#2
やっと一日が終わり、気怠い授業を乗り越え帰ろうとした矢先の事だった。
ナップザックだけならまだ我慢できた。
じわじわと視界が歪む。情けなくて、どうしようもない。
涼雅に顔向けできない。
玄関にこの靴がなければ絶対に不思議に思うだろう。
直せないかな、これ……。
思いたった真宏は立ち上がって、職員室に走った。
バタバタと廊下を走ると、すれ違いざま、知らない教師が怒鳴っていたけれど、気にしている余裕は今の真宏にはなかった。
職員室に着き開口一番、「ツバキ先生!!」と叫ぶ。
その大声に驚いた顔をさせた椿は、「なんだよ……うるせぇぞ」と気だるげに言った。
「先生、ちょっと黒か茶色のビニールテープありませんか? それとハサミ!」
「え? なんで? 今から図工でもすんの?」
「冗談いいから早く!」
あながち冗談では無かったのだが……と思いつつも椿は、必死の形相である真宏に「なんなんだよ」と引きながら、黒のビニールテープとライオンの可愛いハサミを貸してくれた。
「ありがとうございます!」
職員室を飛び出し、中庭の人から見えないとこに座り込み、靴を出した。
何とか目立たないようにできないかな。履ければいい、なんでもいい。
履ければ涼雅には「転んだ」と嘘がつける。
直れ、直れ……
テープを切っては貼り、切っては貼り、を繰り返した。
「……っ」
けれど、到底履けそうにはなかった。
分かってはいたけれど、改めて手の施しようが無い程にされていたと実感してしまうと、ぼろぼろ涙が落ちてくる。
なんでこんなことされたの。
俺がなにをしたの。
なんで大切な思い出を、壊されなきゃいけないの。
ローファーを抱いて蹲った。
これでは家に帰れない。
……いや、まず履けないよな。
「まひろ?」
顔を埋めて鼻を啜っていると、頭上から聞き覚えのある声にがし、ピクリ、と反応してしまった。
「どないしてん、こんなとこで。ズボン汚れてんで」
宇佐美の声が近づき、しゃがんだのだと気づく。
けれど真宏は泣き顔を見られたくないし、ローファーにも気づかれたくないので、無視を決め込んだ。
「まひろ? どした? 調子悪いんか?」
珍しく異常に心配してくれる宇佐美に、再び涙が溢れていく。
……でも、ここで鼻とか啜ったら泣いてるのバレる。
「……なんでも、ないから……あっち行って」
精一杯言うと、宇佐美は「ふぅん」と言って「わかった」と足音立ててあっさり真宏から離れて行ってしまった。
いなくなったのを確かめて、寂しいやら有難いやら複雑で、ずびっと鼻を啜っていたら、「ふは、ぶっさいくやなぁ」と笑われた。
さっきと同じ声にバッと振り向く。
「な……、かえったんじゃ……っ」
「鼻声やん。うわ鼻水きたな」
宇佐美がクスクス笑いながら真宏を見ている。
その毒気のない笑顔になんだか泣けてきて、真宏はもう隠すことなくボロボロと顔を歪めて泣いていた。
「わあわあ、どないしてん、派手にぽろぽろ泣いて~」
よしよしと頭を撫でられ、えぐえぐ涙を流しながら宇佐美に手を伸ばした。
「はいはいおいでぇ」
ぎゅっと抱きしめてもらい、悲しい心が少しだけましになった。
背中を大きな手で撫でてもらって、呼吸を落ち着かせた。
次第に涙も引っ込んでいき、宇佐美の制服で鼻水を拭かせていただいた。
「え、なんで[[rb:服 > ・]]で[[rb:拭く > ・・]]ん?」
「……つまんない」
ぽそっと言えば、宇佐美は「せやろ?」と軽快に笑った。
「で? これは?」
ローファーを見せられ、折角引っ込んでいた涙がまたあふれ出してきた。
「ひぐ、……う゛ぅ゛~!!」
思い切り顔を歪め泣けば、宇佐美は心底驚いた顔をして「うわほんまやばいで顔」と言ってきたので殴った。
「すまんすまん、けど、これはなんなん?」
頭を撫でられ、宇佐美の肩に顔を隠したまま「……なんでもない」と答えた。
「いやあ、ここまで盛大に泣いといてそれはないやろ~」
最もなことを言われるが、それでも真宏は答えたくなかった。
口にしたら余計悲しくなるし、実感してしまう。
もう同じ物は二度と履けないのだと。
「誰にやられたか分かる?」
首を横に振って否定すると「そうか」と短く言われた。
宇佐美は真宏を抱っこしたまま「よいしょ」と立ち上がったので、真宏はびっくりして思わずぎゅっとしがみついてしまった。
「な、真宏。今日は俺んち来るか?」
宇佐美の言葉にパッと顔を上げれば、にこやかに笑った宇佐美は真宏に顔を寄せる。
「実は家にな? 高級プリンがあんねん。2個もあるしなぁ~賞味期限も今日までやし……。あーあ、誰か食ってくれんと勿体ないなぁ~」
宇佐美があまりにもわざとらしく言うので真宏は思わず笑ってしまった。
「……いいの?」
そう訊けば
「ええよ。行こか」
と微笑んだ。
そのまま靴がない真宏は宇佐美におぶられて、学校を出て宇佐美の家に向かった。
