翌朝、教室へ入るなり彩葉ちゃんが駆け寄って来た。耳元で可愛らしく咲く黄色い花を揺らしながら、私の両腕を掴む。
「華ちゃん、聞いてよ! 実は、例の人と付き合うことになったの!」
「ええ! おめでとう! どっちから告白したの?」
「なかなか言ってくれないから、私からしちゃったよ」
「彩葉ちゃん、すごい」
気になっている人と連絡先を交換して、一カ月ほどやり取りをしていると聞いていた。向こうも気がなければ、毎日連絡もしないだろうとは話していたけど。彩葉ちゃんは勇気がある。
頑張ったね、なんて偉そうに言いながら、私は恋すらしたことがない身分。少し羨ましく思った。
席へ着くとすぐ、隣に座る高嶺くんが声を掛けて来た。
「大路さん。悪いんだけど、現文の教科書忘れちゃって。一緒に見せてもらえるかな?」
申し訳なさそうに形の綺麗な眉を下げる彼に、いいよと返す。
高嶺くんが忘れ物をするなんて珍しい。
頭が良くて、おまけに顔もカッコいいから高嶺くんはクラスで人気がある。そんな彼と隣になれただけでもラッキーだと言われていたのに、まさか机をくっ付ける日が来るとは思わなかった。
今の会話を隣で聞いていた彩葉ちゃんが、こつんと私の腕を突いて。
「やったね」
ニヤリと笑いながら、自分の場所へ戻って行く。うんと笑い返したけど、イマイチ分かっていなかったりする。好きじゃなくても、イケメンだからと喜ぶものなのかな。
一限目の現代文の授業中。いつもより近い距離にある高嶺くんの席。肩が触れるとまではいかないけど、まとう空気が彼を感じさせている。
あれだけ姫先輩と接近して咲かない花に、少しばかり期待してしまう。
高嶺くんのことを好きになったら、みんなみたいに蕾が開くかもしれない。
先生が朗読をして、教科書の文字を目で追うたびヒジが当たる。少しドキドキするけど、花は開かない。
「大路さん」
また体が近付いた時、隣から名前を呼ぶ声がした。いかにも美少年が浮かぶ綺麗な音色で。
「あのさ、今日の放課後、空いてる?」
「放課後……は、ちょっと用事があって」
言いながら姫先輩の顔が頭をよぎった。人を小馬鹿にするような笑みを、脳内から素早く消す。
「そっか、残念」
眉を下げて落とされた言葉は、きっと私たちにしか聞こえていないほどの小さな声。さらに顔を寄せる高嶺くんに、思わず胸が鳴る。いくらなんでも近いよ。肩が当たりそうだ。
「いつも部活終わり、姫川先輩といるよね。もしかして、今日も約束してるの?」
「えっと……約束と言うか、うん」
詳しく話せないのが心苦しい。まさか、花を咲かせるために付き合ってもらっているなんて恥ずかしいこと、口がさけても言えない。
そっかと前を向く高嶺くんの耳下には、綺麗なラベンダー色の花が凛と顔を出している。
一度でも恋をしたことがある人は、花びらが閉じ切らずに少し開いた状態になるの。今恋をしている人は三分咲きになって、感情が強くなるにつれて五分、七分と広がりが大きくなっていく。
こんなかっこいい人が好きになる子って、どんな子なんだろう。
うす紫の花をちらりと見ながら、脱力のため息が出た。
「華ちゃん、聞いてよ! 実は、例の人と付き合うことになったの!」
「ええ! おめでとう! どっちから告白したの?」
「なかなか言ってくれないから、私からしちゃったよ」
「彩葉ちゃん、すごい」
気になっている人と連絡先を交換して、一カ月ほどやり取りをしていると聞いていた。向こうも気がなければ、毎日連絡もしないだろうとは話していたけど。彩葉ちゃんは勇気がある。
頑張ったね、なんて偉そうに言いながら、私は恋すらしたことがない身分。少し羨ましく思った。
席へ着くとすぐ、隣に座る高嶺くんが声を掛けて来た。
「大路さん。悪いんだけど、現文の教科書忘れちゃって。一緒に見せてもらえるかな?」
申し訳なさそうに形の綺麗な眉を下げる彼に、いいよと返す。
高嶺くんが忘れ物をするなんて珍しい。
頭が良くて、おまけに顔もカッコいいから高嶺くんはクラスで人気がある。そんな彼と隣になれただけでもラッキーだと言われていたのに、まさか机をくっ付ける日が来るとは思わなかった。
今の会話を隣で聞いていた彩葉ちゃんが、こつんと私の腕を突いて。
「やったね」
ニヤリと笑いながら、自分の場所へ戻って行く。うんと笑い返したけど、イマイチ分かっていなかったりする。好きじゃなくても、イケメンだからと喜ぶものなのかな。
一限目の現代文の授業中。いつもより近い距離にある高嶺くんの席。肩が触れるとまではいかないけど、まとう空気が彼を感じさせている。
あれだけ姫先輩と接近して咲かない花に、少しばかり期待してしまう。
高嶺くんのことを好きになったら、みんなみたいに蕾が開くかもしれない。
先生が朗読をして、教科書の文字を目で追うたびヒジが当たる。少しドキドキするけど、花は開かない。
「大路さん」
また体が近付いた時、隣から名前を呼ぶ声がした。いかにも美少年が浮かぶ綺麗な音色で。
「あのさ、今日の放課後、空いてる?」
「放課後……は、ちょっと用事があって」
言いながら姫先輩の顔が頭をよぎった。人を小馬鹿にするような笑みを、脳内から素早く消す。
「そっか、残念」
眉を下げて落とされた言葉は、きっと私たちにしか聞こえていないほどの小さな声。さらに顔を寄せる高嶺くんに、思わず胸が鳴る。いくらなんでも近いよ。肩が当たりそうだ。
「いつも部活終わり、姫川先輩といるよね。もしかして、今日も約束してるの?」
「えっと……約束と言うか、うん」
詳しく話せないのが心苦しい。まさか、花を咲かせるために付き合ってもらっているなんて恥ずかしいこと、口がさけても言えない。
そっかと前を向く高嶺くんの耳下には、綺麗なラベンダー色の花が凛と顔を出している。
一度でも恋をしたことがある人は、花びらが閉じ切らずに少し開いた状態になるの。今恋をしている人は三分咲きになって、感情が強くなるにつれて五分、七分と広がりが大きくなっていく。
こんなかっこいい人が好きになる子って、どんな子なんだろう。
うす紫の花をちらりと見ながら、脱力のため息が出た。



