田所先輩と『れん』君について話した日から、明確に何かが変わったわけじゃないけど、僕らの関係性が以前とは少し変わった気がする。
——『れん』君の話をできる人ができたからか。
今までいなかった存在。
『れん』君と特に進展することはなくても、自分の気持ちを隠さなくていい場所ができたのは嬉しかった。
水曜日の定例会の日。
昼休みになり、田所先輩が教室を訪ねてきた。
「えんどー」
「はい」
「これ、今日の資料だって。事前に読んでおけって。同じ委員の子にも渡しておいて」
「はい」
資料を受け取り、田所先輩が去っていく。
すると、真琴がすかさず話しかけてくる。
「おい!今のって」
「あー、同じ委員の先輩」
「いや。まぁ、そうだろうけど。あれだよな?田所先輩だよな?」
「あー、うん。知ってるの?」
「知ってるも何も、あの人結構有名じゃん」
「え?そうなの?」
真琴はバスケ部のため、田所先輩と同じ体育館をよく使用するらしい。
「あの人、モテるよな」
真琴の言葉を聞いた瞬間、驚きのあまり声が裏返る。
「え?!そうなの?!」
僕の反応に驚き、真琴も目を見開く。
「え、むしろ知らないの?」
「知らないよ!僕、帰宅部だし」
「あー、まぁ。そうなのか?」
「うん。それに、あの人かなりノンデリだよ?!」
「あー。そうそう。それも聞くわ」
「え、……なのにモテるの?」
「うん。なんか、俺もよく知らんけど。口悪いけど、ギャップでモテるらしいよ」
「……へぇ」
「まぁ、チャラい人が意外と優しいみたいな?」
「え?なんか違くない?」
真琴の言葉に思わず笑ってしまう。
でも、僕にも田所先輩のそういう部分は思い当たる節がある。
考えながら黙々とパンを食べていると、真琴が食べていた弁当の箸先を止めて思いついたように話す。
「あとさ、単純に顔爽やか系じゃん?」
「え、……でも声デカくない?」
「ふはっ。さっきから、反田所派じゃん」
真琴が笑いながら、話し続ける。
「要は、田所先輩嫌いなの?」
「……嫌いではないけど。なんか、違うっていうか」
真琴には、僕がゲイであることや、『れん』君の話もしていない。
田所先輩のことをどう思ってるのか、うまく伝える言葉が見つからない。
「まぁ、確かに。口は悪いけど、……視野は広いと思うよ」
考えた末に出た言葉を聞いて、真琴がまた笑う。
「なんだよ、結局噂通りか!」
「うん、たぶん?」
僕の曖昧な反応にくすくす笑いながら、真琴は違う話をし始めた。
放課後。
委員会に向かっていると、渡り廊下の方から声が聞こえてきた。
「類、ちょっと話せる?」
「あぁ。委員会あるから、少しなら」
「今度の日曜なんだけど、みんなでー……」
僕の視線の先には、田所先輩を甘い視線で見つめながら話すジャージ姿の女子生徒がいた。
——あ……。
あの熱を帯びた視線がどんな意味を持っているのか、すぐに分かってしまう。
「まじでモテるんだ」
二人の姿を離れたところから見て、自然と口から溢れていた。
視線の先で、女子生徒が前に垂れる髪を耳にかけながら、視線を合わせるように笑う。そんな二人を見て、僕はなんとなくその場から立ち去った。
急ぎ早に講堂に入ると、桃鳥先輩を含め数人しか来ていなかった。
「お!遠藤、お疲れ」
「お疲れ様です」
桃鳥先輩の声かけに、なんだかホッとする。
いつものように端の席に座り、他の人が来るのを待っていると、桃鳥先輩が僕のところまでやってきた。
「遠藤、ちょっといい?」
「あ、はい」
「この前、遠藤が出してくれた案なんだけど。具体的なルールとかも決めたいし、近々時間作れる?」
「分かりました!なんなら、今日とかでも」
「いや、今日は委員会あるし。明日とかどう?」
「分かりました」
「また、連絡するな」
桃鳥先輩が教壇に戻り、少しして田所先輩がやってきた。
先ほどのやりとりを盗み見てしまったのもあり、なぜか顔を真っ直ぐ見れない。
いつも通り、田所先輩は僕と反対側の位置に座る。
委員会が始まり、この前の修理や補正が間に合ってないものや、当日に向けて再度スケジュールを確認する。
途中で桃鳥先輩と視線が合った。
「あと、この前決めた競技。ルールとか、具体的に詰めるために、近々遠藤と二人で話し合って資料まとめてくる。そんで、みんなにも共有するな」
僕が桃鳥先輩に会釈をすると、ニコッと笑いかけてくる。
委員会が終わり帰宅しようとした時、反対側の席に座っていた田所先輩が近づいてきた。
思いがけない登場に、先程の渡り廊下を思い出して後退りする。
「おい、なんで逃げんだよ」
「あ、えっと……。すみません」
「……このあと、桃さん?」
「え?いや、桃鳥先輩とは明日の予定です」
「ふーん」
「先輩?」
「……別になんも。じゃあな」
「え?あ、はい。また」
——挨拶だけのために、わざわざ来たのか?
