花咲く君は、いつか透明なハナになる

 ぽつぽつと冷たい水が降ってきて、頬を伝っていく。
 朝のニュースで、午後から天気が崩れると言っていたのをすっかり忘れていた。折りたたみ傘、入れておいたら良かった。
 バサッと開かれた黒い傘。濡れた肩を覆うように、隣から斜めに伸びてくる。

「えっ、私はいいですよ! これくらいの雨、へっちゃら……」
「あのなぁ、となりの女子が雨ざらしになってる俺の身にもなれ」
「は、はい」

 ……女子。まさかの単語にびっくりした。
 姫先輩って、私のことを一応女子だと認識していたんだ。
 同じ歩幅で歩きながら、かばんを握る手が湿(しめ)り出す。
 一人用の傘に二人で入ると、いつもより距離を縮めなければならない。

「離れすぎじゃね? もっとくっ付けよ、意味ねぇから」
「だから、もういいって言ってるのに。先輩の道、ぜったい過ぎてますよね?」
「……まだ。今日はこっちに用があんの」

 とか言って、絶対に嘘だ。あきらかに駅から遠ざかっている。
 迷惑かけちゃいけないと分かっているのに、足はどんどん前へ進む。甘くて優しい傘から、出ることが出来ない。

「あのさ、高嶺、どうなった?」
「……断りました。でも、友達でいてくれるって」

 少し間をあけて、そうとだけ反応がくる。お互いに正面を向いているから、どんな表情かは見えない。
 やっぱり、高嶺くんが話したのかな。
 もやもやとした空気が、胸の奥から湧き上がってくる。
 花が咲いてなくても、私だって恋の話くらいするよ。彼氏とのノロケ話も聞くのに。
 相談された時は、的確なアドバイスは期待しないでほしいけど。
 雨が強くなるにつれて、心にかかる雲がどんよりしていく。
 ぜんぶ、自業自得(じごうじとく)。上手く恋の話に入れなかったから、すべて自分がまいた種。