今日は以前まとめたクラスの意見を、委員会で報告する日。
「……で、意見としてはー……」
自分がまとめた資料を参考に、委員全体に伝える。
「確かに、熱中症とか怖いしな」
「だねー、先生に聞いてみようか」
「一昨年、全学年の有志でダンスとかあったよな?」
僕たちのクラスの意見に耳を傾け、先輩たちが生き生きと意見を交わす。
中心に立つ桃鳥先輩と視線が合う。
「遠藤、お疲れ。参考になるよ」
「いえ。よ、よかったです」
桃鳥先輩の一言で、一つの役目を果たした気分になり肩の力が抜ける。
全クラスの意見を聞いた後、書記の人が書いた黒板の箇条書きを眺める。
——本当に、意見が多いな……。
「んじゃ、これ見ながら、具体案出すぞー。全学年、クラスごとに分かれて意見まとめて」
桃鳥先輩の掛け声と共に、僕はB組の班へ移動する。
移動した先には、聞き覚えのある声がした。
「お!えんどーもBだったな」
「はい」
田所先輩が、輪の中心で楽しそうに話す。
みんなが集まったところで、三年の先輩がその場を仕切る。
「じゃあ、さっき出た意見に対して一つ一つ案を出すぞ。一年は書記お願いできる?」
「「はい」」
一年の僕らで書記をしながら、それぞれが思う具体案を出していく。
「んじゃ、次。他学年交流について」
「んー……、例年ならー……」
先輩たちが自分たちの経験を踏まえて、意見を出していく中、僕は手元にあるまとめてきた資料を見つめる。
その時、田所先輩がスッと右手を上げた。
「あの、一年の意見も聞きませんか?」
田所先輩の言葉に、三年生がハッとして僕たちを見つめる。
「ごめん。なんかあったら、遠慮なく言っていいんだぞ」
「あ……えっと」
躊躇う僕の肩に腕を回して、田所先輩が声をかけてくる。
「大丈夫だから、言ってみ?」
「……はい。あの、他学年交流についてですが……」
僕は自分が考えてきた案を、先輩たちに伝えた。
「え!それ、すげーいいと思う」
「うん。今までにない感じだね」
僕の意見を聞いた先輩たちが、楽しそうに話し合っていく。
隣で立つ田所先輩と目が合った。
「な?言ったろ」
「……はい」
なんだかんだ、苦手な田所先輩に背中を押されてしまった。
それぞれのクラスでまとめた内容を出し合い、多数決をとる。
その結果。
まさかの、僕が出した案が選ばれてしまった。
——え、まじ?
自分の考えが、いろんな人に認められた気がして素直に嬉しかった。
委員会が終わり、僕は田所先輩の元へ向かう。
「あの!」
「ん?なんだよ」
改めて目の前に立つと、照れ臭くて言おうと思っていた言葉が素直に出てこない。
「今日はその……、助かりました」
僕の決死の言葉に、田所先輩が平然と答える。
「そんなこと気にするなよ」
「……」
納得のいかない表情をしている僕を見て、田所先輩がクスッと笑った。
「お前ほんと、猫みてぇ」
——……ん?
「なんか、懐かない猫って感じ?」
——はい?
「可愛げはないのに、かまいたくなるみたいな」
——……ねこ?
「んじゃ、部活行くわ。またな」
去り際、田所先輩に頭をポンポンとされる。
誰もいなくなった講堂で、先ほど触れられた髪の毛に触る。
「……猫じゃねーし」
その週の金曜日。
今日は有志で、校庭の環境整備を行う予定だ。
体育祭に向けてということもあり、体育祭実行委員は、ほぼ強制参加だった。
まだ六月上旬なのに、ジメジメ蒸し暑くて、じっとしているだけでじんわり汗が出てくる。
担当の先生が、全体に声をかける。
「じゃあ、これから環境整備始めます。各自、事前に振り分けられたところの、ゴミや雑草など集めてください」
それぞれ散らばり、僕も割り当てられた場所に向かう。
運が悪く、僕の担当は容赦なく日が照りつける、日陰のない場所だった。
「……うわ、あつ……」
昨日は海外に行っている両親と夜中までテレビ電話していたこともあり、若干寝不足で、コンディションとしては最悪だ。
それでもサボらず真面目に作業を始めるあたり、僕らしいと思う。
黙々と作業をしていると、次第に視界がぼんやりして、校庭にいる運動部の人たちの声が遠のいていく気がした。
「あ……なんか、ちょっとやばいかも……」
いつの間にか閉じかけていた瞼を開けると、よろける僕の肩を支える田所先輩と視線が合う。
「……い!おい!遠藤、大丈夫か!」
「……あれ?せ、んぱい?」
「ちょっと待ってろ」
僕を木陰に座らせ、田所先輩がどこかへ走っていく。
——あれ?なんで、先輩ここにいるんだ?
