花咲く君は、いつか透明なハナになる

「で、これからどうすんだよ」

 二人きりになった部室に鍵を掛けて、姫先輩がくるりと振り向いた。ほのかに甘い香りが漂う。
 逃げ道はないと言わんばかりに、学ランのポケットに鍵を忍ばせて、無愛想な瞳が覗き込んだ。

「……どうするって」
「やんの? それともやめんの?」
「や、や……」

 そこまで話して、ようやく花咲きレッスンのことだと分かった。
 ああ! という表情が出ていたのだろう。ぱんっと手のひらを叩いた時には、両頬をむにゅっと押しつままれていた。

「おーおーじー! もう花咲かせる気ねーだろ」
「ありまふ! ありまふ! ご、ごめんなふぁい」

 鳥のくちばしみたいな唇を必死に動かしながら、姫先輩の腕を掴む。
 すっごく変な顔になってる。いい加減にやめてもらいたいけど、意外と力が強くて手が下ろせない。

「ふぇんふぁい?」

 いつにない真面目な瞳があって、胸からドキッと音が鳴った。スズメの涙ほどの大きさで。

「あお……ほろほろはゆしちゅほひーでふ」
「……ぷっ、悪い」

 離れた指先は私の頭をくしゃっとして、もう一度じっと見つめてくる。今度は何かを確認するように。

「うん、やっぱ王子は王子だわ」
「どういう意味ですか」
「いつものお前で安心したってこと」
「……それ、褒めてます?」
「うん」

 そうそうと、あしらうように笑ってみせる。
 適当だなぁと髪を直しながら、少しだけ頬が緩んだ。

「まあ、花なんて無理に咲かせることねーし。やめればいいと思うけど」

 かばんのファスナーを閉めて、姫先輩が帰る支度をする。

「……なんで。なんでそんなに、冷静でいられるんですか? みんなから遅れてるって、陰口言われてること知りませんか? 恋をしたことがない人は、人の感情がないらしいですよ」

 ギュッと握ったこぶしに、力がこもる。
 クラスメイトも、家族や先生も直接は言ってこない。いつか咲く日が来るから大丈夫だよって、笑って話す。

 でも、心の中では思っているんだ。

 ーー私が華ちゃんじゃなくて良かった。誰かを好きになることが出来ない可哀想な子。
 あの子は、人の気持ちが分からない人間なんだーーって。