肇と正式に復縁した日から、ラブラブイチャイチャモードに突入した。
……わけない。
肇が日本を発つまで一ヶ月を切ってしまい、俺の仕事をフルリモートに調整するための手続きや、現地の単身者向けの借家を変更する手続きなど、お互い忙しく準備をしていた。
今住んでいる家の解約なども含めて、俺自身は肇の一ヶ月遅れで向かうことになった。
「本当にごめんな?」
「え?なにが?」
「仕事とか、その他諸々。いろんなことが急に変わるし……」
「まぁ。思ってたよりは、大変だな」
「……だよね」
「でも、もう離れないんでしょ?」
「う、うん!それは絶対離れない」
「なら、頑張れるからいい」
俺の言葉を聞いて、肇が背後から抱きしめてくる。
「はぁー……。もはや、一ヶ月の遠距離でさえ、耐えられないかも」
「ははっ。なんか、ほんと肇、変わった」
「なんだよ。嫌かよ。渚だって、時々口悪くなるじゃん」
「え、なにそれ」
「お互い前より変わったってこと」
「ふふ。まぁ、それはそう」
「あ!」
「なに?」
「俺、引っ越す前に渚と行きたいところある」
「じゃ、明日あたり行く?」
「うん、そうしよう」
少しずつ荷物を詰め、生活感が薄まっていく部屋を見て、本当に俺たちの人生が変わっていくのを実感する。
次の日。
十時過ぎに目を覚まして支度を済ませる。
「朝ごはんは、どっかカフェでいい?」
「うん。あ!それ」
「ん?どうした?」
「そのピアス、してるんだなって」
肇の耳には、この前返したピアスがついていた。
「これ、結構大事なやつだったんだよ」
「へー。高級ってこと?」
「いや、そうじゃなくて。渚の誕生石だから」
「へ……?え!」
「ふふふ。俺は思ってるよりも、ロマンチストで重たい男ってわけ」
「うわ……」
「おい!」
「あははは。冗談、冗談」
「あの時もさ、本当はもう一度会えないかなって思ってたから。郵送されなくて良かったわ」
「え?そうなの?」
「いや、一応さ。俺、元カレだし。今カレに悪い気もしたから」
「ふは、そっか」
「はぁー……。なんか腹立つなぁ」
「まぁ、結局俺から直接渡したいって連絡したんだから。結果オーライ?」
「あは。まぁ、そうだな」
肇といると、本当に楽しくて、常に笑っている気がする。
近くのカフェで朝ごはんを食べながら、肇にこの後の予定を聞く。
「で、今日はどこにいくの?」
「えー、まだ言わないでおくわ」
「え?なにそれ」
「んー。なんか、渚に言ったら素直についてきてくれない気もする」
「こわ……。そんなところに連れてくのかよ」
「まぁまぁまぁ。とりあえず、お願い」
「……逃げる準備はしとく」
二人でクスクス笑いながら、カフェを出た。
電車に乗り、あまり降りたことのない駅で降りる。
「ここって、高い店しかなくね?」
「まぁ、そうね。じゃあ、行こう」
肇は人混みの中を、予習済みかのようにすり抜けて歩いていく。
ついていくのに必死になっていると、肇が急に足を止めた。
目線の先には、ジュエリーショップがあった。
「え……、ここ?」
俺の戸惑いをよそに、肇に手を引かれ店に入る。
予約をしていたのか、店員に奥の個室へ案内され、パッドを見ながら商品の説明が始まった。
「今回、結婚指輪ということですが。なにかご希望はありますか?」
「そうですね。俺たち男同士なんで、シンプルなやつで。でも、特別感も欲しいかな?」
俺の隣で、ぎこちなくも店員と話す肇。
「では、いくつか持ってきますね。その間、こちらのパッドで他の商品もご覧になってお待ちください」
一度店員が出て行き、部屋には俺たち二人になる。
やっと状況を理解した俺が口を開く。
「ちょっ、……こういうことは、事前に相談して!」
「ごめん。でも、もし嫌って言われたら、立ち直れる気がしなかったから……」
「……別に、言わないよ」
「俺が先に行くから、その前に形として渡したかったんだよ」
「……でも」
「じゃあさ、お互いに送るか」
「……それなら、まぁ」
照れ臭くて、ついそっけない返事をしてしまう。
店員が戻り、男性にも馴染みやすいシンプルなデザインを見せてくれる。