ぼーっとしていると、田所先輩が息を切らしながら戻ってきた。
「これ、飲め!」
「え?」
田所先輩から、水筒を渡される。
「……なんですか、これ」
「スポドリだよ。部活用」
「え……」
「あ!今日はまだ、口つけてないからな!」
「……いや、そうじゃなくて」
「いいから、早く飲め!」
半ば強制的に飲まされた後、僕のことを呆れたように見つめてくる。
「お前、もう帰れ」
「え。いや、ちょっと休めば平気です」
「はぁー……、あのな。お前が居なくても、大丈夫なんだから」
「……」
——そんなハッキリ言うなよ……。
「これは、先輩命令。もう今日は帰って、休め」
「……はい」
「よし」
田所先輩はそう言うと、僕の腕を引き寄せる。
「え、ちょっ……」
「んだよ。ふらふらだろ」
「いや、でもっ」
「もー、うっせぇな。いいから、黙っとけ」
「……」
田所先輩の背中に密着し、簡単に背負われてしまった。
ひだまりのような柔軟剤の香りとともに、じんわりと伝わってくる体温。
さっき木陰で休んで少し落ち着いていた体温が、また上がっていく気がした。
恥ずかしさと、情けなさで絞り出すような細い声でお礼を伝える。
「……ありがとう、ございます」
「おう」
先輩に保健室まで運んでもらい、念のため少し寝かせてもらった。
去り際に田所先輩が、声をかけてくる。
「桃先輩と、柴センには俺から伝えておくわ」
「……ありがとうございます」
田所先輩が去った後、火照った身体を鎮めるようにベッドに横たわる。
日が暮れた頃、体調も回復し保健室をあとにする。
スマホを見ると、桃鳥先輩から心配するメッセージが来ていた。
「遠藤、大丈夫?無理するなよ」
気遣うメッセージとともに、桃のキャラクタースタンプが送られてきていた。
桃鳥先輩のセンスに少し笑ってしまう。
「ご迷惑おかけしてすみません。もう大丈夫です」
返信を送ったあと、スマホを操作する指が止まる。
——んー……。いや、でも……こういうのは礼儀だよな。
頭の中で何度も悩みながら、追加で桃鳥先輩へメッセージを送った。
「田所先輩の連絡先教えてもらえますか?」
送信ボタンを押したあと、なぜか胸がざわつく。
少しして、桃鳥先輩から返信が来た。
「おけー!一応、田所にも教えたことは伝えとくな!」
文章とともに、友達リストが送られてくる。
「ありがとうございます」
「はいよー」
田所先輩の連絡先を登録する。
「るいっていうんだ」
名前を見て、ふと思い出す。
「あ、あの時の先輩って……」
入学式の日、やけに響き渡る声で騒いでいた上級生が田所先輩だったことに気づいた。
「ふはっ。やっぱ、あの人うるさい」
僕はそう言いながら、スマホの画面を見つめて、ふと笑っていた。
「……で、意見としてはー……」
自分がまとめた資料を参考に、委員全体に伝える。
「確かに、熱中症とか怖いしな」
「だねー、先生に聞いてみようか」
「一昨年、全学年の有志でダンスとかあったよな?」
僕たちのクラスの意見に耳を傾け、先輩たちが生き生きと意見を交わす。
中心に立つ桃鳥先輩と視線が合う。
「遠藤、お疲れ。参考になるよ」
「いえ。よ、よかったです」
桃鳥先輩の一言で、一つの役目を果たした気分になり肩の力が抜ける。
全クラスの意見を聞いた後、書記の人が書いた黒板の箇条書きを眺める。
——本当に、意見が多いな……。
「んじゃ、これ見ながら、具体案出すぞー。全学年、クラスごとに分かれて意見まとめて」
桃鳥先輩の掛け声と共に、僕はB組の班へ移動する。
移動した先には、聞き覚えのある声がした。
「お!えんどーもBだったな」
「はい」
田所先輩が、輪の中心で楽しそうに話す。
みんなが集まったところで、三年の先輩がその場を仕切る。
「じゃあ、さっき出た意見に対して一つ一つ案を出すぞ。一年は書記お願いできる?」
「「はい」」
一年の僕らで書記をしながら、それぞれが思う具体案を出していく。
「んじゃ、次。他学年交流について」
「んー……、例年ならー……」
先輩たちが自分たちの経験を踏まえて、意見を出していく中、僕は手元にあるまとめてきた資料を見つめる。
その時、田所先輩がスッと右手を上げた。
「あの、一年の意見も聞きませんか?」
田所先輩の言葉に、三年生がハッとして僕たちを見つめる。
「ごめん。なんかあったら、遠慮なく言っていいんだぞ」
「あ……えっと」
躊躇う僕の肩に腕を回して、田所先輩が声をかけてくる。
「大丈夫だから、言ってみ?」
「……はい。あの、他学年交流についてですが……」
僕は自分が考えてきた案を、先輩たちに伝えた。
「え!それ、すげーいいと思う」
「うん。今までにない感じだね」
僕の意見を聞いた先輩たちが、楽しそうに話し合っていく。
隣で立つ田所先輩と目が合った。
「な?言ったろ」
「……はい」
なんだかんだ、苦手な田所先輩に背中を押されてしまった。
それぞれのクラスでまとめた内容を出し合い、多数決をとる。
その結果。
まさかの、僕が出した案が選ばれてしまった。
——え、まじ?
