花咲く君は、いつか透明なハナになる

 休み明けの学校。ひと気のないトイレで鏡を覗き込む。一向に花が咲く気配はなく、今日も変わらぬ姿をしている。
 もしかしたらと思ったのに、この蕾からは開こうという意欲が感じられない。
 接着剤でくっつけられているのかと問いたくなるくらい。
 姫先輩に対して生まれた感情は、単なる思い過ごしだったのかな。
 ちょこんと膨らみに触れてみて、おーいと話しかけてみる。

「でも、君のおかげで先輩と仲良くなれたんだもんね。悪いことばっかじゃないね。感謝してるよ」

 ツーンと触って、鏡の前で微笑んで、側(はた)から見たら変な人だ。
 でも、いいの。ちょっとだけ分かったから。
 人と比べなくていい。自分なりに歩いていけば、みんなが見落としてしまう景色を見つけられるかもしれないって。

 まだ誰もいない放課後の部室。換気のために窓を開けると、少し離れたところに姫先輩を見つけた。
 木の陰に突っ立って、何してるんだろう。
 おーいと手を振ろうとして、上げかけた手をゆっくり下ろす。

 女の子と一緒だった。
 ふわっと髪が長くて可愛らしい子。スカーフの色が白だから、たぶん三年生だ。
 話の内容は聞こえないけど、楽しそうに笑っている。

 なんだ、他の子の前でもああいう顔するんだ。
 窓を閉めようとした時、少しの違和感を覚えた。あれ、いつもと何かが違う。


 ーーあっ。
 姫先輩の耳元には、目を惹くような青い花が咲いていた。

 そっか……姫先輩、咲かせちゃったんだ。

「先、超されちゃったかぁ」

 背を向けてうつ向くと、ぽたりと何か熱いものが落ちた。
 あふれ出る涙が止まることなく、チクチクと胸を刺す痛みはどこから現れたのか分からない。

「あれ? なに、これ。意味……分かんないよ」

 ふわりと鼻をくすぐる可憐(かれん)な香り。視界に入った小さな花は、白くて可愛らしい形をしていた。
 あれだけ意気込んで頑張っていたのに、こんなにあっけなく咲くなんてバカみたい。
 ズルズルと流れるように床へうずくまって、動けなくなる。


 ーー姫先輩が、他の女の子に恋をした。