去っていく田所先輩の後ろ姿を見ながら、僕は眉間に皺を寄せた。
その日の夜。
桃鳥先輩から、メッセージが届く。
「明日の放課後、教室で待ってて」
「了解です」
桃鳥先輩のメッセージには、相変わらず可愛らしい桃のキャラクタースタンプがつく。
「桃かわいいですね」
何の気なしに送ったメッセージから数分後、桃鳥先輩からスタンプのギフトが届く。
「これ!遠藤用な!」
送られてきたのは、えんどう豆がモチーフのキャラクタースタンプ。
驚きと、申し訳なさで急いで返信をする。
「いや、ごめんなさい!そんなつもりで言ったんじゃなくて!お金払います!!」
「いや、いいのいいの。俺があげたかっただけだから。使ってくれたら、それでおっけ!」
「……ありがとうございます」
スタンプギフトを受け取り、さっそく桃鳥先輩への返信に使った。
次の日。
放課後になり、桃鳥先輩が来るまでに机の上を片したり、隣の真琴に席を借りてもいいか確認して待っていた。
しばらくして、教室のドアが開く。
僕と視線が合うなり、桃鳥先輩が手招きをしてくる。
「遠藤、お待たせ!じゃあ、行こっか」
「え?あ、自習室とかですか?」
僕の問いかけに、ニコッと笑いかけたまま桃鳥先輩は昇降口の方へ向かっていく。
「え……っと、先輩。どこ行くんですか?」
「もちろん話し合い!でもさ、今日だけはちょっと付き合ってよ」
桃鳥先輩が顔の前で手を合わせて、僕に頼んでくる。
「……はい?」
意気揚々と歩く桃鳥先輩に着いていくと、駅前にあるカフェにたどり着いた。
店内は、いつもよりも人が多い気がする。
僕が周囲を見渡していると、隣に立つ桃鳥先輩がレジ上に描いてあるメニューを眺めながら話す。
「今日、新作発売日でさ。どうしても飲みたかったんだよな」
「先輩、甘党なんですね」
「部活もこの前の大会で引退したし、好きなものに正直なだけよ」
「ふふ。なんか、ギャップあっていいですね」
「そう?今日は付き合ってもらうし、俺がご馳走するから」
「え!いや、それは悪いです!ちゃんと払いますから!」
結局、新作のメニューを僕の分まで頼んでくれた。
「……なんか、本当にすみません」
「いや、いいんだって!なんかさ、よく分からないんだけど、遠藤って可愛がりたくなるっていうか」
「え?」
「なんか、弟?みたいな。かまいたくなるんだよな」
「ふはっ」
「ん?」
「いや、この前。田所先輩にも同じようなこと言われました」
僕の返答を聞いて、桃鳥先輩が照れくさそうに笑う。
「うわー、あいつと同じ感覚は複雑」
「あはは。なんですか、それ」
飲み物を受け取り、空いている席に横並びで座る。
嬉しそうに新作を飲む桃鳥先輩は、二つ年上なのに可愛く見えた。
目が合い、僕にも早く飲むように催促する。
「美味しいですね」
「だな!予想より、かなり美味しかった」
僕たちは飲みながら、本題に入る。
「じゃあ、さっそくだけど。提案してくれた競技の大まかなルールと、配点や注意点についてまとめるか!」
桃鳥先輩の言葉に、僕は慌てて鞄から昨日家で作ってきた資料を渡す。
「まだ荒いですけど、まとめてきました。これ見ながら、説明してもいいですか?」
「え、やば。もー、遠藤ほんとに頑張りすぎ」
桃鳥先輩はそう言いながら、資料を読み始める。
「いや、全然です」
「ほんと、無理するなよ?」
「はい」
いつも優しく見守ってくれる兄のような桃鳥先輩に、僕はたくさん救われている気がする。
「……で、ここは先生たちに協力してもらえたらと思ってます」
「なるほどな、じゃあここは俺が確認するわ」
「ありがとうございます」
「ん。じゃあ、話し合いは終わりにして。こっからは、普通にだべろう」
「え!あ、はい」
残っている飲み物を飲みながら、桃鳥先輩が話し出す。
「で、遠藤の探してる人ってさ。俺と同じ名前なの?」
いきなり真っ直ぐな槍を投げられたようで、思わずむせてしまう。
「んっ!ゴホッ……」
「え、大丈夫?」
「あ……はい。すみません」
「いや、俺こそごめん」
