花咲く君は、いつか透明なハナになる

 うちのおじいちゃんが亡くなったのは、私が七歳の時だったから、正直あまり覚えていない。
 誰かを失うのは寂しいことだと理解出来るけど、声を押し殺しながら涙を流す先輩へ掛ける言葉が見つからなかった。
 ただ、肩を貸すことしか出来ない。
 ぼんやりする景色の中で、思い返すのはここへ来てからのこと。

 私、さっきなんて言った?

 ーー明日、東京どこ行くんですか? 渋谷、原宿?
 ーー今度、大路家特製クッキー焼いて来ますね! おじいさんのお見舞いにも。

 傷口を広げるようなことをして、最悪だ。

「あの……先輩」

 今さら謝るのは、蒸し返すようで違う気がするけど。どうしたら正解なのか、出口が見えない。

「なんか……ごめん。キモいことして」

 引き離された体が、少しだけ後退した。いつもより下の目線にいる姫先輩は、目を伏せている。

「えっ、そんなこと……」

 濡れたまつ毛を一度擦(こす)って、パッと顔が上がった。赤いガラス玉のような目と触れ合って、一呼吸時間が止まる。

「……ありがとな」

 立つ際にくしゃっと頭をなでられて、力の抜けた足がよろけそうになった。お礼を言われるほど、何も役に立てていない。

「やっぱり、じーちゃんとこ戻るわ」

 ベンチに置いていたかばんとマフィンを手にして、頭を触りながら言いづらそうに。

「一人だったら、まだここでビビってたんだろーな。華がいてくれて、良かった」

 視線が合わなくなったのは、二人して地面を向いたから。

「……残りの時間、おじいさんの傍にいてあげて下さい」

 ちらりと上を見ると、もう一度目が合った。今度はお互い逸(そ)らさずに、小さくうなずく。

「ああ、そうする」

 寂しそうな唇がわずかにほころぶのを見て、私も同じようにした。すぐには立ち直れないだろうけど、元気になってほしい。
 戻って行く背中を見送っていると、急に振り返るからドキッとした。

「あー、クッキー。今度作って来てやって。じーちゃんにも」

 パッと明るくなった表情は、さっきまでとはまるで違う。

「……もちろんです」

 あんな風に涙を流す先輩は、初めてだった。強く丈夫そうに見える男子でも、弱くなる瞬間はあるんだ。

 一番近くで寄り添える存在が、私であるならいいのに。