花咲く君は、いつか透明なハナになる

「まだ十四だろ? 好きなヤツ出来ないなんて、そんなの普通。こう考えたことねーの?」

〝みんなが走って先を行ってるだけ。
 俺らは、ゆっくり道草しながら歩いてる。だから他の奴らが恋にうつつを抜かしている間、違う景色を見つけて楽しめる〟

 頭を過ったこともなかった。置いていかれているとばかり思って、みんなの背中しか見ていなかったから。

「十四歳って、まだ子ども?」
「当たり前だろ。酒もタバコも出来ねーし」
「じゃあ、いつから大人なの? 甘えちゃいけなくなるのは、何歳から?」

 ーー華は、大丈夫だもんね。もう中学生のお姉さんだから。

 お母さんがいなくても、しっかり頑張れるね。
 小学校を卒業した時。ネイビーのスーツを着たお母さんは、まだ一歳になる前の風吹を抱えて笑って言った。
 卒業おめでとうのあとに、よく勉強も頑張ったと褒められて、付け足しのように呪文が唱えられたの。
 ふーちゃんはお母さんがそばにいないと生きていけなくて、仕事が終わってからはずっと付きっきり。
 宿題を見て欲しくても、あとにしてと言われたきり忘れられて。そのままひとりで解決することも少なくなかった。

 頻繁に入院するようになってからは、一週間会えないのなんてざらにあって。
 たまに顔を見ても、忙しそうにしているから私が引くしかない。

 ほんとはーー、もっと話したい。学校どう? って聞いてもらいたい。私のことも、抱きしめて欲しい。

 ガタンと机が動く音がして、視界が真っ暗になった。
 目の前は甘い香りが充満して、頭に乗っかる手のひらが優しく髪を撫でる。

「甘えたい時に、甘えたらいいんじゃね。大人になったって、泣きたいときは泣けばいいし」

 目頭が熱くなって、顔を埋めた白いシャツにシミが浮かび上がる。
 姫先輩って、すごく優しい匂いだ。全てを包み込んでくれるような、不思議な空気。
 ずびっと鼻をすすって、ゆだねていた体をそっと離す。

「誰かを好きになったら、何か変わるかなって思ってたんです。特別なものができて、誰かの特別になれたら……自分のことも好きになれるかなって」

 高嶺くんに告白されて、ドキドキして、恋ってこんな感じなのかなって漠然(ばくぜん)と考えた。
 付き合ったら、好きになれるかもしれないなんてーー。