もともと初対面で、変な質問をしたのは僕だ。桃鳥先輩が気になるのは当たり前だよな。
「……そうです。桃鳥先輩と同じ『れん』て名前で」
「へー、そうなんだ」
「はい」
「その人が俺かもってなったから、あの時あんなグイグイだったんか」
「……本当に失礼しました」
「あははは。全然。でも、あまりにも必死だったから気になってたんだよ」
「そうだったんですね」
桃鳥先輩が僕の様子を伺いながら聞いてくる。
「その『れん』って子は、どんな人なの?」
僕は咄嗟に想像の中の理想の『れん』君を伝えてしまう。
「えっと、かっこよくて。(たぶん)運動部で、みんなを引っ張るような感じで。困っている人がいたら、ほっとけないような優しい人です」
いざ口に出すと、恥ずかしくなり前髪の間からチラッと桃鳥先輩をのぞく。すると、桃鳥先輩と目が合う。
「なんか、いいな。俺もそんな風に思われたいわ」
「え!」
「ん?」
「いや。……僕は最初、桃鳥先輩が『れん』君だと思ってたので」
僕の言葉を聞いて、隣に座る桃鳥先輩があからさまに照れる。
「え!あ、……えー。俺そんな風に思ってもらえたの?まじか」
「あはは。先輩、顔赤いです」
「ごめんごめん。なんか、自分で誘導した感含めて恥ずい」
「ふはっ。確かに」
お互い肩がぶつからない程度の距離で座りながら、小さな声で笑った。
「いつか、その『れん』が現れたら俺に会わせてよ」
「え?」
「俺が、見定める」
「ぷっ。なんですか、それ」
桃鳥先輩には全てお見通しなんだろうな。
ある一定の距離からは無理に踏み込んでこないのも、先輩らしい。
「もし会えたら、先輩のところに連れて行きますね」
「おう!約束だぞ」
また新しい関係性が生まれた気がして、僕は嬉しかった。
——『れん』君の話をできる人ができたからか。
今までいなかった存在。
『れん』君と特に進展することはなくても、自分の気持ちを隠さなくていい場所ができたのは嬉しかった。
水曜日の定例会の日。
昼休みになり、田所先輩が教室を訪ねてきた。
「えんどー」
「はい」
「これ、今日の資料だって。事前に読んでおけって。同じ委員の子にも渡しておいて」
「はい」
資料を受け取り、田所先輩が去っていく。
すると、真琴がすかさず話しかけてくる。
「おい!今のって」
「あー、同じ委員の先輩」
「いや。まぁ、そうだろうけど。あれだよな?田所先輩だよな?」
「あー、うん。知ってるの?」
「知ってるも何も、あの人結構有名じゃん」
「え?そうなの?」
真琴はバスケ部のため、田所先輩と同じ体育館をよく使用するらしい。
「あの人、モテるよな」
真琴の言葉を聞いた瞬間、驚きのあまり声が裏返る。
「え?!そうなの?!」
僕の反応に驚き、真琴も目を見開く。
「え、むしろ知らないの?」
「知らないよ!僕、帰宅部だし」
「あー、まぁ。そうなのか?」
「うん。それに、あの人かなりノンデリだよ?!」
「あー。そうそう。それも聞くわ」
「え、……なのにモテるの?」
「うん。なんか、俺もよく知らんけど。口悪いけど、ギャップでモテるらしいよ」
「……へぇ」
「まぁ、チャラい人が意外と優しいみたいな?」
「え?なんか違くない?」
真琴の言葉に思わず笑ってしまう。
でも、僕にも田所先輩のそういう部分は思い当たる節がある。
考えながら黙々とパンを食べていると、真琴が食べていた弁当の箸先を止めて思いついたように話す。
「あとさ、単純に顔爽やか系じゃん?」
「え、……でも声デカくない?」
「ふはっ。さっきから、反田所派じゃん」
真琴が笑いながら、話し続ける。
「要は、田所先輩嫌いなの?」
「……嫌いではないけど。なんか、違うっていうか」
真琴には、僕がゲイであることや、『れん』君の話もしていない。
田所先輩のことをどう思ってるのか、うまく伝える言葉が見つからない。
「まぁ、確かに。口は悪いけど、……視野は広いと思うよ」
考えた末に出た言葉を聞いて、真琴がまた笑う。
「なんだよ、結局噂通りか!」
「うん、たぶん?」
僕の曖昧な反応にくすくす笑いながら、真琴は違う話をし始めた。
