ウサミとマヒロ

#8

真宏は教室に戻り帰る事も出来ずに思わず机に突っ伏した。
座った途端動く事が出来なくなってしまった。
結局、筆箱は投げ捨てた形になってしまっている。また宇佐美が拾ってくれているのだろうか。
もしくはあんな捨て台詞を吐いて逃げた後輩の持ち物なんて、と捨てられているのだろうか。

宇佐美にかかわってから、心が忙しい。
関わるだけでろくなことない。噂は本当だったんだ。

「はぁ……」
「何いっちょ前に黄昏てんだ」
「うわっ!?」

誰も居ないと思っていたのに、後ろから聞き覚えのある声が聞こえ真宏は慌てて体を起こした。

「ね、猫宮先輩……」
「マオでいい」

猫宮は真宏を見下ろして、短くそう言った。

「なんで先輩がここに?」

不思議に思った真宏の問いに猫宮は「ん」と言って筆箱を渡してきた。

「……これ……」

宇佐美に投げつけたままだった筆箱を、猫宮から渡された。何で先輩が……と思っていると、猫宮は真宏の隣の席に堂々と腰かけた。

「宇佐美がお前に渡しとけって」

……なんだよそれ。お前が頭下げて渡しに来いっつーの!

「喧嘩したのか」

ストレートに訊かれ、先程までの疲労を思い出した真宏は深い溜息を吐く。

「喧嘩っていうか、喧嘩売られたんですよ」

思いだしてまた腹が立ってくる。
大体真宏は宇佐美の事を好きだなんて一言も言っていないのだ。そりゃあ確かに顔はカッコイイとは思うし、素直に憧れはするけれど、好きとかそういうのではない。
そもそも真宏の恋愛対象は女性なのだ。
昔好きだったのはクラスの大人しめなテニス部の女の子。
その次は図書委員をしていた物静かな女の子。
そうだ真宏は昔からお淑やかで、礼儀正しくて笑顔の可愛いほわほわ系がタイプなのだ。
宇佐美のようなパリピ系とは正反対の人種である。
そんな自分が宇佐美を好きになるわけが無いじゃないか。

「……それでそんな落ち込んでんのか」
「この顔が落ち込んでるように見えます?」

猫宮はじっと真宏を見つめて、口を開く。

「……仲直り、したいか?」
「え、したくないです」

迷いなく即答すれば、猫宮は「ふっ……はははっ!」と大きな口を開けて笑った。
まるで悪役の笑い方で真宏もちょっと面白くなる。

……そういえばこの人が笑った顔、初めて見た。
いつもしかめっ面で怖いもんなぁ。

「そっか」

嬉しそうに笑った猫宮に、真宏は、おお……と感心する。

「先輩ってそんな顔もできるんですね!いつもは般若顔なのに」
「ダァレが般若だぶっ飛ばすぞ!!」

あ、また般若に戻ってしまった。難しい人だ。
けれど心なしか落ち込んでいた気分が晴れた気がしていた。

「伊縫、ラーメン食いに行かね?」

猫宮は立ち上がり、振り向きざまにそんなことを言ってくる。

「え、奢ってくれるんですか?」
「……お前意外と図々しいな」

猫宮の背中を追って鞄を持ち立ち上がる。

「ねぇ先輩」
「あ?」

真宏は、怠そうに歩く猫宮を見上げる。

「もしかして、慰めてくれてます?」

先程から何となく感じていた優しさと気遣いの音。
猫宮は猫宮なりに真宏の事を心配していたからわざわざ届けに来てくれて、わざわざ話も聞いてくれたのだろう。
素直に訊けば、猫宮は一瞬キョトンとしたのち、カァッと顔を赤くした。

「っんなわけねぇだろ!」

真宏はバシッと頭を叩かれ思わず「い゛てっ」と声を出した。
  
照れたのかな?こんな人でも照れるんだなぁ。
真宏は何だか嬉しくなって、「ありがとうございます…。」と微笑んでおいた。
猫宮は「ふん」とそっぽを向いていたけど、耳が赤かった事に真宏は密かに気づいていた。