ウサミとマヒロ

#3

宇佐美の家は意外にも、高校から徒歩十分程にある単身者用のボロアパートの一室だった。
部屋の中はガランとしていて家具は無く、強いてあるといえばマットレスと真宏が昼寝用に買い与えたクッションとブランケットとガラステーブルが無造作に置かれていた。
テレビも、本棚も、娯楽が何も無い。もっと言えばカーテンすら無かった。

「んー……これは……ちと厳しいなあ……」

宇佐美の家に連れて帰ってもらい、真宏がホットミルクとプリンを与えられて心を落ち着かせている間、宇佐美はボロボロのローファーと格闘してくれていたが、やはり宇佐美でもどうにも出来なかったらしい。
……今日、どうしよう。

「なあ真宏。真宏は今何がしんどい?」

宇佐美の問いの意味が分からず、真宏はキョトンと首を傾げる。
すると宇佐美はマットレスに座る俺の横にぼふんっと腰掛け「俺な」と口を開いた。

「人の気持ちがよぉ分からん。けど、今のお前を俺は何とかしてやりたいって何となーく思う。せやから、真宏は今、何がいっちゃんしんどいん?」

人の気持ちが分からない……?
そんなの当たり前じゃん……、人は言い合わなきゃ分かりっこない。
ぐしゃりと、視界が歪む。

「…………涼にい……それ買ってくれた兄が……悲しんだり、……不安にさせてしまうのが……いちばんつらい……」
「……」
「……っ殴られたり蹴られたりした方が、……まだマシだ……っ」

ぼろぼろ、また涙が溢れてしまう。
宇佐美は黙って真宏の頭をくしゃりと撫でた。

「……分かった」

……え? 何が分かったんだ?
ニッコリ優しい笑みを浮かべる宇佐美に、ハテナが浮かぶ。

「真宏は案外泣き虫やなぁ〜」

うりうり、と頬っぺをムニムニされる。 

「な、真宏。俺が真宏ん家着いてったるよ」
「……え? なんで?」

宇佐美はバチッと、ウィンクを決めてニヤリと口角を上げた。

「いい作戦があんねん」
「……いい、作戦?」

宇佐美の赤い髪がサラリと揺れる。

「そ。でも、真宏に借り、出来てまうな?」

妖しげに微笑まれ、ドクン、と心臓が大きく跳ねる。

宇佐美の顔が、近い。
鼻先が触れてしまう、もう少しで、唇が─……

美しい顔に見惚れてしまう。
離れていく宇佐美の顔を目で追う。
……一瞬このまま、キス、……してしまうかと思った。