#3
*
ああ、やっぱりか、と真宏は何故か納得してしまった。
移動教室から戻ってきたら宇佐美用のクッションやブランケットを入れて来ていたナップザックが消えていた。あちこちハゼ達にバレぬように探し回っていたら、焼却炉の中に放り込まれ、ナップザックもろとも中身も一緒に焼かれていた。
……あのナップザック、小学校の時の家庭科で作って涼兄がたくさん褒めてくれたから気に入ってたのにな。
けれど、焼かれてしまったものは仕方がない。真宏がげんなりしていたのは明日万が一呼び出された時、お尻が痛いまま座るしかないのか、という事だった。まあたった四十分程度だからピィピィ騒ぐことでは無い。
今度の休みにナップザックと全部買い直さなきゃなあ。
残念な気持ちを取り敢えず心にしまい、教室に戻った。まあ呼び出しに備えるといっても、ここ五日ぐらい宇佐美に呼び出されていない。今までは一日おきくらいで、開いても三日だったのにココ最近はぱったり呼ばれていなかった。
そればかりか、宇佐美を校内で見かけていない。目立つ人だから学年は違くても何かと見かけることはあったし、学校にいればすぐに生徒達に噂されているから耳にも入るはずなのだ。
居ない人間のことを気にかけても仕方がないな。
自分の席に戻り、鞄に手を伸ばそうとしたその時、「よお伊縫」と男の声がした。
聞き覚えはないような声の主の方を振り返ると、そこにはやはり見た事無いピンク髪の男の人が立って真宏を不機嫌そうに見下ろしていた。
「誰ですか?」
見上げてそう純粋に問うと、男はイラッとした様子で「あ゛ぁ゛?」と凄んでくる。
「覚えてねぇとか失礼じゃね」
ガンッと机を蹴られ、ビクリと肩が揺れる。
「この間、中庭でお前を殴ったんだけど」
「あー!思い出した!」
俺を殴ったやつだ!ついでに、うさ先輩の事も殴ろうとしてたやつだ!
真宏はようやく思い出してポンッと手を打つ。
「で、何の用ですか?」
改めて問うと、男は真宏を見下ろして言う。
「お前、宇佐美と何やってんの?」
「え?」
唐突な質問に驚き戸惑う。
何やってるの、とはどういう意味か。
「何って、どういう事?昼を食べてるだけだけど……」
そう返すと、男はムッと口をへの字にしてしまう。
「……嘘つくなよ。ヤる事ヤッてんだろ」
何故かじりじりと詰め寄られ、真宏も真宏で後退りしてしまう。今、教室には誰も居ない。放課後なのだから当たり前だけれど。
要するに何をされても、助けが来る状況では無いのだ。
「そ、そんなに気になるなら……一緒に来ます……?」
鼻と鼻がくっついてしまうんじゃないかというぐらいの近さまで迫られて、圧に負けた真宏が思わずそう言うと男は「なに……!!」と目を輝かせた。
……あれ?もしかしてこの人、……うさ先輩の事が、好きなのか?
真宏は胸の中に何かが引っかかる感覚を覚える。
「先輩の気まぐれで呼び出されてるので……いつ一緒になれるか分からないんですけど、それでも良ければ……」
「……じゃあ呼びに来い」
「ええ!?俺が!?」
この人が来たいって言い出したのに!?
