【第5章】#1
宇佐美は知らないのだ。
人に嫌われる事に慣れてはいても、人を嫌う方法までは分からなかった。
それは宇佐美がこれまでの人生で誰も嫌ってこなかったようなお綺麗で優しい人間だからではない。
自分に押し倒されたこの後輩には[[rb:何もされていないから > ・・・・・・・・・・]]である。
無害な人間をどうやって嫌えるだろうか。
嫌う理由なんて毛頭ない。そりゃあいくら宇佐美が遊び歩いていたとしても、それは噂でもない単なる事実であるが、無理矢理押し倒されたり馬乗りになられたりすればそれは流石に嫌な気持ちにはなる。
けれどもこの後輩は、健気に宇佐美に弁当を作ってきたり何もせずただ傍で文句垂れつつも添い寝をしてくれたり、自分にも他人にも正直で、今回だって宇佐美に対しての感情にただ、嘘がつけなかっただけなのだ。
だから宇佐美は嫌いになれなかった。
だから真宏に嫌いになって欲しかったのだ。
……だけど愛を、受け入れる事も宇佐美には出来なかったのだ。
真宏は自分を押し倒す目の前の端正な男の顔を見上げる。
この男は散々な噂があるくせに、擦れていないのだ。
真っ直ぐな瞳で真宏を見下ろす。
けれどその瞳はいつも、何かに縋りたがっているように見えた。
碧色の、世界でひとつの色の中に俺が写っている。
宇佐美はもしかしたら、知らんぷりして生きてきたのかもしれない。
……自分の傷に気づいていたけど気付かぬフリをして生きてきてしまったのかもしれない。
自分を守るために殺した心が、いつの間にか自分を蝕む凶器に、変わってしまったのかもしれない。
……それはあまりにも、残酷な話だ。
「……先輩は、"俺が先輩を嫌いになれるように手伝う"って言ったじゃないですか」
「せやな。有難いやろ、嫌いになれるんやで」
「それはなんで? どうして俺は先輩を嫌いにならなきゃいけないの?」
「それは……」
焦ったように言葉を続けようとした宇佐美は、ハッとした顔をしてふいっと真宏から目を逸らした。
真宏は思わず宇佐美に手を伸ばすと、バシンッと音を立てて振り払われた。
「っ触んなや!!」
完全なる敵意、憎しみ、怒り、拒絶……
それ以外の色はなくて、完全に、嫌われたんだと知る。
宇佐美は立ち上がりちゃぶ台上にあった白い箱の煙草とショッキングピンクの百均ライターを持ちベランダに出て行ってしまった。
真宏は振り払われた手が赤くなっているのを見て、グッと拳を握り締めて宇佐美がタバコを吸い終わるのを待った。
宇佐美は知らないのだ。
人に嫌われる事に慣れてはいても、人を嫌う方法までは分からなかった。
それは宇佐美がこれまでの人生で誰も嫌ってこなかったようなお綺麗で優しい人間だからではない。
自分に押し倒されたこの後輩には[[rb:何もされていないから > ・・・・・・・・・・]]である。
無害な人間をどうやって嫌えるだろうか。
嫌う理由なんて毛頭ない。そりゃあいくら宇佐美が遊び歩いていたとしても、それは噂でもない単なる事実であるが、無理矢理押し倒されたり馬乗りになられたりすればそれは流石に嫌な気持ちにはなる。
けれどもこの後輩は、健気に宇佐美に弁当を作ってきたり何もせずただ傍で文句垂れつつも添い寝をしてくれたり、自分にも他人にも正直で、今回だって宇佐美に対しての感情にただ、嘘がつけなかっただけなのだ。
だから宇佐美は嫌いになれなかった。
だから真宏に嫌いになって欲しかったのだ。
……だけど愛を、受け入れる事も宇佐美には出来なかったのだ。
真宏は自分を押し倒す目の前の端正な男の顔を見上げる。
この男は散々な噂があるくせに、擦れていないのだ。
真っ直ぐな瞳で真宏を見下ろす。
けれどその瞳はいつも、何かに縋りたがっているように見えた。
碧色の、世界でひとつの色の中に俺が写っている。
宇佐美はもしかしたら、知らんぷりして生きてきたのかもしれない。
……自分の傷に気づいていたけど気付かぬフリをして生きてきてしまったのかもしれない。
自分を守るために殺した心が、いつの間にか自分を蝕む凶器に、変わってしまったのかもしれない。
……それはあまりにも、残酷な話だ。
「……先輩は、"俺が先輩を嫌いになれるように手伝う"って言ったじゃないですか」
「せやな。有難いやろ、嫌いになれるんやで」
「それはなんで? どうして俺は先輩を嫌いにならなきゃいけないの?」
「それは……」
焦ったように言葉を続けようとした宇佐美は、ハッとした顔をしてふいっと真宏から目を逸らした。
真宏は思わず宇佐美に手を伸ばすと、バシンッと音を立てて振り払われた。
「っ触んなや!!」
完全なる敵意、憎しみ、怒り、拒絶……
それ以外の色はなくて、完全に、嫌われたんだと知る。
宇佐美は立ち上がりちゃぶ台上にあった白い箱の煙草とショッキングピンクの百均ライターを持ちベランダに出て行ってしまった。
真宏は振り払われた手が赤くなっているのを見て、グッと拳を握り締めて宇佐美がタバコを吸い終わるのを待った。

