図書室の鍵を開けて、貸し出し場の奥にある事務作業の机に、高嶺くんが弁当を置く。
「先生の許可は取ってあるから大丈夫だよ。ここなら、人の目も気にしなくていいから」
小さくうなずいて、弁当袋を握りしめる湿った手を開いた。
隣に座って食べていると、空間のせいか図書委員になったようで不思議な気持ちになった。本の匂いはどこか安心感があって、心を落ち着かせてくれる。
そっか、高嶺くんの匂いに似ているんだ。
「人のいない図書室って、気が安らぐんだよね。誰にも邪魔されない。自分の世界でいられるっていうか」
「それ、分かる気がする!」
思わず体が前のめりになる。同じことを考えていたなんて、テレパシーみたいですごい。
「僕、一年の時も図書委員してたんだ」
「本好きなんだね」
「読みはしてたけど、続けようと思ったのはこれがあったからかな」
生徒手帳から取り出したのは、花の形をしたラベンダー色の付せんだった。
これを見つけたあなたはラッキーさんです!
これから大変でつらい時、悔しくて泣きたい時が来るかもしれません。
でももう少し踏ん張ってみて。
あきらめるのは、いつでも出来るから。
頑張ってるところ、誰かは見てくれてるよ。
その付せんに見覚えがあった。一年の時、私が持っていたものと同じだ。
新聞部で作業する時も使った記憶がある。
「連休明けに、貸し出しの机でたまたま見つけて。分からないけど、捨てられずにまだ持ってる」
思い出した。なかなか良い文章が書けなくて、煮詰まった時にらくがきしたこと。
まさか、高嶺くんに拾われていたなんて思いもしなかった。休み明けには、すっかり忘れていたから。
「なんか……ポエムみたいで、恥ずかしいこと書いてあるね」
自分が書いたなんて告白出来ないから、人ごとのように話してみる。
今見ると、恥さらしもいいとこだ。たとえ口をこじ開けられようとも、言えない。
「落ち込んだ時とか、嫌なことがあったら見るようにしてる。頑張らないとなぁって、不思議と元気もらえるから」
「そ、そっか」
「僕にとって、お守りみたいなものかな」
宝箱へしまうように、付せんを生徒手帳へ入れる。
何気なく書いたものが、誰かの心を支えていたなんて考えもしなかった。なんだかこっちまで温かい気持ちになる。
「大路さんって、お伽話好き?」
「えっ、うん、好き! なんで分かるの?」
「さあ、どうしてだろうね。なんとなく」
クスクスと笑いながら、ほんとうは何かを知っているような表情をする。
気になって、「なにー?」と聞き返すけど、教えてはくれない。こんな高嶺くんは、知り合ってから初めてだ。
ぷうっと頬を膨らませていると、そばにあった水色の付せんに、高嶺くんが何かを書き出した。
なんだろうと思っていると、さっと目の前に差し出される。目に入ったのは、正方形の中に並ぶ整った文字。
つらい時は、立ち止まっていいよ。
君には僕たちがいるから。
一緒に、また一歩踏み出そう。
「らくがきだから捨てるなり、お守りにするなり、ご自由にどうぞ」
冗談っぽく言われたのに、笑って返せそうにない。たまっていた気持ちが押し寄せて、ぷつんと緒が切れたみたいに目頭が熱くなる。
学校で泣かないって決めたから、ぐっとこらえて。
「ありがとう。大事にするね」
姫先輩と幼馴染のこと、彩葉ちゃんたちのことも、全てが上手くいかなくて悩むことばかりだけど。
誰かが味方でいてくれるって、とても心強いことなんだと改めて知った。
誰かの何気ない一言で勇気がもらえたり、その逆で崖の下へ突き落とされたりもする。
「先生の許可は取ってあるから大丈夫だよ。ここなら、人の目も気にしなくていいから」
小さくうなずいて、弁当袋を握りしめる湿った手を開いた。
隣に座って食べていると、空間のせいか図書委員になったようで不思議な気持ちになった。本の匂いはどこか安心感があって、心を落ち着かせてくれる。
そっか、高嶺くんの匂いに似ているんだ。
「人のいない図書室って、気が安らぐんだよね。誰にも邪魔されない。自分の世界でいられるっていうか」
「それ、分かる気がする!」
思わず体が前のめりになる。同じことを考えていたなんて、テレパシーみたいですごい。
「僕、一年の時も図書委員してたんだ」
「本好きなんだね」
「読みはしてたけど、続けようと思ったのはこれがあったからかな」
生徒手帳から取り出したのは、花の形をしたラベンダー色の付せんだった。
これを見つけたあなたはラッキーさんです!
これから大変でつらい時、悔しくて泣きたい時が来るかもしれません。
でももう少し踏ん張ってみて。
あきらめるのは、いつでも出来るから。
頑張ってるところ、誰かは見てくれてるよ。
その付せんに見覚えがあった。一年の時、私が持っていたものと同じだ。
新聞部で作業する時も使った記憶がある。
「連休明けに、貸し出しの机でたまたま見つけて。分からないけど、捨てられずにまだ持ってる」
思い出した。なかなか良い文章が書けなくて、煮詰まった時にらくがきしたこと。
まさか、高嶺くんに拾われていたなんて思いもしなかった。休み明けには、すっかり忘れていたから。
「なんか……ポエムみたいで、恥ずかしいこと書いてあるね」
自分が書いたなんて告白出来ないから、人ごとのように話してみる。
今見ると、恥さらしもいいとこだ。たとえ口をこじ開けられようとも、言えない。
「落ち込んだ時とか、嫌なことがあったら見るようにしてる。頑張らないとなぁって、不思議と元気もらえるから」
「そ、そっか」
「僕にとって、お守りみたいなものかな」
宝箱へしまうように、付せんを生徒手帳へ入れる。
何気なく書いたものが、誰かの心を支えていたなんて考えもしなかった。なんだかこっちまで温かい気持ちになる。
「大路さんって、お伽話好き?」
「えっ、うん、好き! なんで分かるの?」
「さあ、どうしてだろうね。なんとなく」
クスクスと笑いながら、ほんとうは何かを知っているような表情をする。
気になって、「なにー?」と聞き返すけど、教えてはくれない。こんな高嶺くんは、知り合ってから初めてだ。
ぷうっと頬を膨らませていると、そばにあった水色の付せんに、高嶺くんが何かを書き出した。
なんだろうと思っていると、さっと目の前に差し出される。目に入ったのは、正方形の中に並ぶ整った文字。
つらい時は、立ち止まっていいよ。
君には僕たちがいるから。
一緒に、また一歩踏み出そう。
「らくがきだから捨てるなり、お守りにするなり、ご自由にどうぞ」
冗談っぽく言われたのに、笑って返せそうにない。たまっていた気持ちが押し寄せて、ぷつんと緒が切れたみたいに目頭が熱くなる。
学校で泣かないって決めたから、ぐっとこらえて。
「ありがとう。大事にするね」
姫先輩と幼馴染のこと、彩葉ちゃんたちのことも、全てが上手くいかなくて悩むことばかりだけど。
誰かが味方でいてくれるって、とても心強いことなんだと改めて知った。
誰かの何気ない一言で勇気がもらえたり、その逆で崖の下へ突き落とされたりもする。



