花咲く君は、いつか透明なハナになる

 ーーブブブ。スカートに入っているスマホのバイブが鳴って、なんとなしに画面を見た。少しでも気が紛れるかと思って。

『はなー! ふぶきがまた風邪こじらせた。いつものだと思うけど、一応病院行くから。ごめんね。鍵持って……』

 表示された文字を最後まで確認することなく、ロック画面は暗くなる。
 あーあ、また家にひとり。風吹(ふぶき)の心配が過ぎるより先に、自分勝手な感情が押し寄せてくる。そんなみにくい自分がきらい。


「家、行ってもいいですか」

 ぴしゃぴしゃと水の跳ねる音がして、白いスニーカーを黒く汚す。

「家って、俺ん家(ち)?」

 こくんと首だけを動かすと、なんでとあきれたような声が返ってきた。


「帰りたくない気分なんで」

 わがままを言っていることは、痛いほど分かっている。
 自分の家を通り越してまで送ってくれて、予定があるかもしれない姫先輩に迷惑をかけていることも承知の上で、言った。

 ーー我慢するばっかが、正解じゃないだろ。

 帰ったら、お母さんに話そうと思っていたこと。ぜんぶ無理になってしまったから。この気持ちをどうしたらいいのか、迷子になった。


「……こっち」

 ぐいっと引っ張られた腕。来た道をしばらく引き返して、交差点で右折する。
 やっぱり通り過ぎていた。そんなことを思っていると、少し先に市立(しりつ)病院が見えてきた。
ふーちゃんがいつも入院しているところ。
 姫先輩の家って、こんな方向だった?
 そのまま進んでたどり着いたのは、市立病院の入り口。戸惑う腕を引いて、我が物顔で入ろうとするから。

「なんで?」

 自動ドアの手前で立ち止まる私に、いいからと中へ促(うなが)す。

「帰りたくないんだろ? じゃあ、ちょっと付き合え」
「えっ、でも。ここって」
「俺が部活休む理由。特別に教えてやるから」

 上りのエレベーターに乗りながら、頭の中はハテナでいっぱい。
 姫先輩が定期的に部活を休んでいるのは、ただのサボり癖ではなかった。
 ちゃんとした理由があるのに、言えなかったの?

 病院ってことは、まさかーー。