花咲く君は、いつか透明なハナになる

 みんながすらすら出てくるような、自分にとっての特別なものってなんだろう。
 クリームの上に乗る桜の団子を取る。パフェの形が崩れて、少し傾いた。
 なんでもいいから、ぱっと思い付くものでいいよと言われて、出たのは。

「……花を咲かせること、です」
「えっと、それって、どういう意味かな?」

 ぴんと来ていない様子の乙谷部長が、首をかしげる。

「早く恋をしたくて、花を咲かせるために、一生懸命だったことがあるんです。今思えば、バカだなってなるけど……」

 頭に浮かぶのは、やる気がなさそうで、あきれながらも付き合ってくれて。いつも笑って隣にいた姫先輩の顔。

 もう一度、あの頃に戻りたい。
 好きとか、嫌いとか関係なく、まっすぐ見つめて笑い合っていた頃に。
 高嶺くんが抹茶の生チョコをすくうと、並んでいた白玉がすとんと落ちた。
 溶け始めるアイスの中に、沈んで見えなくなる。

「自分の気持ちに気付いたとたん、今までの世界が壊れてしまうことってあるよね」

 穏やかな口ぶりで、高嶺くんが私の白い花に触れる。軽くぴんと弾いて、耳元でゆらゆらと茎が踊った。

「恋咲き花って、昔は一種の病だったって知ってる?」
「そう……なの? おばあちゃんは、思春期に咲くものだったって」
「たぶん、もっとずっと昔の話。前に本で読んだだけだから、詳しくは覚えてないけど」

 奇病は誰でもかかり得る病になって、人と共存する耐性を作り上げたんだって。
 語りかけるような口調は、胸にすとんと入り込む。
 恋の病から花が咲く。それが人間の感情を表すひとつになったのだとしたら、失くなってしまえばいいのに。
 外面(そとづら)ばかりに気を取られて、決めつけて、中身を見ようとしなくなるから。私も、その内のひとりだ。

「だったら、こんなもの必要ない細胞だってことね。みんな、花に一喜一憂(いっきいちゆう)するけど……」

 乙谷部長の声が少し震えている。それでも、話し続けたいという意思がみられて、私は開きかけた口を閉じた。

「つらい恋をまわりに知られるのは、すごくつらい。そんな感情は、早く消してしまえばいいの。なかったことにしてしまえば、楽になれるの。そう思わない?」

 黙っていた高嶺くんが、小さくうなずいて柔らかに笑う。生チョコを串に刺しながら。

「たしかに。それもひとつの答えですね。でもーー」

 からん。グラスの氷と、瞳が揺れた。
 緑の後ろに白玉、桜の団子を繋げて私の皿に置く。


 ーー壊れてしまったなら、また新しく作り直したらいいんじゃないかな。