「ちなみに、これって内側とかに好きな石を埋めたりできますか?」
俺が聞くと、店員が手袋をはめた手で三つほど、違うトレーに移動した。
「ご希望に添えるデザインですと、この三つになってしまいますね」
店員が差し出したトレーの中には、第一印象からいいと思っていたデザインがあった。
隣で聞く肇の顔を見ると、同じものを見つめている気がした。
「あのさ、俺的にこれいいと思うんだけど」
「俺も!それいいと思ってた」
「じゃあ、これにお互いの誕生石入れてもらおう」
「うん」
俺たちの会話を聞き、店員さんが優しく微笑む。
「素敵ですね。とても、いいと思います」
商売の常套句として言った言葉かもしれない。
それでも俺は、祝福された気がして嬉しくなる。
「「じゃあ、これで」」
お互いが納得した買い物ができ、後日、仕上がった指輪を受け取りに行くことにした。
肇が日本を発つ日。
俺の隣で目を覚まし、並んで歯を磨く。
鏡越しに視線が合い、肇が左手を自分の顔の横に持っていく。
左手の薬指には、あの日二人で選んだ指輪がついている。
「俺の渚」
アホみたいな寝癖をつけながら、幸せそうに話す肇。
そんな肇に、同じくらいアホな俺も左手を見せつける。
「俺の肇」
「……ふはは。俺らバカップルすぎ」
「まじで、それ」
歯磨きを終えて着替え終わると、肇が玄関で両手を広げる。
俺はため息混じりに、頬を緩ませながら肇の胸に飛び込む。
「一ヶ月分」
「ん」
「気をつけて来てね」
「うん」
「毎日電話する」
「うん」
「浮気はしないでね」
「肇もね」
「するわけないよ。……渚」
「ん?」
「愛してるよ」
「俺も。愛してる」
「じゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい」
玄関で肇を見送る。
あの時とは、逆で俺は見送る側だ。
でも、もうあの時とは何もかも違う。
これから先、俺たちはどんな時もお互いの幸せを考えて、離れないから。
四年前、たくさん泣いて、苦しくて胸が張り裂けそうだったあの時間さえ、今は必要だったと思う。
……わけない。
肇が日本を発つまで一ヶ月を切ってしまい、俺の仕事をフルリモートに調整するための手続きや、現地の単身者向けの借家を変更する手続きなど、お互い忙しく準備をしていた。
今住んでいる家の解約なども含めて、俺自身は肇の一ヶ月遅れで向かうことになった。
「本当にごめんな?」
「え?なにが?」
「仕事とか、その他諸々。いろんなことが急に変わるし……」
「まぁ。思ってたよりは、大変だな」
「……だよね」
「でも、もう離れないんでしょ?」
「う、うん!それは絶対離れない」
「なら、頑張れるからいい」
俺の言葉を聞いて、肇が背後から抱きしめてくる。
「はぁー……。もはや、一ヶ月の遠距離でさえ、耐えられないかも」
「ははっ。なんか、ほんと肇、変わった」
「なんだよ。嫌かよ。渚だって、時々口悪くなるじゃん」
「え、なにそれ」
「お互い前より変わったってこと」
「ふふ。まぁ、それはそう」
「あ!」
「なに?」
「俺、引っ越す前に渚と行きたいところある」
「じゃ、明日あたり行く?」
「うん、そうしよう」
少しずつ荷物を詰め、生活感が薄まっていく部屋を見て、本当に俺たちの人生が変わっていくのを実感する。
次の日。
十時過ぎに目を覚まして支度を済ませる。
「朝ごはんは、どっかカフェでいい?」
「うん。あ!それ」
「ん?どうした?」
「そのピアス、してるんだなって」
肇の耳には、この前返したピアスがついていた。
「これ、結構大事なやつだったんだよ」
「へー。高級ってこと?」
「いや、そうじゃなくて。渚の誕生石だから」
「へ……?え!」
「ふふふ。俺は思ってるよりも、ロマンチストで重たい男ってわけ」
「うわ……」
「おい!」
「あははは。冗談、冗談」
「あの時もさ、本当はもう一度会えないかなって思ってたから。郵送されなくて良かったわ」
「え?そうなの?」
「いや、一応さ。俺、元カレだし。今カレに悪い気もしたから」
「ふは、そっか」
「はぁー……。なんか腹立つなぁ」
