花咲く君は、いつか透明なハナになる

 恋って、華やかでわくわく弾けるような感情だと思ってた。
 こんなに胸が苦しくなるものだなんて、知らなかったよ。


 体調が悪いと乙谷部長へ連絡を入れて、部活を休んだ。
 こんな状態では、みんなに会えない。あれこれ聞かれるに決まっている。
 家へ帰るなり、「おかえり」と顔を向けたお母さんが絶句して。口元を押さえながら、

「はなー! おめでとう! お母さんと一緒の純白じゃない。さすが我が娘ねぇ」

 これでもかというくらい強く抱きしめられて、なんだか照れくさくなる。
 やっぱり、お母さんも花が咲いて欲しかったんだ。
 畳の部屋で昼寝をするふーちゃんを横目に、隣接するリビングで二人肩を並べる。
 ソファーに座って、お母さんが出してくれたクッキーを手にした。人形のカタチをした少し不恰好なクッキー。花冠とワンピースの模様に見覚えがある。

「これ、お母さんが作ったの?」
「そうよ。華が小さい時、よく一緒に作ったの。覚えてる?」

 こくんとうなずきながら、ひとくち頬張る。バターと卵の香りが広がって、懐かしい味がした。

「華が小学三年生の時ね、学校から帰ってくるなり、好きな人が出来たー! って叫んだの覚えてる?」
「ええ? そんなことあった? でも私、花咲いたことないよね?」

 うんと笑いながら、お母さんはクッキーを手にする。

「よくよく聞いたら、恋したのは友達でね。よっぽど嬉しかったのか、自分のことみたいにはしゃいでて。その子が相手の男の子にお菓子をあげるらしいから、私も友達にあげるって言うの。お祝いだからって」
「そんなこと言ってたんだ。全然、記憶にないなぁ」

 サクッと音を立てて、ハッとよみがえる。
 このクッキーは、花姫だ。誰かにあげたことがある。可愛くラッピングをして、渡した。
 その子が幸せそうに笑うのを見て、恋をしたらこんなに可愛くなれるんだと羨ましくなった。
 誰でも花姫になれるんだと、子どもながらに胸を膨らませたことを思い出した。

「で、友達の恋に喜んでた華が。花を咲かせたのに、どうして浮かない顔してるの?」

 勘付かれないと思っていた。普段通りにしているつもりだったから。
 クッキーを持つ手に、ポタポタと水の玉が落ちる。止まれ、と瞬きをするたびに、粒は大きくなっていく。

「先輩……咲かせちゃった。やだ、他の子……好きになってほしくない」

 涙まみれの顔を、優しく手がそっと抱き寄せる。
 そっかそっかと撫でられた頭は、悲しみを紛らわすように温かくて。もっと目頭を熱くする。

「花が好きだった花姫も、悩んで毎晩泣いてたっけ。いろんな感情を知って、みんな強くなるの。気が済むまで、今はいっぱい泣けばいいよ」

 我慢出来るはずなのに。おかしいな。
 最近、気持ちが隠せなくなっている。