花咲く君は、いつか透明なハナになる

 教室はいつも賑やかだけど、今朝は一段と騒がしい。くっつき虫のように男子たちが窓に張り付いて、校庭を眺めている。

「マジで可愛いー。アイドルみてぇ」
「三年だろ? 年上ってのもポイント高いよな」
「でも花咲いてね? やっぱ男いるのかぁー」

 その光景をげんなりした態度で見ている女子。背後から圧をかけるように、チクチクと視線が送られる。

「ほんと男子って単純。子ども。バッカじゃないの?」

 面白くないと顔に書いた女子たちは、座って本を読む高嶺くんを取り囲んだ。
 さっきまでとは、あからさまに違う声色。正直、お互いさまの気がしないでもない。

「あれ、華ちゃん? 花咲いてる!」
「ほんとだぁー! おめでとう! やったじゃん」

 彩葉ちゃんたちが席へ寄ってくる。すると他の女子からも注目を浴びて、普段話したことのないクラスメイトがわらわらと集まって来た。

「大路さんのつぼみ可愛かったのに。えー、好きな人出来たの?」
「誰、だれー? 念願の初恋、誰なのか気になるよね。このクラス?」
「……えっと」

 みんなの気迫に一歩引いてしまう。
 花が咲いているのといないのでは、これほど態度が変わるものなんだ。
 珍しい動物を目にしたみたいに、ちやほやと話しかけてくれるけど。笑顔を作る口の端が引きつっていく。
 どうしよう。なんだかこの空気……重くて苦しい。胸の中がもくもくした煙(けむり)で充満して、居場所が奪われていく。

 ーー言いたくない。ここから、逃げ出したい。

「ひっみつー!」

 でも、ぐっと堪えて、いつものイーッと歯を出す顔をした。
「ええー、なんだよー」と笑う声に被さって、ショートホームルームのチャイムが鳴る。
 散っていくみんなの後ろ姿を見て、ほっと胸を撫で下ろした。
 心と行動はちぐはぐなことをして、なんだか裏切っているみたい。変わろうとしても、なかなか上手くはいかないものだなぁ。

 先生が話している最中、トントンと机を叩くリズムが聞こえて顔を上げた。高嶺くんが、隣でノートを広げている。
 首を傾げながら目を向けると、『大丈夫?』と文字が見えた。

『ありがとう、平気だよ!』

 そこへ返事を書くと、またノートがやって来て、

『何かあったら相談してね』

 にっこりマークと一緒に、優しい笑みをくれた。
 うなずきながらも、勝手な時ばかり頼れないと心につぶやく。どうしても、申し訳ない気持ちが優先してしまう。
 また何かを書いていると思ったら、下に付け足された文字があった。

『また乙谷さんのカフェ行きたいから、今度付き合ってくれない?』

 うんと首を動かした表情は、きっと隠しきれていなかったと思う。目尻や頬、唇からあふれる喜びの証拠を。