#2
結局、うちに来て何するのかと思えば、杏と涼雅がやっているゲームソフトを見つけ出し、真宏と宇佐美を覗いた面々はゲームをやり始めていた。
宇佐美はと言うと、何故か人の家のリビングのソファで勝手に寝始めていたのでとりあえず放っておくことにした。
ゲームに熱中していた皆は、白熱した戦いに疲れたのかぐでぇと横になって伸びていた。
そんな皆の様子に真宏はコントローラーを置き、声をかけた。
「そろそろお昼にする? 」
「いいねぇ! 僕お腹すいたぁ」
真宏の言葉にハゼが起き上がり嬉しそうに言う。
いつの間にか宇佐美も眠りから覚めたようで、起き上がってぼーっと宙を見つめソファに座っていた。
「じゃあなんか作る? それとも、出前にする? 」
皆に訊けば、バンッと派手な音を立ててマオが立ち上がった。
「まっお、おおおまっおまっ!? 」
「え、何ですか? 」
壊れたロボットのように意味不明な言葉を羅列させるマオに訝しげな顔をして問い返せば、マオは自分の失態に気づき、カァッと顔を赤くする。
「マオちゃん、真宏の手料理が食べたいのー? かわいいー」
「ま、まままおって呼ぶな!! 」
ハゼにニヤニヤとみられたマオはハゼの胸倉を掴み、真っ赤な顔をして怒っている。
「えーいいですけど、何作るにしても材料買ってこなきゃ」
真宏がそう言うと、ハゼが「皆何食べたーい? 」と呼びかける。
「アクアパッツァ」
「僕、カチャトーラ」
「…………い、伊縫の手料理ならなんでも……」
「はい、マオ先輩優勝~」
明らかにすぐ作れない呪文のような料理名をふざけて言うハゼと久我に冷ややかな視線を送りつつ、真宏はマオの手を取り、上にあげた。
「えー! その図体であざとさ出さないでよマオちゃーん」
「出してねぇよ!! 殴るぞ!! 」
またハゼとマオのいつもの言い合いに、真宏はため息を吐きながら、ソファでぼんやりしている宇佐美にも話しかけた。
「先輩は? 何食べたい? 」
そう問えば、ぼんやり真宏を見て彼はにっこり笑った。
……くそ、こいつ顔だけはいいな。顔だけは。
「俺、帰るから何でもええよー」
「そうで……」
「はぁ!? 帰んのかよ!! 」
宇佐美のセリフに頷こうとしたら、ハゼと喧嘩していたはずのマオがすごい勢いで入ってくる。
マオはそのまま宇佐美を拉致しリビングから離れて、二人で何やらこそこそ話していた。
「じゃあちょっと買ってくるね」
皆に聞こえるように声をかけると、慌てたマオが真宏を止める。
「ちょ待て待て、こいつも連れてけ」
マオは、何故か真宏にとって今一番の天敵である宇佐美を前に出してそう言った。
「え? でも宇佐美帰るんですよね? 」
宇佐美と二人なんて気まずいし苛つくので出来るだけ遠慮したいのだけど……。
「いつからお前は宇佐美呼びやねん」
やべ、ついうっかり口に出しちゃった。
「いーや、こいつは真宏の手料理食うまで帰らねぇぜ」
何故かドヤ顔で言うマオを不思議に思いながら真宏が「買い物は一人で行けますよ?」と言えば、マオはムッとして「いいんだよ! 黙ってこいつ連れてけっつーの! 」と押し付けてくる。宇佐美も迷惑そうな顔でマオを見ていた。
「そんなに言うなら、マオ先輩が宇佐美と行ってくればいいじゃん」
そういうと、マオは「ぜってぇヤダ!! 」と子供のように
声を上げた。
見かねたハゼが呆れつつ間に入ってくる。
「真宏はうさ先輩とお買い物。マオちゃんは僕たちと遊んで待ってるから。はいこれ食費。ついでにお菓子も買ってきて、じゃあね」
真宏と宇佐美はハゼによって、力づくでぐいっと玄関外に押し出された。
