花咲く君は、いつか透明なハナになる

 ほどよく人の混み合うオープン型のショッピングモール。ガラスの橋を歩いて、別館にある映画館へ辿り着いた。

「ちょ……っと、先輩? 何して……」

 自動券売機の前で腕を組みながら、どれにするかとにらみ合っている。
 広い背中の後ろで、天井を見渡しながら思わずため息を吐いた。
 幻想的なジ◯リのイラストが全面に描かれていて、なんだか吸い込まれそう。

「ミッション・アルティメットか、泣きたい猫は時をかける。どっちが面白そう?」
「ええ? うーん、ミッションですかね」
「意外だな」
「青春SFも好物ですけど、昔からドンパチよく見てたんで」

 とりあえず問われたことに答えると、ふーんと反応しながら、チケットを買うことなく映画館を出ていく。
 振り返って、もう一度別世界にある天井と壁を見た。遠退いていく背景は、美しすぎて現実味はない。
 見ようとしたわけじゃなかったんだ。何がしたかったんだろう。

 本館へ戻って本屋へ入った。天井までぎっしりと並んだ本棚に圧倒されながら前へ進む。
 初めて来たけど、未知の世界に迷い込んだみたい。
 集めているコミックの新刊が出たとかで、姫先輩は一冊手にしてスマホを見てから、もう一冊を上に重ねる。
 普段読まない少年系の絵柄に面白いのかなぁと首を傾げていると、目の前に綺麗な表紙が飛び込んできた。

「比較的女子ウケ良いし、たぶん王子も好きなヤツ」

 パラパラとページを巡ってみると、たしかに惹かれる内容だった。
 ミアンという神様の女の子が現れて、マコトという男の子と旅をしながら自分を見つめ直していく。
 二人の掛け合いはユーモアがあふれていて、気付くと頬が上がっていた。

 この男の子、意地っ張りで口が悪くて、いつもやる気がない。わがままなミアンに振り回されてばかり。
 なんだか既視感(きしかん)がある。誰かに似ているような……。
 クスクスしていたら、隣に立つ姫先輩が漫画を覗き込んで。

「そいつ情けなくて面白いだろ」なんて言うものだから、余計に笑いが抑えられなくなった。
「この子って、せんぱ……」
「その神様、王子にそっくり」

 言いかけた言葉が喉の奥へ引っ込んだ。
 ミアンと私なんて、全く頭に過らなかったからハテナを頭に浮かべていると。
 ははっと楽しそうな笑い声を上げながら、

「自分のことばっかで、周り見えてねーの。信頼されるようになりたいって突っ走って、そんなん他は求めてないのにさ。それで失敗して、バカすぎだろ」

 マイナスな事しか言われていないことに気付いて、唇がムムッと尖っていく。それで似ていると口に出せてしまうあたり、やっぱりこの人はデリカシーがない。

「だから、この神様にはこいつが必要なんだよ」
「……え?」
「マイナスとマイナスは足してプラスだろ。どっちもいないと意味がない。二人の掛け合いがねーと、この漫画の面白みが欠けるからな。最高のコンビじゃね?」

 灼熱(しゃくねつ)の太陽を浴びたように、なぜか顔が熱くなる。
 いやいや、漫画の話だってば。それに、姫先輩が勝手にそっくりって言ってるだけだから。私はミアンじゃないし……。
 恥ずかしくなって、持っていた漫画を元の位置へ手放した。
 私が勝手に似てると思っただけだから。姫先輩はマコトじゃない。


『神様にはこいつが必要なんだよ』


 決して、自分に向けられた言葉ではないと分かっていても、体は嘘を付けないらしい。
 真冬のキャンプで温かいスープを飲んだ時みたいに、頬の緩みが止まらない。