やっと一日が終わり、気怠い授業を乗り越え帰ろうとした矢先の事だった。
ナップザックだけならまだ我慢できた。
じわじわと視界が歪む。情けなくて、どうしようもない。
涼雅に顔向けできない。
玄関にこの靴がなければ絶対に不思議に思うだろう。
直せないかな、これ……。
思いたった真宏は立ち上がって、職員室に走った。
バタバタと廊下を走ると、すれ違いざま、知らない教師が怒鳴っていたけれど、気にしている余裕は今の真宏にはなかった。
職員室に着き開口一番、「ツバキ先生!!」と叫ぶ。
その大声に驚いた顔をさせた椿は、「なんだよ……うるせぇぞ」と気だるげに言った。
「先生、ちょっと黒か茶色のビニールテープありませんか? それとハサミ!」
「え? なんで? 今から図工でもすんの?」
「冗談いいから早く!」
あながち冗談では無かったのだが……と思いつつも椿は、必死の形相である真宏に「なんなんだよ」と引きながら、黒のビニールテープとライオンの可愛いハサミを貸してくれた。
「ありがとうございます!」
職員室を飛び出し、中庭の人から見えないとこに座り込み、靴を出した。
何とか目立たないようにできないかな。履ければいい、なんでもいい。
履ければ涼雅には「転んだ」と嘘がつける。
直れ、直れ……
テープを切っては貼り、切っては貼り、を繰り返した。
「……っ」
けれど、到底履けそうにはなかった。
分かってはいたけれど、改めて手の施しようが無い程にされていたと実感してしまうと、ぼろぼろ涙が落ちてくる。
なんでこんなことされたの。
俺がなにをしたの。
なんで大切な思い出を、壊されなきゃいけないの。
ローファーを抱いて蹲った。
これでは家に帰れない。
……いや、まず履けないよな。
「まひろ?」
顔を埋めて鼻を啜っていると、頭上から聞き覚えのある声にがし、ピクリ、と反応してしまった。
「どないしてん、こんなとこで。ズボン汚れてんで」
宇佐美の声が近づき、しゃがんだのだと気づく。
けれど真宏は泣き顔を見られたくないし、ローファーにも気づかれたくないので、無視を決め込んだ。
「まひろ? どした? 調子悪いんか?」
珍しく異常に心配してくれる宇佐美に、再び涙が溢れていく。
……でも、ここで鼻とか啜ったら泣いてるのバレる。
「……なんでも、ないから……あっち行って」
精一杯言うと、宇佐美は「ふぅん」と言って「わかった」と足音立ててあっさり真宏から離れて行ってしまった。
いなくなったのを確かめて、寂しいやら有難いやら複雑で、ずびっと鼻を啜っていたら、「ふは、ぶっさいくやなぁ」と笑われた。
さっきと同じ声にバッと振り向く。
「な……、かえったんじゃ……っ」
「鼻声やん。うわ鼻水きたな」
宇佐美がクスクス笑いながら真宏を見ている。
その毒気のない笑顔になんだか泣けてきて、真宏はもう隠すことなくボロボロと顔を歪めて泣いていた。
「わあわあ、どないしてん、派手にぽろぽろ泣いて~」
よしよしと頭を撫でられ、えぐえぐ涙を流しながら宇佐美に手を伸ばした。
「はいはいおいでぇ」
ぎゅっと抱きしめてもらい、悲しい心が少しだけましになった。
背中を大きな手で撫でてもらって、呼吸を落ち着かせた。
次第に涙も引っ込んでいき、宇佐美の制服で鼻水を拭かせていただいた。
「え、なんで[[rb:服 > ・]]で[[rb:拭く > ・・]]ん?」
「……つまんない」
ぽそっと言えば、宇佐美は「せやろ?」と軽快に笑った。
「で? これは?」
ローファーを見せられ、折角引っ込んでいた涙がまたあふれ出してきた。
「ひぐ、……う゛ぅ゛~!!」
思い切り顔を歪め泣けば、宇佐美は心底驚いた顔をして「うわほんまやばいで顔」と言ってきたので殴った。
「すまんすまん、けど、これはなんなん?」
頭を撫でられ、宇佐美の肩に顔を隠したまま「……なんでもない」と答えた。
「いやあ、ここまで盛大に泣いといてそれはないやろ~」
最もなことを言われるが、それでも真宏は答えたくなかった。
口にしたら余計悲しくなるし、実感してしまう。
もう同じ物は二度と履けないのだと。
「誰にやられたか分かる?」
首を横に振って否定すると「そうか」と短く言われた。
宇佐美は真宏を抱っこしたまま「よいしょ」と立ち上がったので、真宏はびっくりして思わずぎゅっとしがみついてしまった。
「な、真宏。今日は俺んち来るか?」
宇佐美の言葉にパッと顔を上げれば、にこやかに笑った宇佐美は真宏に顔を寄せる。
「実は家にな? 高級プリンがあんねん。2個もあるしなぁ~賞味期限も今日までやし……。あーあ、誰か食ってくれんと勿体ないなぁ~」
宇佐美があまりにもわざとらしく言うので真宏は思わず笑ってしまった。
「……いいの?」
そう訊けば
「ええよ。行こか」
と微笑んだ。
そのまま靴がない真宏は宇佐美におぶられて、学校を出て宇佐美の家に向かった。