放課後。
委員会に向かっていると、渡り廊下の方から声が聞こえてきた。
「類、ちょっと話せる?」
「あぁ。委員会あるから、少しなら」
「今度の日曜なんだけど、みんなでー……」
僕の視線の先には、田所先輩を甘い視線で見つめながら話すジャージ姿の女子生徒がいた。
——あ……。
あの熱を帯びた視線がどんな意味を持っているのか、すぐに分かってしまう。
「まじでモテるんだ」
二人の姿を離れたところから見て、自然と口から溢れていた。
視線の先で、女子生徒が前に垂れる髪を耳にかけながら、視線を合わせるように笑う。そんな二人を見て、僕はなんとなくその場から立ち去った。
急ぎ早に講堂に入ると、桃鳥先輩を含め数人しか来ていなかった。
「お!遠藤、お疲れ」
「お疲れ様です」
桃鳥先輩の声かけに、なんだかホッとする。
いつものように端の席に座り、他の人が来るのを待っていると、桃鳥先輩が僕のところまでやってきた。
「遠藤、ちょっといい?」
「あ、はい」
「この前、遠藤が出してくれた案なんだけど。具体的なルールとかも決めたいし、近々時間作れる?」
「分かりました!なんなら、今日とかでも」
「いや、今日は委員会あるし。明日とかどう?」
「分かりました」
「また、連絡するな」
桃鳥先輩が教壇に戻り、少しして田所先輩がやってきた。
先ほどのやりとりを盗み見てしまったのもあり、なぜか顔を真っ直ぐ見れない。
いつも通り、田所先輩は僕と反対側の位置に座る。
委員会が始まり、この前の修理や補正が間に合ってないものや、当日に向けて再度スケジュールを確認する。
途中で桃鳥先輩と視線が合った。
「あと、この前決めた競技。ルールとか、具体的に詰めるために、近々遠藤と二人で話し合って資料まとめてくる。そんで、みんなにも共有するな」
僕が桃鳥先輩に会釈をすると、ニコッと笑いかけてくる。
委員会が終わり帰宅しようとした時、反対側の席に座っていた田所先輩が近づいてきた。
思いがけない登場に、先程の渡り廊下を思い出して後退りする。
「おい、なんで逃げんだよ」
「あ、えっと……。すみません」
「……このあと、桃さん?」
「え?いや、桃鳥先輩とは明日の予定です」
「ふーん」
「先輩?」
「……別になんも。じゃあな」
「え?あ、はい。また」
——挨拶だけのために、わざわざ来たのか?
去っていく田所先輩の後ろ姿を見ながら、僕は眉間に皺を寄せた。
その日の夜。
桃鳥先輩から、メッセージが届く。
「明日の放課後、教室で待ってて」
「了解です」
桃鳥先輩のメッセージには、相変わらず可愛らしい桃のキャラクタースタンプがつく。
「桃かわいいですね」
何の気なしに送ったメッセージから数分後、桃鳥先輩からスタンプのギフトが届く。
「これ!遠藤用な!」
送られてきたのは、えんどう豆がモチーフのキャラクタースタンプ。
驚きと、申し訳なさで急いで返信をする。
「いや、ごめんなさい!そんなつもりで言ったんじゃなくて!お金払います!!」
「いや、いいのいいの。俺があげたかっただけだから。使ってくれたら、それでおっけ!」
「……ありがとうございます」
スタンプギフトを受け取り、さっそく桃鳥先輩への返信に使った。
次の日。
放課後になり、桃鳥先輩が来るまでに机の上を片したり、隣の真琴に席を借りてもいいか確認して待っていた。
しばらくして、教室のドアが開く。
僕と視線が合うなり、桃鳥先輩が手招きをしてくる。
「遠藤、お待たせ!じゃあ、行こっか」
「え?あ、自習室とかですか?」
僕の問いかけに、ニコッと笑いかけたまま桃鳥先輩は昇降口の方へ向かっていく。
「え……っと、先輩。どこ行くんですか?」
「もちろん話し合い!でもさ、今日だけはちょっと付き合ってよ」
桃鳥先輩が顔の前で手を合わせて、僕に頼んでくる。
「……はい?」
意気揚々と歩く桃鳥先輩に着いていくと、駅前にあるカフェにたどり着いた。
店内は、いつもよりも人が多い気がする。
僕が周囲を見渡していると、隣に立つ桃鳥先輩がレジ上に描いてあるメニューを眺めながら話す。
