突然大きな音が響いて、思わず隣にいる高嶺くんの腕へしがみついた。しかも変な奇声を上げて、死ぬほど恥ずかしい。
ごめんと慌てて離れるけど、心臓はバクバクと速く動いている。
風の音だろうけど、不気味な音色を奏でて止まない。夜の学校と暗闇というシチュエーションが恐怖に拍車をかける。
遠くから電話のコール音も聞こえる気がして、ごくりと喉が鳴った。
まさかーー、うちの学校に限って幽霊とか……出ないよね?
震え出した手の上に、大きな温もりが伝わってくる。優しく握られた手の感触に、一瞬で頬が熱くなった。
どうしていいか分からなくて、電源の落ちたロボットみたいに動けなくなる。
「実は僕、小さい頃は暗いところが苦手で。大雨とか台風が来る日は、いつも姉さんに手を繋いでもらってた」
「高嶺くんが? 想像……つかない」
「情け無いでしょ。風を止めてくれるわけでもないのに、ひとりじゃないって思うと安心出来た。人の肌って不思議だよね」
ほんとうに不思議。初めは熱を帯びていた手が、今は柔らかな陽だまりのように思える。
怖いことに変わりはないけど、安心するというか。高嶺くんがいるから、大丈夫だって言い聞かせられた。
ゆっくりまぶたが閉じていき、夢の中に迷い込む。
花に囲まれた世界で、優しく笑いかける口元が映る。おひさまの光で顔がはっきり見えない。
王子さまのようなこの人は、誰なのだろう。
木漏れ日を浴びたような眩しさと、小鳥のさえずりで目が覚めた。あと、誰かが名前を呼ぶ声も。
「……あの、大路さん……、起きて」
鼻も頬もくすぐったい。ねこじゃらしで遊ばれている猫の気持ちが、今なら少しだけ分かる気がする。
まだ開き切らない瞼を持ち上げて、ゆっくり瞬きをした。
今日も藤色の花が綺麗だなぁ……なんてのん気に思って、ーーハッと気付く。
「おはよう。ちゃんと眠れた?」
すぐ耳元で広がる穏やかな声に心臓を揺さぶりながら、「おかげさまで!」と距離を置く。
腕なんか絡めて、高嶺くんの肩にうずくまって寝ていたとは、自分の無意識行動に恐怖を感じる。
「あの、ごめ……」
バフンと頭に何かが乗っかって、少しだけ体勢が沈んだ。長方形の底、おそらく通学カバン。
「おーそーよう」
真上から聞き覚えのある声がする。顔を見なくても、すぐに分かった。
「なんで、姫先輩がーーうわっ!」
とたんに腕を引き上げられて、姫先輩の胸に鼻が埋まる。体を離した時には、高嶺くんが立ち上がって二人の間に挟まれていた。
「こんなところで何してんの?」
「勉強してたら、閉じ込められたんです」
「へぇー、スマホは?」
「充電なくて」
「ふーん」
目の前を飛んでいく吹き出しを交互に見ながら、たらりと冷や汗を流す。
なにやら刺々しい空気が立ち込めている。間に入ったならば、彼らの火花で焦げてしまいそう。
そもそも、まだ七時三十分じゃない。生徒が登校するには早過ぎる。
どうして姫先輩が、こんな時間に図書室へ来たのだろう。
行くぞと手を引いて歩く背中が、少し不機嫌に映った。振り向いた先の高嶺くんは気まずそうに横を向いていて。
もしかしたらーーというただの想像は、一層色を強めていく。
知り合いのような口ぶりだったし、たぶん二人は仲が良くない。
ごめんと慌てて離れるけど、心臓はバクバクと速く動いている。
風の音だろうけど、不気味な音色を奏でて止まない。夜の学校と暗闇というシチュエーションが恐怖に拍車をかける。
遠くから電話のコール音も聞こえる気がして、ごくりと喉が鳴った。
まさかーー、うちの学校に限って幽霊とか……出ないよね?
震え出した手の上に、大きな温もりが伝わってくる。優しく握られた手の感触に、一瞬で頬が熱くなった。
どうしていいか分からなくて、電源の落ちたロボットみたいに動けなくなる。
「実は僕、小さい頃は暗いところが苦手で。大雨とか台風が来る日は、いつも姉さんに手を繋いでもらってた」
「高嶺くんが? 想像……つかない」
「情け無いでしょ。風を止めてくれるわけでもないのに、ひとりじゃないって思うと安心出来た。人の肌って不思議だよね」
ほんとうに不思議。初めは熱を帯びていた手が、今は柔らかな陽だまりのように思える。
怖いことに変わりはないけど、安心するというか。高嶺くんがいるから、大丈夫だって言い聞かせられた。
ゆっくりまぶたが閉じていき、夢の中に迷い込む。
花に囲まれた世界で、優しく笑いかける口元が映る。おひさまの光で顔がはっきり見えない。
王子さまのようなこの人は、誰なのだろう。
木漏れ日を浴びたような眩しさと、小鳥のさえずりで目が覚めた。あと、誰かが名前を呼ぶ声も。
「……あの、大路さん……、起きて」
鼻も頬もくすぐったい。ねこじゃらしで遊ばれている猫の気持ちが、今なら少しだけ分かる気がする。
まだ開き切らない瞼を持ち上げて、ゆっくり瞬きをした。
今日も藤色の花が綺麗だなぁ……なんてのん気に思って、ーーハッと気付く。
「おはよう。ちゃんと眠れた?」
すぐ耳元で広がる穏やかな声に心臓を揺さぶりながら、「おかげさまで!」と距離を置く。
腕なんか絡めて、高嶺くんの肩にうずくまって寝ていたとは、自分の無意識行動に恐怖を感じる。
「あの、ごめ……」
バフンと頭に何かが乗っかって、少しだけ体勢が沈んだ。長方形の底、おそらく通学カバン。
「おーそーよう」
真上から聞き覚えのある声がする。顔を見なくても、すぐに分かった。
「なんで、姫先輩がーーうわっ!」
とたんに腕を引き上げられて、姫先輩の胸に鼻が埋まる。体を離した時には、高嶺くんが立ち上がって二人の間に挟まれていた。
「こんなところで何してんの?」
「勉強してたら、閉じ込められたんです」
「へぇー、スマホは?」
「充電なくて」
「ふーん」
目の前を飛んでいく吹き出しを交互に見ながら、たらりと冷や汗を流す。
なにやら刺々しい空気が立ち込めている。間に入ったならば、彼らの火花で焦げてしまいそう。
そもそも、まだ七時三十分じゃない。生徒が登校するには早過ぎる。
どうして姫先輩が、こんな時間に図書室へ来たのだろう。
行くぞと手を引いて歩く背中が、少し不機嫌に映った。振り向いた先の高嶺くんは気まずそうに横を向いていて。
もしかしたらーーというただの想像は、一層色を強めていく。
知り合いのような口ぶりだったし、たぶん二人は仲が良くない。