「えー……なんだよそれ」
随分自分勝手だ、と真宏はぷんすこしながらも家を出ると、宇佐美はスーパーとは逆方向に歩いていこうとしていた。
「ねぇどこ行くんですか? スーパーこっちだけど……」
思わずそう言うと、宇佐美は立ち止まってちらりとこちらに顔を向けた。
「俺、帰るから一人で行きや」
「え? なんで? 食べて行きなよ」
キョトンと宇佐美を見上げると、彼はふわりと柔らかく笑った。
「お前の料理楽しみにしとる奴おるみたいやし、はよ行ったれ」
そう言ってまた背を向けて歩いて行ってしまう。
……なんか先輩の背中ってよく見る気がするな。
いつもあんなに憎たらしいくらい堂々としてて、ナルシストな俺様なのに、なんでこの人は背を向けると途端に、その欠片もなくなるのだろうか。
……そういえば、この背中どこかで見たことある気がするな。
厳密に言えば、宇佐美の背中ではなくて……ああ、そうだ。
宇佐美のあの背中は、兄である涼雅の背中と似てるのだ。
海外で仕事をしている両親がたまに帰ってきた時、また見送る為に空港に行って兄と並んで手を振った時。
たまたま兄よりも少し後ろにいた真宏は見ていたのだ。
笑顔を取り繕っていても、兄の背中は誰よりも寂しそうだった事を。
あの時の兄は中学生で自分は小学生だった。
それを見て以来、真宏は兄の事を完璧な人間では無いのだと知った。
それは別に侮辱とかではない。
単純にいつも完璧に振舞ってくれる兄の人間味を感じられたのが嬉しかったのだ。
それと同時に、自分がしっかりしなければ、とも決意した瞬間だった。
今の宇佐美は、あの時の涼雅と同じく寂しさを背負って歩いて行こうとしている。
そんな背中を見ていたら、真宏はなんだかおかしくなって宇佐美を追いかけグイっと腕を掴んだ。
「わぁ、なんやねん」
いきなり腕を掴まれた宇佐美は驚いた顔で真宏を見る。
真宏は気にもせず、呆れ笑いをしつつ見上げて言った。
「先輩、寂しいならそう言えばいいのに」
真宏のセリフに宇佐美は目を丸くして、自分よりも背の低い後輩を見下ろした。
この子供は何を言っているのだろうか。寂しい? 自分はそんな事を言ったか? いや言ってない。
言ってないけれど、この男にはバレていたのだ。
自分でさえ気づけない、心の奥底にある本当の気持ちを。
隠すのばかり上手くなってしまった自分はいつしか本当の気持ちに気づかなくなっていた。隠そうと思って生きてきたのではない。けれど、隠さなくては、本音を見せても聞いてもらえなかった、何も叶わなかったのだから、表に出したところで無駄なのだ。
だから言わなくなった、そしたらその無駄な感情たちはいつの間にか消えていった。
けどこれは消えていった訳ではなかったのだ。奥底に追いやられていただけで宇佐美はちゃんと、苦しいも、辛いも、痛いも、感じていた。
苦しいと思ったところで終わりは来ない、辛いと嘆いて泣き喚いても助けは来ない、痛いと叫んでも止めてもらえない。そんな日々を過ごしていたから分からなくなっていただけなのだ。
そんな自分でさえその事に気づけなかったのに、何故目の前の後輩にバレてしまったのだろうか。
真っ直ぐな目をしたこの男は、何もかもを見透かしていそうで怖くなる。
けれど同時に、こいつになら暴かれたいと思う自分も密かに存在していたのだ。
それは信頼なのか、好奇心なのか。
この男に引っ張られる人生はどんなものだろうか。
この男の作る道はどんな道だろうか、どんな空の下を歩かせてくれるのだろうか。