「あ?なんか文句あっか!?」
思い切り眉を寄せられ、真宏は、うげー、となりながら背を僅かに逸らして距離を取った。
「……分かりましたよ……アナタ、どこの誰ですか……」
めんどくさくなりつつそう訊けば、男は「2-Cの猫宮だ」と名乗った。
猫宮?可愛い名前だな。……ルックスには可愛さの欠片が一つも無いけど。
「じゃあな」
猫宮先輩は片手を上げて真宏に背を向けて帰って行く。自分よりガタイが良くて男らしい先輩も、どうやら宇佐美の事が好きらしい。
真宏は何だか拍子抜けしていた。あんなに強面な人でも、当たり前だけど恋をする。男同士は普通じゃないと思っていた自分の価値観が、くだらなく思えた。
「……さあ、帰るか……」
とりあえずナップザックの件は涼雅には黙っておかなければいけない。もし万が一バレてしまうと、また過保護が再燃してしまうだろう。流石に高校生にもなって身内から送り迎えされているのは格好がつかないし、何より自分を省みずに行動をしてしまう涼雅の負担には二度となりたくない。
かと言って、既に何かに巻き込まれているらしい自分自身を、自分で救えるのだろうか。
「はあ……」
真宏は心の底からため息を吐き出していた。
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ああ、やっぱりか、と真宏は何故か納得してしまった。
移動教室から戻ってきたら宇佐美用のクッションやブランケットを入れて来ていたナップザックが消えていた。あちこちハゼ達にバレぬように探し回っていたら、焼却炉の中に放り込まれ、ナップザックもろとも中身も一緒に焼かれていた。
……あのナップザック、小学校の時の家庭科で作って涼兄がたくさん褒めてくれたから気に入ってたのにな。
けれど、焼かれてしまったものは仕方がない。真宏がげんなりしていたのは明日万が一呼び出された時、お尻が痛いまま座るしかないのか、という事だった。まあたった四十分程度だからピィピィ騒ぐことでは無い。
今度の休みにナップザックと全部買い直さなきゃなあ。
残念な気持ちを取り敢えず心にしまい、教室に戻った。まあ呼び出しに備えるといっても、ここ五日ぐらい宇佐美に呼び出されていない。今までは一日おきくらいで、開いても三日だったのにココ最近はぱったり呼ばれていなかった。
そればかりか、宇佐美を校内で見かけていない。目立つ人だから学年は違くても何かと見かけることはあったし、学校にいればすぐに生徒達に噂されているから耳にも入るはずなのだ。
居ない人間のことを気にかけても仕方がないな。
自分の席に戻り、鞄に手を伸ばそうとしたその時、「よお伊縫」と男の声がした。
聞き覚えはないような声の主の方を振り返ると、そこにはやはり見た事無いピンク髪の男の人が立って真宏を不機嫌そうに見下ろしていた。
「誰ですか?」
見上げてそう純粋に問うと、男はイラッとした様子で「あ゛ぁ゛?」と凄んでくる。
「覚えてねぇとか失礼じゃね」
ガンッと机を蹴られ、ビクリと肩が揺れる。
「この間、中庭でお前を殴ったんだけど」
「あー!思い出した!」
俺を殴ったやつだ!ついでに、うさ先輩の事も殴ろうとしてたやつだ!
真宏はようやく思い出してポンッと手を打つ。
「で、何の用ですか?」
改めて問うと、男は真宏を見下ろして言う。
「お前、宇佐美と何やってんの?」
「え?」
唐突な質問に驚き戸惑う。
何やってるの、とはどういう意味か。
「何って、どういう事?昼を食べてるだけだけど……」
そう返すと、男はムッと口をへの字にしてしまう。
「……嘘つくなよ。ヤる事ヤッてんだろ」
何故かじりじりと詰め寄られ、真宏も真宏で後退りしてしまう。今、教室には誰も居ない。放課後なのだから当たり前だけれど。
要するに何をされても、助けが来る状況では無いのだ。
「そ、そんなに気になるなら……一緒に来ます……?」
鼻と鼻がくっついてしまうんじゃないかというぐらいの近さまで迫られて、圧に負けた真宏が思わずそう言うと男は「なに……!!」と目を輝かせた。
……あれ?もしかしてこの人、……うさ先輩の事が、好きなのか?
真宏は胸の中に何かが引っかかる感覚を覚える。
「先輩の気まぐれで呼び出されてるので……いつ一緒になれるか分からないんですけど、それでも良ければ……」
「……じゃあ呼びに来い」
「ええ!?俺が!?」
この人が来たいって言い出したのに!?
「あ?なんか文句あっか!?」
思い切り眉を寄せられ、真宏は、うげー、となりながら背を僅かに逸らして距離を取った。
「……分かりましたよ……アナタ、どこの誰ですか……」
めんどくさくなりつつそう訊けば、男は「2-Cの猫宮だ」と名乗った。
猫宮?可愛い名前だな。……ルックスには可愛さの欠片が一つも無いけど。
「じゃあな」
猫宮先輩は片手を上げて真宏に背を向けて帰って行く。自分よりガタイが良くて男らしい先輩も、どうやら宇佐美の事が好きらしい。
真宏は何だか拍子抜けしていた。あんなに強面な人でも、当たり前だけど恋をする。男同士は普通じゃないと思っていた自分の価値観が、くだらなく思えた。
「……さあ、帰るか……」
とりあえずナップザックの件は涼雅には黙っておかなければいけない。もし万が一バレてしまうと、また過保護が再燃してしまうだろう。流石に高校生にもなって身内から送り迎えされているのは格好がつかないし、何より自分を省みずに行動をしてしまう涼雅の負担には二度となりたくない。
かと言って、既に何かに巻き込まれているらしい自分自身を、自分で救えるのだろうか。
「はあ……」
真宏は心の底からため息を吐き出していた。

