花咲く君は、いつか透明なハナになる

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「……あの、やっぱり私帰ります」

 テーブルの上に広げられた教科書とノート。それから、お茶の入ったコップが三つ。

「待て、まだ解き終わってねーだろ。難しいからって逃げんな」

 立ち上がってすぐ、首根っこを掴まれて座らされる。さっきからこれの繰り返しで、もう三度目だ。このやり取りを、黙って目の前で見ている河合さん。無言の視線がびしびしと痛い。
 宿題を教えてほしいと河合さんが言い出して、なぜか私まで姫先輩の家に連れ込まれた。
 二人きりになって欲しくはないけど、この地獄絵図をどうしたらいいのか分からない。

「ちょっとー、響? 王子ちゃんがいる必要ある? 全然宿題が進まないんだけど」

 しびれを切らしたように、河合さんがぶうっと口をとがらせた。
 悔しいけど、可愛い人は何をしても可愛い。人間は不平等だと思いながら、仕方なくシャーペンを握ると。

「で、それいつ咲いたの?」

 耳元に広がる声に、思わず胸がドキッと鳴る。小さなテーブルだから承知の上だったけど、今のはあまりにも近すぎた。
 河合さんに聞こえないようにしたのだろうけど、じとっとこちらを見ている。

「……忘れました」

 ぼそっと言うと、また顔が近づいて。

「……誰?」

 誰とは、おそらく誰に反応して咲いたのかということで、すなわち好きな人を聞かれている。

「だから、異常開花だから。そんな人……いません」
「ふーん、あっやし」

 鼻で笑って、いかにも信じていない素振りをする。からかわれているのか、知りたくて聞かれているのか読めない。
 早く終わらせて、帰ろう。
 無言で問題を解き始めたら、余計に不審な目で見てくる。
 少し不貞腐(ふてくさ)れたような顔をして、さらに接近して肩が触れた。

「ねえ、さっきからこそこそ何話してるの? メルに聞かれちゃいけないことなの?」

 前のめりになって伸ばされた手。先輩との間へ割り込む教科書が、ぺちぺちと頬に当てられる。
 河合さんの視線も、触れる教科書もこの上なく冷ややかだ。

「別に、大したことじゃねーよ」

 向けられている教科書をさりげなく下ろして、姫先輩がよっと立ち上がる。
 ちょっとトイレと部屋を出て行く後ろ姿を、河合さんが不満そうに見ていた。