季節は冬。
昨夜から降り続いている雪の影響で道路はうっすらと白くなっており、今年最初の積雪情報を地方放送のアナウンサーが伝えていた。
都会ではないがそれなりに栄えている地方の駅前。大学は数日前から冬休みに入り、本来ならバイトを増やして小遣いを稼ぐか実家に帰るのが普通なのだろうが、伊波 ましろはとあるアニメショップの近くを歩いていた。
(あと五分……あと四分三十秒……)
五分前からカウントダウンをスマホ片手にし、開店時間をどきどきしながら待つ。本日は待ちに待ったゲームの発売日。ダウンロード版でもなくネット予約でもなく、あえてこのアニメショップで購入する理由はただひとつ。
(予約特典がドラマCDとか、豪華すぎ! 宣伝用PVもキービジュアルも、SNSの声優さんたちの発信も完璧で、期待しかないんだよなぁ)
ましろが心待ちにしているのは、恋愛シュミレーションゲームなのだが、男性向けの方ではない。数年前から推している男性声優、甲斐ミナトが攻略対象の声を当てている女性向け乙女ゲームを制覇しており、新作の発売日がまさに今日なのだった。
(今回の甲斐さんのキャラはメロい台詞が多くて、ゆったりとした優しい口調がめちゃくちゃ合ってるんだよな〜キャラごとのPVも一番良かったし!)
甲斐ミナトを好きになったきっかけは、好きな漫画のアニメ化で主人公の親友役を彼が演じていたのが最初である。
それから出演している作品を片っ端から鑑賞し、とうとうBLのドラマCDにまで手を出してしまうくらい大ファンになった。声も良くて歌も上手くて顔も良くて背も高い。ちょっと天然なのもイベントに行った時に知れて、ますます好きになった。
今回の乙女ゲームはカフェを舞台にしたお仕事系恋愛ゲームで、バイトで入ったヒロインがイケメン店員たちとの会話の中で恋愛フラグを立てつつ、お仕事のスキルを上げて攻略していくという内容だ。
お仕事ゲームとしても楽しめ、バイトの熟練度やお店の評価レベルを上げることで、様々なレシピが生まれるというやり込み要素もあるようだ。
(ゲーム性もお仕事系だからか凝ってるし、他のキャラも個性的だし、推しキャラを攻略した後も楽しめそう!)
もちろん目当ては甲斐 ミナトが演じている雨月 葵。ビジュアルは控えめにいって最高! つかみどころのない性格とやわらかい雰囲気、まさに彼のための役といってもいい。
パティシエで厨房担当。カフェで出しているケーキや焼き菓子、デザートや軽食などを担当しており、少し長めの明るい茶髪を後ろで束ねていて、とにかく台詞が甘い。キャラPVでは優しい笑顔の裏に影がある描写があり、過去になにかありそうな感じだった。
妄想を膨らませていると、気付けば開店時間の午前十時になっていた。三階建てのアニメショップの二階がゲームやCDの売り場となっており、事前に予約していたましろはレジに真っ直ぐ進み、アプリを提示して会計を済ませ早足で店を後にした。
(BLのドラマCDはさすがにネットで買うけど、乙女ゲームくらいなら店員さんも変な目で見たりしないから平気なんだよな。旧作はネットでもいいけど、新作はすぐやりたいからやっぱり店頭で買いたいし。お店によって特典も違うのが魅力的だ)
歩道橋の階段を上り、ゲームソフトと特典のドラマCDが入った黒いトートバッグを抱えながらるんるん気分で歩いていたその時、ましろの視界がぐらりと一変する。階段の終わりくらいまで来ていたはずなのに、気付けば曇り空が広がっていた。
(え……?)
最後に映ったのは、トートバッグから飛び出したゲームソフトのパッケージと、スマホや財布。次の瞬間、強い衝撃が身体全体に襲い掛かり視界が真っ暗になる。
なにが起こったかを認識する間もなく、ましろは意識を手放すしかなかった。



