花咲く君は、いつか透明なハナになる

 エレベーターが止まったのは、六階。ここは患者さんが入院しているフロア。誰かのお見舞いに来ていたのかな。
 病気で通っているかもしれない予感が外れて、少しだけほっとする。
 でも、誰かは体調が悪くてここにいるのだから、今の安心は取り消さなくては。
 病室の前に立った姫先輩が、「話、合わせて」とだけ言ってドアを開けた。

「おお……、響(きょう)! よく来たな。待っとったぞ」

 ベッドから上半身を起こしたのは、白髪でしわだらけの頬をさらにくしゃけて笑うおじいさん。
 腕には点滴が繋がっているのに、大きな手ぶりをして話すから管(くだ)がゆらゆらと揺れている。

「じーちゃん。俺が来るまでちゃんと大人しくしてたか? またダダこねて、看護師さん困らせてねーよな」
「なぁーにを言うか。病人扱いするなと言っとるのに、針ばっか刺しおるで。こんなもん、わしにはいらんのだ」

 ぷいっとそっぽを向く姿が、ふーちゃんの拗(す)ねる時と似ていて、ぷっと吹き出してしまう。
 あっ、とした顔でこちらを見ながら、おじいさんが重そうなまぶたを細めて。

「こりゃあ大変だ。このべっぴんさんは、どちらさんだ?」

 なぜか背筋がぴんと伸びて、身が引き締まる。何か、話さないと。そうだ、とりあえず自己紹介。

「初めまして。後輩の大(おお)……」
「この子が華。俺の、彼女」

 ……カノ……ジョ?

 頭の中で何度もリピートされる聴き慣れないフレーズ。

「おお、この子か! 華ちゃん、いやぁ~会えて良かった」

 がっしりと握られた手に、おどおどしつつ笑みを作る。何がなんだか、状況が分からない。
 姫先輩の横顔へ視線を送りながら、ついさっきの言葉を思い出す。病室の前で言っていた『話、合わせて』とは、このことだったの?

「え、えっと……大路……華です」

 流されるように名乗るけど、胸の内はもんもんとしている。彼女って、カノジョって……なに⁉︎

「そうか、そうか。やっぱり響はわしの孫だな。昔のわしに、よう似とる」

 ガハハと笑うおじいさんの耳に、しおれた茎がぶら下がっている。
 歳を取ると、色素が吸収されてなくなるものだと思っていた。

「……お前さんも花、咲いとらんのか」