宇佐美の中で、こんなに他人に対して何かを思った事は無かったのに、何となく真宏の存在に期待している自分がいた。
「ね、一緒に行こう? そんで何食べるか意見出してよ。二人で荷物もって、皆の所に帰りましょう」
一言も、『大丈夫だよ』だなんて言われていないのに、安心させられている気分になる。
大丈夫だからこっちにおいで、こっちを歩こう、こっちは楽しいよ……と、引っ張って道を案内してもらってる気分だった。
迷子で不安で、心細くて、そんな時に現れた宇佐美のヒーロー。
「真宏は、案外夢見るタイプ? 」
思わず、いつもの悪い癖を出してしまったけれど、今回ばかりは自分の表情も、感情もコントロール出来ていないな、と宇佐美は自覚していた。
恐らく反論しようとした真宏は宇佐美の顔をむす、とした顔で見上げたけれど、すぐにポカンと口を開けて間抜けな顔をした。
事実真宏は文句を言おうとしたのだ。ふざけるな、茶化すな、さっさと行くぞ、言葉を投げ返そうとしたのに。
そんな嬉しそうに笑う宇佐美を見たら、何も言えなくなってしまった。
……なんか、ずるいじゃんね、そんなの。
真宏は思わず顔を逸らしてしまった。
宇佐美はいつも笑っているようで笑っていない。
怖い訳では無いけれど、真宏は彼を見る度に自分の意思が存在しないように見えて不安で心細いと思っていた。
けれど今、目の前にいる彼は無邪気な子供のように嬉しそうにニコニコしている。
親を見つけた子供のように安堵した表情の彼を、真宏はなんとなく愛おしいなと思った。
「じゃ、行きましょう。ハゼに遅いって言われちゃう」
宇佐美の手を離し、後ろをついてくることを確認しながら、こっそり、そっと自分の胸に手を当てた。
……けど、期待なんか、するな。
俺は、宇佐美を好きなんかじゃない。
……好きになっても、意味なんてないのだから。
結局、うちに来て何するのかと思えば、杏と涼雅がやっているゲームソフトを見つけ出し、真宏と宇佐美を覗いた面々はゲームをやり始めていた。
宇佐美はと言うと、何故か人の家のリビングのソファで勝手に寝始めていたのでとりあえず放っておくことにした。
ゲームに熱中していた皆は、白熱した戦いに疲れたのかぐでぇと横になって伸びていた。
そんな皆の様子に真宏はコントローラーを置き、声をかけた。
「そろそろお昼にする? 」
「いいねぇ! 僕お腹すいたぁ」
真宏の言葉にハゼが起き上がり嬉しそうに言う。
いつの間にか宇佐美も眠りから覚めたようで、起き上がってぼーっと宙を見つめソファに座っていた。
「じゃあなんか作る? それとも、出前にする? 」
皆に訊けば、バンッと派手な音を立ててマオが立ち上がった。
「まっお、おおおまっおまっ!? 」
「え、何ですか? 」
壊れたロボットのように意味不明な言葉を羅列させるマオに訝しげな顔をして問い返せば、マオは自分の失態に気づき、カァッと顔を赤くする。
「マオちゃん、真宏の手料理が食べたいのー? かわいいー」
「ま、まままおって呼ぶな!! 」
ハゼにニヤニヤとみられたマオはハゼの胸倉を掴み、真っ赤な顔をして怒っている。
「えーいいですけど、何作るにしても材料買ってこなきゃ」
真宏がそう言うと、ハゼが「皆何食べたーい? 」と呼びかける。
「アクアパッツァ」
「僕、カチャトーラ」
「…………い、伊縫の手料理ならなんでも……」
「はい、マオ先輩優勝~」
明らかにすぐ作れない呪文のような料理名をふざけて言うハゼと久我に冷ややかな視線を送りつつ、真宏はマオの手を取り、上にあげた。
「えー! その図体であざとさ出さないでよマオちゃーん」
「出してねぇよ!! 殴るぞ!! 」
