二人きりになると、気まずい。うーんと背伸びをした河合さんのセーラー服が持ち上がって、ちらりとお腹が見えた。びっくりした。制服の下に、キャミソールとか着てないんだ。こっちが恥ずかしくなって下を向く。
どこを見ていたらいいのか分からないし、なによりこの沈黙は息がつまる。
意味もなくノートをめくっていると、すすっと河合さんが隣に来て。
「ねえねえ、王子ちゃん。面白いこと教えてあげよっか?」
退屈を持て余していた顔が、何か楽しい遊びでも見つけたみたいにパッと華やぐ。
「響の弱点知ってる?」
「……弱点……ですか? なんだろう」
考えたこともなかった。頭はいい方だし、虫も平気そうだった。基本的には、何に対しても無関心。これといって、苦手なものは浮かばないけど……。
「響って、強がってるけど脇腹が弱いの。ちょっとくすぐるだけで笑いが止まらなくって。学校ではクールぶってるから、腹が立った時たまにやってやるの」
「……へえ」
しっかりと反応が出来なくて、気の抜けた声が出た。
とっくにへし折れている心では、平静を装うこともままならない。
「心許す関係だからこそ、なんだけどね。王子ちゃんは、触ったことある?」
「……いえ」
優越の浮かぶ目、得意げに上がった唇。分かっていて、わざと聞いている。
「あとね、意外と恥ずかしがり屋で可愛いとこあるんだぁ。あのキャラで赤くなったりするの。キスした時、とか」
「変な言い方すんな。いつの話してんだ」
河合さんの頭が揺れる。戻って来た姫先輩が、ぽんっと押したから。
頬が桜色に染まって、唇がツンととがる。
「だって、メルのファーストキス奪ったの響だもん」
「だから! あれは事故……」
「……お、お邪魔しました」
机に手を付いて、いきおいでくしゃけたノートを抱えると、そのまま走り去る。
「えっ、おい」
掴まれた腕を振り払って、振り向きもしないで家を出た。
まだ明るさを残す空の下を、ひたすら駆ける。何も考えない。考えたら終わり。言い聞かせながら、頭を占めるのはさっきの会話。
別に、くすぐってることが嫌なわけじゃない。ファーストキスだって、たぶん幼い頃の話だろう。そんなことは重要じゃなくて。
ただ、二人の空気感に耐えられなかった。河合さんは、私の知らない先輩をいくつも知っていて、見えない積み重ねの繋がりがある。
「うっわぁっ!」
急ぎすぎたのか、足がもつれて派手に転んだ。ひざがひりひりと痛む。擦りむいたところから、じわりと血が垂れていた。
「……はは、ついてないなぁ」
アスファルトに散らばったかばんの中身を拾い集める。横を通り過ぎていく自転車は、避けるだけでこちらへ見向きもしない。
声をかけて欲しいわけではないけど、何台も続くと虚しくなってくる。
ーーああ、なんかもう。
「……邪魔すぎでしょ、私」
どこを見ていたらいいのか分からないし、なによりこの沈黙は息がつまる。
意味もなくノートをめくっていると、すすっと河合さんが隣に来て。
「ねえねえ、王子ちゃん。面白いこと教えてあげよっか?」
退屈を持て余していた顔が、何か楽しい遊びでも見つけたみたいにパッと華やぐ。
「響の弱点知ってる?」
「……弱点……ですか? なんだろう」
考えたこともなかった。頭はいい方だし、虫も平気そうだった。基本的には、何に対しても無関心。これといって、苦手なものは浮かばないけど……。
「響って、強がってるけど脇腹が弱いの。ちょっとくすぐるだけで笑いが止まらなくって。学校ではクールぶってるから、腹が立った時たまにやってやるの」
「……へえ」
しっかりと反応が出来なくて、気の抜けた声が出た。
とっくにへし折れている心では、平静を装うこともままならない。
「心許す関係だからこそ、なんだけどね。王子ちゃんは、触ったことある?」
「……いえ」
優越の浮かぶ目、得意げに上がった唇。分かっていて、わざと聞いている。
「あとね、意外と恥ずかしがり屋で可愛いとこあるんだぁ。あのキャラで赤くなったりするの。キスした時、とか」
「変な言い方すんな。いつの話してんだ」
河合さんの頭が揺れる。戻って来た姫先輩が、ぽんっと押したから。
頬が桜色に染まって、唇がツンととがる。
「だって、メルのファーストキス奪ったの響だもん」
「だから! あれは事故……」
「……お、お邪魔しました」
机に手を付いて、いきおいでくしゃけたノートを抱えると、そのまま走り去る。
「えっ、おい」
掴まれた腕を振り払って、振り向きもしないで家を出た。
まだ明るさを残す空の下を、ひたすら駆ける。何も考えない。考えたら終わり。言い聞かせながら、頭を占めるのはさっきの会話。
別に、くすぐってることが嫌なわけじゃない。ファーストキスだって、たぶん幼い頃の話だろう。そんなことは重要じゃなくて。
ただ、二人の空気感に耐えられなかった。河合さんは、私の知らない先輩をいくつも知っていて、見えない積み重ねの繋がりがある。
「うっわぁっ!」
急ぎすぎたのか、足がもつれて派手に転んだ。ひざがひりひりと痛む。擦りむいたところから、じわりと血が垂れていた。
「……はは、ついてないなぁ」
アスファルトに散らばったかばんの中身を拾い集める。横を通り過ぎていく自転車は、避けるだけでこちらへ見向きもしない。
声をかけて欲しいわけではないけど、何台も続くと虚しくなってくる。
ーーああ、なんかもう。
「……邪魔すぎでしょ、私」