「今日、新作発売日でさ。どうしても飲みたかったんだよな」
「先輩、甘党なんですね」
「部活もこの前の大会で引退したし、好きなものに正直なだけよ」
「ふふ。なんか、ギャップあっていいですね」
「そう?今日は付き合ってもらうし、俺がご馳走するから」
「え!いや、それは悪いです!ちゃんと払いますから!」
結局、新作のメニューを僕の分まで頼んでくれた。
「……なんか、本当にすみません」
「いや、いいんだって!なんかさ、よく分からないんだけど、遠藤って可愛がりたくなるっていうか」
「え?」
「なんか、弟?みたいな。かまいたくなるんだよな」
「ふはっ」
「ん?」
「いや、この前。田所先輩にも同じようなこと言われました」
僕の返答を聞いて、桃鳥先輩が照れくさそうに笑う。
「うわー、あいつと同じ感覚は複雑」
「あはは。なんですか、それ」
飲み物を受け取り、空いている席に横並びで座る。
嬉しそうに新作を飲む桃鳥先輩は、二つ年上なのに可愛く見えた。
目が合い、僕にも早く飲むように催促する。
「美味しいですね」
「だな!予想より、かなり美味しかった」
僕たちは飲みながら、本題に入る。
「じゃあ、さっそくだけど。提案してくれた競技の大まかなルールと、配点や注意点についてまとめるか!」
桃鳥先輩の言葉に、僕は慌てて鞄から昨日家で作ってきた資料を渡す。
「まだ荒いですけど、まとめてきました。これ見ながら、説明してもいいですか?」
「え、やば。もー、遠藤ほんとに頑張りすぎ」
桃鳥先輩はそう言いながら、資料を読み始める。
「いや、全然です」
「ほんと、無理するなよ?」
「はい」
いつも優しく見守ってくれる兄のような桃鳥先輩に、僕はたくさん救われている気がする。
「……で、ここは先生たちに協力してもらえたらと思ってます」
「なるほどな、じゃあここは俺が確認するわ」
「ありがとうございます」
「ん。じゃあ、話し合いは終わりにして。こっからは、普通にだべろう」
「え!あ、はい」
残っている飲み物を飲みながら、桃鳥先輩が話し出す。
「で、遠藤の探してる人ってさ。俺と同じ名前なの?」
いきなり真っ直ぐな槍を投げられたようで、思わずむせてしまう。
「んっ!ゴホッ……」
「え、大丈夫?」
「あ……はい。すみません」
「いや、俺こそごめん」
もともと初対面で、変な質問をしたのは僕だ。桃鳥先輩が気になるのは当たり前だよな。
「……そうです。桃鳥先輩と同じ『れん』て名前で」
「へー、そうなんだ」
「はい」
「その人が俺かもってなったから、あの時あんなグイグイだったんか」
「……本当に失礼しました」
「あははは。全然。でも、あまりにも必死だったから気になってたんだよ」
「そうだったんですね」
桃鳥先輩が僕の様子を伺いながら聞いてくる。
「その『れん』って子は、どんな人なの?」
僕は咄嗟に想像の中の理想の『れん』君を伝えてしまう。
「えっと、かっこよくて。(たぶん)運動部で、みんなを引っ張るような感じで。困っている人がいたら、ほっとけないような優しい人です」
いざ口に出すと、恥ずかしくなり前髪の間からチラッと桃鳥先輩をのぞく。すると、桃鳥先輩と目が合う。
「なんか、いいな。俺もそんな風に思われたいわ」
「え!」
「ん?」
「いや。……僕は最初、桃鳥先輩が『れん』君だと思ってたので」
僕の言葉を聞いて、隣に座る桃鳥先輩があからさまに照れる。
「え!あ、……えー。俺そんな風に思ってもらえたの?まじか」
「あはは。先輩、顔赤いです」
「ごめんごめん。なんか、自分で誘導した感含めて恥ずい」
「ふはっ。確かに」
お互い肩がぶつからない程度の距離で座りながら、小さな声で笑った。
「いつか、その『れん』が現れたら俺に会わせてよ」
「え?」
「俺が、見定める」
「ぷっ。なんですか、それ」
桃鳥先輩には全てお見通しなんだろうな。
ある一定の距離からは無理に踏み込んでこないのも、先輩らしい。
「もし会えたら、先輩のところに連れて行きますね」
「おう!約束だぞ」
また新しい関係性が生まれた気がして、僕は嬉しかった。