またハゼとマオのいつもの言い合いに、真宏はため息を吐きながら、ソファでぼんやりしている宇佐美にも話しかけた。
「先輩は? 何食べたい? 」
そう問えば、ぼんやり真宏を見て彼はにっこり笑った。
……くそ、こいつ顔だけはいいな。顔だけは。
「俺、帰るから何でもええよー」
「そうで……」
「はぁ!? 帰んのかよ!! 」
宇佐美のセリフに頷こうとしたら、ハゼと喧嘩していたはずのマオがすごい勢いで入ってくる。
マオはそのまま宇佐美を拉致しリビングから離れて、二人で何やらこそこそ話していた。
「じゃあちょっと買ってくるね」
皆に聞こえるように声をかけると、慌てたマオが真宏を止める。
「ちょ待て待て、こいつも連れてけ」
マオは、何故か真宏にとって今一番の天敵である宇佐美を前に出してそう言った。
「え? でも宇佐美帰るんですよね? 」
宇佐美と二人なんて気まずいし苛つくので出来るだけ遠慮したいのだけど……。
「いつからお前は宇佐美呼びやねん」
やべ、ついうっかり口に出しちゃった。
「いーや、こいつは真宏の手料理食うまで帰らねぇぜ」
何故かドヤ顔で言うマオを不思議に思いながら真宏が「買い物は一人で行けますよ?」と言えば、マオはムッとして「いいんだよ! 黙ってこいつ連れてけっつーの! 」と押し付けてくる。宇佐美も迷惑そうな顔でマオを見ていた。
「そんなに言うなら、マオ先輩が宇佐美と行ってくればいいじゃん」
そういうと、マオは「ぜってぇヤダ!! 」と子供のように
声を上げた。
見かねたハゼが呆れつつ間に入ってくる。
「真宏はうさ先輩とお買い物。マオちゃんは僕たちと遊んで待ってるから。はいこれ食費。ついでにお菓子も買ってきて、じゃあね」
真宏と宇佐美はハゼによって、力づくでぐいっと玄関外に押し出された。
「えー……なんだよそれ」
随分自分勝手だ、と真宏はぷんすこしながらも家を出ると、宇佐美はスーパーとは逆方向に歩いていこうとしていた。
「ねぇどこ行くんですか? スーパーこっちだけど……」
思わずそう言うと、宇佐美は立ち止まってちらりとこちらに顔を向けた。
「俺、帰るから一人で行きや」
「え? なんで? 食べて行きなよ」
キョトンと宇佐美を見上げると、彼はふわりと柔らかく笑った。
「お前の料理楽しみにしとる奴おるみたいやし、はよ行ったれ」
そう言ってまた背を向けて歩いて行ってしまう。
……なんか先輩の背中ってよく見る気がするな。
いつもあんなに憎たらしいくらい堂々としてて、ナルシストな俺様なのに、なんでこの人は背を向けると途端に、その欠片もなくなるのだろうか。
……そういえば、この背中どこかで見たことある気がするな。
厳密に言えば、宇佐美の背中ではなくて……ああ、そうだ。
宇佐美のあの背中は、兄である涼雅の背中と似てるのだ。
海外で仕事をしている両親がたまに帰ってきた時、また見送る為に空港に行って兄と並んで手を振った時。
たまたま兄よりも少し後ろにいた真宏は見ていたのだ。
笑顔を取り繕っていても、兄の背中は誰よりも寂しそうだった事を。
あの時の兄は中学生で自分は小学生だった。
それを見て以来、真宏は兄の事を完璧な人間では無いのだと知った。
それは別に侮辱とかではない。
単純にいつも完璧に振舞ってくれる兄の人間味を感じられたのが嬉しかったのだ。
それと同時に、自分がしっかりしなければ、とも決意した瞬間だった。
今の宇佐美は、あの時の涼雅と同じく寂しさを背負って歩いて行こうとしている。
そんな背中を見ていたら、真宏はなんだかおかしくなって宇佐美を追いかけグイっと腕を掴んだ。
