ウサミとマヒロ

#6

「だーかーらー!真宏と先に仲良くなったのは僕達なんで、先輩達はあっち行ってください!!」

ハゼの怒鳴り声を聞きながら真宏は今、死んだ魚のような目で弁当をつついている。

「あ゛ぁ゛!?っるせぇなチビ!黙って俺に場所空けろや!」
「はあ!?チビっつったかゴルァ!!表出ろやァ!」
「表ならもう出てるっつーの!バァカ!!」

……なんて低レベルな争いなのだろうか。

「なあ真宏、それ塩鮭?食いたい」
「ああ、うん。はい」

強請る久我に食べさせてあげ、「美味しい?」と訊くと、「おいしー」と言ってくれた。それが嬉しくて微笑む。
ハゼと猫宮はまだ何かを言い争っているが、取り敢えず無視して宇佐美に目を向けた。
今日は、屋上についても真宏に「こっち来い」とは言わなかった。真宏も宇佐美の所に行く前にハゼに阻止されてしまったので、傍に行かなかったがそれを見た宇佐美は、一人で静かに壁に寄りかかり座って目を瞑ってしまった。寝ているのか寝ていないのか、触れていないから曖昧だ。

……なんかやっぱり今日、元気ない?体調……悪いのかな。

宇佐美の分のお弁当も作ってきたんだけど、……もう寝ちゃったしなぁ。
ナップザックのこんもりとした膨らみを眺めつつ今日の夕飯にでもしようかと考えていると、猫宮の声が耳に届く。

「んあ?これ、弁当?俺のために?」

いつの間にか勝手にナップザックから取り出し、弁当を見つけた猫宮はキラキラした目で見当違いの事を良い、嬉しそうな瞳で真宏を見つめている。

「あー……違いますけど、食べてもいいですよ」

きっと宇佐美は食べないんだろうし。違うと言い張るとそれはそれで面倒な事になりそうだったので、適当に返事をすれば猫宮はパアッと顔を明るくして「当たり前だろ!」とドヤ顔をしていた。
俺の話聞いてないな……。

「真宏ー、マオちゃんにばっか狡いよ〜僕には?」
「マオちゃん?」
「マオって呼ぶな!!チビゴリラ!!」
「誰がチビだピンクゴリラ!!」

小学生でもしないような言い争いを再び始めてしまう二人に呆れていると、久我が「眞於(マオ)って、猫宮先輩の下の名前」と教えてくれた。まあそんな事は真宏にとってどうでも良かったので、肌寒くなってきたのに気づいた真宏はナップザックから新しく買ってきたブランケットを取り出しスヤスヤしている宇佐美の肩に起こさないように掛け、膝の上にクッションを置いてあげた。目を覚ます気配が無かったので、そのまま宇佐美の隣に腰を下ろしお弁当を食べ続けた。
今日、胡麻和え成功したんだけどな。
もし食べていたら、宇佐美は気に入ってくれたのだろうか。
涼し気な風と共に宇佐美の香水が鼻腔に届く。
けれどこの匂いは宇佐美のでは無いと分かってしまう。
宇佐美の香りはもう少し甘くて、優しい気持ちになれるから。

……これはきっとさっきまで隣に居た知らない女の子の移り香なのだろう、と。