花咲く君は、いつか透明なハナになる

 三年生が引退して、新聞部は私を含めて五人になった。それなりに手伝ってくれるから、部長の仕事も苦ではない。他に女子がいないのは、心細くもあるけど。
 部室の窓を閉めて、鍵を掛ける。レッスンをする必要がなくなったから、終わればそのまま帰宅する。

 あれ……放課後って、こんなに静かだったかな。
 歩く度にぴょこんと動く白い花は、何かを探すみたいに左右へ揺れていた。
 手を振り払ったあの日から、姫先輩とは会っていない。故意に避けているわけじゃないけど、タイミングが合わなかった……とでも言っておこう。

 つらい時は、立ち止まっていいよ。
 君には僕たちがいるから。
 一緒に、また一歩踏み出そう。

 生徒手帳を開いて見える文字を見つめて思う。いつも私は立ち止まってばかりだ。
 正門玄関へ着いた時、懐かしい顔が見えた。腕組みをしながら、下駄箱に背を付けている人物と目が合う。

「よお、王子」

 久しぶりに聞く声は、少しだけ低く感じた。

「姫センパイ? ここ、二年の玄関ですよ?」
「んなこと知ってるっつの」
「もしかして、待ってたんですか? 私のこと」
「……それに答えんの、なんかしゃくだな」

 待って、くれてたんだ。なんの用だろう。
 意味もなく髪を触って、視線が定まらなくなる。
 今まで、どうやって接していたか、不思議なくらいぎこちない。
 ふと目の前にある花へ視線が向かう。耳元から生えた青い花が、気を落としたように下向きになっている。

「先輩の花、なんかしおれてないですか?」
「重力に従順(じゅうじゅう)なだけだ」
「絶対元気ない。ちゃんと栄養足りてます? 牛乳嫌い直した方がいいですよ」
「お前こそ。もっと飲んだ方がいいんじゃね」

 合っていた姫先輩の視線が少し下がった。
 なんとなく察しがついて、どういう意味ですかと低く答える。お構いなしに、姫先輩は背を向けながら振り向いた。

「帰るぞ」

 すごく自然な言葉に、ワンテンポ遅れて。

「あっ、待って下さいよ」

 言われるままに隣へ並ぶけれど、違和感が拭えない。
 今日は、河合さんと一緒じゃないんだ。思ったより、普通に話せてる……とか。
 歩幅を合わせたように、足を出すタイミングが合っている。