくりだ。
 聞いてない。河合さんもいるなんて、聞いてないよ。
 気まずさで泣きたくなってくるけど、これは逆にいい機会なのかもしれない。

「ねえねえ、ゲームしようよ! なにか面白いのなーい?」

 枕を抱えながら、河合さんがころんとあおむけになった。

「メルちゃん、とうとつだね」

 苦笑しながら、乙谷さんはうーんと考える人のようにアゴに手を添える。

「あっ、月がきれいですねゲームなんてどうかな?」
「それなんですか?」

 机にあったキャンドルを布団の枕元に置いて、乙谷さんがライトを付ける。可愛らしいオレンジの光がぽわんと光った。

「例えば、夏目漱石の〝今夜は月が綺麗ですね〟には、〝あなたが好きです〟って言葉が秘められているの。こんな感じで文章を考えて、隣の人がその意味を答えるのはどう?」
「……難易度(なんいど)高いですね」

 面白そうだけど、文学のセンスがない私にはハードルが高そうなゲーム。

「新聞部で物語も作ってるし、良いと思ったんだけどな」

 残念そうにする乙谷さん。案を出してくれたのに、なんだか申し訳なくなって。

「やりましょう、やりましょう!」

 思わず勢いで言ってしまった。恥をさらすことになりそうだけど、せっかくのお泊まり会だからみんなで楽しみたい。
 隣で寝転ぶ河合さんが、こちらに人差し指を向けて。
「分からなかった人には罰ゲームあるから。真剣にね!」と言って、ふふふと含みを持たせた笑みを浮かべる。
 ええー、と不満の声を上げる私たちになどお構いなしで、電気が消された。

 まずは河合さんが文章を出して、乙谷さんが意味を答える。

「じゃあ、〝今夜は星が見えませんね〟」
「いきなり難問だね。うーん、〝あなたが私の光になって下さい〟とか?」
「それ、いいね! さすが乙ちゃん」
「えっ、メルちゃんの答えはないの?」
「まだ考えてないのー」

 ルールがあってないようなものだと、私たちは顔を見合わせて吹き出した。
 なんだか河合さんらしいと言うか。なんでもアリなんだと思ったら、肩の力が抜けて軽くなった気がする。
 じゃあ次行くねと、乙谷さんが合図してすぐ。

「〝雨、止みませんね〟」

 ふと思い出すのは、雨あがりの公園。肩に触れていた髪と涙。

「……もっと一緒にいたいです」