「まぁ、結局俺から直接渡したいって連絡したんだから。結果オーライ?」
「あは。まぁ、そうだな」
肇といると、本当に楽しくて、常に笑っている気がする。
近くのカフェで朝ごはんを食べながら、肇にこの後の予定を聞く。
「で、今日はどこにいくの?」
「えー、まだ言わないでおくわ」
「え?なにそれ」
「んー。なんか、渚に言ったら素直についてきてくれない気もする」
「こわ……。そんなところに連れてくのかよ」
「まぁまぁまぁ。とりあえず、お願い」
「……逃げる準備はしとく」
二人でクスクス笑いながら、カフェを出た。
電車に乗り、あまり降りたことのない駅で降りる。
「ここって、高い店しかなくね?」
「まぁ、そうね。じゃあ、行こう」
肇は人混みの中を、予習済みかのようにすり抜けて歩いていく。
ついていくのに必死になっていると、肇が急に足を止めた。
目線の先には、ジュエリーショップがあった。
「え……、ここ?」
俺の戸惑いをよそに、肇に手を引かれ店に入る。
予約をしていたのか、店員に奥の個室へ案内され、パッドを見ながら商品の説明が始まった。
「今回、結婚指輪ということですが。なにかご希望はありますか?」
「そうですね。俺たち男同士なんで、シンプルなやつで。でも、特別感も欲しいかな?」
俺の隣で、ぎこちなくも店員と話す肇。
「では、いくつか持ってきますね。その間、こちらのパッドで他の商品もご覧になってお待ちください」
一度店員が出て行き、部屋には俺たち二人になる。
やっと状況を理解した俺が口を開く。
「ちょっ、……こういうことは、事前に相談して!」
「ごめん。でも、もし嫌って言われたら、立ち直れる気がしなかったから……」
「……別に、言わないよ」
「俺が先に行くから、その前に形として渡したかったんだよ」
「……でも」
「じゃあさ、お互いに送るか」
「……それなら、まぁ」
照れ臭くて、ついそっけない返事をしてしまう。
店員が戻り、男性にも馴染みやすいシンプルなデザインを見せてくれる。
「ちなみに、これって内側とかに好きな石を埋めたりできますか?」
俺が聞くと、店員が手袋をはめた手で三つほど、違うトレーに移動した。
「ご希望に添えるデザインですと、この三つになってしまいますね」
店員が差し出したトレーの中には、第一印象からいいと思っていたデザインがあった。
隣で聞く肇の顔を見ると、同じものを見つめている気がした。
「あのさ、俺的にこれいいと思うんだけど」
「俺も!それいいと思ってた」
「じゃあ、これにお互いの誕生石入れてもらおう」
「うん」
俺たちの会話を聞き、店員さんが優しく微笑む。
「素敵ですね。とても、いいと思います」
商売の常套句として言った言葉かもしれない。
それでも俺は、祝福された気がして嬉しくなる。
「「じゃあ、これで」」
お互いが納得した買い物ができ、後日、仕上がった指輪を受け取りに行くことにした。
肇が日本を発つ日。
俺の隣で目を覚まし、並んで歯を磨く。
鏡越しに視線が合い、肇が左手を自分の顔の横に持っていく。
左手の薬指には、あの日二人で選んだ指輪がついている。
「俺の渚」
アホみたいな寝癖をつけながら、幸せそうに話す肇。
そんな肇に、同じくらいアホな俺も左手を見せつける。
「俺の肇」
「……ふはは。俺らバカップルすぎ」
「まじで、それ」
歯磨きを終えて着替え終わると、肇が玄関で両手を広げる。
俺はため息混じりに、頬を緩ませながら肇の胸に飛び込む。
「一ヶ月分」
「ん」
「気をつけて来てね」
「うん」
「毎日電話する」
「うん」
「浮気はしないでね」
「肇もね」
「するわけないよ。……渚」
「ん?」
「愛してるよ」
「俺も。愛してる」
「じゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい」
玄関で肇を見送る。
あの時とは、逆で俺は見送る側だ。
でも、もうあの時とは何もかも違う。
これから先、俺たちはどんな時もお互いの幸せを考えて、離れないから。
四年前、たくさん泣いて、苦しくて胸が張り裂けそうだったあの時間さえ、今は必要だったと思う。



