花咲く君は、いつか透明なハナになる

 朝のチャイムが鳴って、ショートホームルームが終わった。
 サブバッグを持った彩葉(いろは)ちゃんが他の友達と私のところへ来て、早く行こうと声を(はず)ませる。
 一限目は体育だから、女子は更衣室で着替えなければならない。
 廊下を歩きながら、私を挟んだ両側から楽しそうな会話が飛び交っている。

「でね、昨日一緒に帰ることになって。自然に手繋いでくれたから、すごくドキドキしちゃった」
「彩葉ちゃんいいなぁ。私も高嶺(たかね)くんと付き合えたらなぁー」
「高嶺くんは名前の通り高嶺の花だからね。あんなイケメン相手じゃ、気が引けちゃうよ」
「たしかにね。でも好きなんだもん」

 ーー高嶺くん、かっこいいよね。

 早く、言わなきゃ。今、言わないと。

「近く行くと、なんかいい匂いするしね」
「それ分かるー! 彼女いたことあるのかな。気になるー」

 またタイミングを逃しちゃった。なかなか二人の話に入っていけない。
 まだ花が咲いたことのない私が口を挟んだところで、気持ちなんてわからないくせにって思われるから。
 彩葉ちゃんたちじゃないけど、陰で女子が話してるところを聞いたことがある。何か違う反応でもしたら、たぶん心の中では思われる。

「華ちゃん、隣で羨ましいなぁ」

 あははと笑い返すことしか出来なくて、頬が強張(こわば)っていく。
 恋の話になると、口がくっ付いたみたいに動かなくなるんだ。まるで呪いにかかっているように。


 * * *


 体育館で部活動をする生徒たちのかたわら、パシャパシャとデジカメのシャッターを切る音が響く。
 ドリブル、そして華麗なフォームでシュートを決める瞬間が目に入って、部員の掛け声に混じってグッと小さくガッツポーズをする。よし、バスケ部はこれで良し!

 新聞部は学期ごとに校内新聞を発行している。五月号は部活動の紹介をするため、ピックアップする部を取材しなければならない。
 これだけ撮り(だか)があったら、どれかは使えるはず。
 あとは、この人の技量次第……と思いながら視線を送ったとたん、カメラを抱えて隣に立つ姫先輩の動きが止まった。

「あ、しまった。レンズのカバー取り忘れてた」
「姫先輩、まさかわざとですか?」

 じろりと白い視線を向けて、すかさず付いたままのカバーを外す。
 せっかく良いショットを取って次へ行けると思ったのに。

「どうりで暗いなーと思った」
「気付きますよ。普通」

 もうっ、とため息を吐いて、さっき部長にインタビューした言葉を書き終えた。
 何を考えているのか分からない顔をして、レンズを覗き込んでいる。

「姫先輩は、どうして新聞部入ったんですか? どうせ、暇そうだしサボれるぜーって感じでしょうね」

 仕事が進まないことにむしゃくしゃして、少し嫌味な言い方をしてしまった。気分悪くしたかな。
 カメラから顔を離した姫先輩の目が、ふっとこちらを見た。

「……だったら何? 王子に関係ないだろ」

 無表情のままで向けられた視線に、ぐらりと心臓が揺れる。
 いつもなら、うるせーとか言って面倒くさそうにして終わるのに。

 ーー関係ないだろ。

 どうして今日は、真面目に受け取るの。