「わぁ、なんやねん」
いきなり腕を掴まれた宇佐美は驚いた顔で真宏を見る。
真宏は気にもせず、呆れ笑いをしつつ見上げて言った。
「先輩、寂しいならそう言えばいいのに」
真宏のセリフに宇佐美は目を丸くして、自分よりも背の低い後輩を見下ろした。
この子供は何を言っているのだろうか。寂しい? 自分はそんな事を言ったか? いや言ってない。
言ってないけれど、この男にはバレていたのだ。
自分でさえ気づけない、心の奥底にある本当の気持ちを。
隠すのばかり上手くなってしまった自分はいつしか本当の気持ちに気づかなくなっていた。隠そうと思って生きてきたのではない。けれど、隠さなくては、本音を見せても聞いてもらえなかった、何も叶わなかったのだから、表に出したところで無駄なのだ。
だから言わなくなった、そしたらその無駄な感情たちはいつの間にか消えていった。
けどこれは消えていった訳ではなかったのだ。奥底に追いやられていただけで宇佐美はちゃんと、苦しいも、辛いも、痛いも、感じていた。
苦しいと思ったところで終わりは来ない、辛いと嘆いて泣き喚いても助けは来ない、痛いと叫んでも止めてもらえない。そんな日々を過ごしていたから分からなくなっていただけなのだ。
そんな自分でさえその事に気づけなかったのに、何故目の前の後輩にバレてしまったのだろうか。
真っ直ぐな目をしたこの男は、何もかもを見透かしていそうで怖くなる。
けれど同時に、こいつになら暴かれたいと思う自分も密かに存在していたのだ。
それは信頼なのか、好奇心なのか。
この男に引っ張られる人生はどんなものだろうか。
この男の作る道はどんな道だろうか、どんな空の下を歩かせてくれるのだろうか。
宇佐美の中で、こんなに他人に対して何かを思った事は無かったのに、何となく真宏の存在に期待している自分がいた。
「ね、一緒に行こう? そんで何食べるか意見出してよ。二人で荷物もって、皆の所に帰りましょう」
一言も、『大丈夫だよ』だなんて言われていないのに、安心させられている気分になる。
大丈夫だからこっちにおいで、こっちを歩こう、こっちは楽しいよ……と、引っ張って道を案内してもらってる気分だった。
迷子で不安で、心細くて、そんな時に現れた宇佐美のヒーロー。
「真宏は、案外夢見るタイプ? 」
思わず、いつもの悪い癖を出してしまったけれど、今回ばかりは自分の表情も、感情もコントロール出来ていないな、と宇佐美は自覚していた。
恐らく反論しようとした真宏は宇佐美の顔をむす、とした顔で見上げたけれど、すぐにポカンと口を開けて間抜けな顔をした。
事実真宏は文句を言おうとしたのだ。ふざけるな、茶化すな、さっさと行くぞ、言葉を投げ返そうとしたのに。
そんな嬉しそうに笑う宇佐美を見たら、何も言えなくなってしまった。
……なんか、ずるいじゃんね、そんなの。
真宏は思わず顔を逸らしてしまった。
宇佐美はいつも笑っているようで笑っていない。
怖い訳では無いけれど、真宏は彼を見る度に自分の意思が存在しないように見えて不安で心細いと思っていた。
けれど今、目の前にいる彼は無邪気な子供のように嬉しそうにニコニコしている。
親を見つけた子供のように安堵した表情の彼を、真宏はなんとなく愛おしいなと思った。
「じゃ、行きましょう。ハゼに遅いって言われちゃう」
宇佐美の手を離し、後ろをついてくることを確認しながら、こっそり、そっと自分の胸に手を当てた。
……けど、期待なんか、するな。
俺は、宇佐美を好きなんかじゃない。
……好きになっても、意味なんてないのだから。