自分の考えが、いろんな人に認められた気がして素直に嬉しかった。
委員会が終わり、僕は田所先輩の元へ向かう。
「あの!」
「ん?なんだよ」
改めて目の前に立つと、照れ臭くて言おうと思っていた言葉が素直に出てこない。
「今日はその……、助かりました」
僕の決死の言葉に、田所先輩が平然と答える。
「そんなこと気にするなよ」
「……」
納得のいかない表情をしている僕を見て、田所先輩がクスッと笑った。
「お前ほんと、猫みてぇ」
——……ん?
「なんか、懐かない猫って感じ?」
——はい?
「可愛げはないのに、かまいたくなるみたいな」
——……ねこ?
「んじゃ、部活行くわ。またな」
去り際、田所先輩に頭をポンポンとされる。
誰もいなくなった講堂で、先ほど触れられた髪の毛に触る。
「……猫じゃねーし」
その週の金曜日。
今日は有志で、校庭の環境整備を行う予定だ。
体育祭に向けてということもあり、体育祭実行委員は、ほぼ強制参加だった。
まだ六月上旬なのに、ジメジメ蒸し暑くて、じっとしているだけでじんわり汗が出てくる。
担当の先生が、全体に声をかける。
「じゃあ、これから環境整備始めます。各自、事前に振り分けられたところの、ゴミや雑草など集めてください」
それぞれ散らばり、僕も割り当てられた場所に向かう。
運が悪く、僕の担当は容赦なく日が照りつける、日陰のない場所だった。
「……うわ、あつ……」
昨日は海外に行っている両親と夜中までテレビ電話していたこともあり、若干寝不足で、コンディションとしては最悪だ。
それでもサボらず真面目に作業を始めるあたり、僕らしいと思う。
黙々と作業をしていると、次第に視界がぼんやりして、校庭にいる運動部の人たちの声が遠のいていく気がした。
「あ……なんか、ちょっとやばいかも……」
いつの間にか閉じかけていた瞼を開けると、よろける僕の肩を支える田所先輩と視線が合う。
「……い!おい!遠藤、大丈夫か!」
「……あれ?せ、んぱい?」
「ちょっと待ってろ」
僕を木陰に座らせ、田所先輩がどこかへ走っていく。
——あれ?なんで、先輩ここにいるんだ?
ぼーっとしていると、田所先輩が息を切らしながら戻ってきた。
「これ、飲め!」
「え?」
田所先輩から、水筒を渡される。
「……なんですか、これ」
「スポドリだよ。部活用」
「え……」
「あ!今日はまだ、口つけてないからな!」
「……いや、そうじゃなくて」
「いいから、早く飲め!」
半ば強制的に飲まされた後、僕のことを呆れたように見つめてくる。
「お前、もう帰れ」
「え。いや、ちょっと休めば平気です」
「はぁー……、あのな。お前が居なくても、大丈夫なんだから」
「……」
——そんなハッキリ言うなよ……。
「これは、先輩命令。もう今日は帰って、休め」
「……はい」
「よし」
田所先輩はそう言うと、僕の腕を引き寄せる。
「え、ちょっ……」
「んだよ。ふらふらだろ」
「いや、でもっ」
「もー、うっせぇな。いいから、黙っとけ」
「……」
田所先輩の背中に密着し、簡単に背負われてしまった。
ひだまりのような柔軟剤の香りとともに、じんわりと伝わってくる体温。
さっき木陰で休んで少し落ち着いていた体温が、また上がっていく気がした。
恥ずかしさと、情けなさで絞り出すような細い声でお礼を伝える。
「……ありがとう、ございます」
「おう」
先輩に保健室まで運んでもらい、念のため少し寝かせてもらった。
去り際に田所先輩が、声をかけてくる。
「桃先輩と、柴センには俺から伝えておくわ」
「……ありがとうございます」
田所先輩が去った後、火照った身体を鎮めるようにベッドに横たわる。
日が暮れた頃、体調も回復し保健室をあとにする。
スマホを見ると、桃鳥先輩から心配するメッセージが来ていた。
「遠藤、大丈夫?無理するなよ」
気遣うメッセージとともに、桃のキャラクタースタンプが送られてきていた。
桃鳥先輩のセンスに少し笑ってしまう。
「ご迷惑おかけしてすみません。もう大丈夫です」
返信を送ったあと、スマホを操作する指が止まる。
——んー……。いや、でも……こういうのは礼儀だよな。
頭の中で何度も悩みながら、追加で桃鳥先輩へメッセージを送った。
「田所先輩の連絡先教えてもらえますか?」
送信ボタンを押したあと、なぜか胸がざわつく。
少しして、桃鳥先輩から返信が来た。
「おけー!一応、田所にも教えたことは伝えとくな!」
文章とともに、友達リストが送られてくる。
「ありがとうございます」
「はいよー」
田所先輩の連絡先を登録する。
「るいっていうんだ」
名前を見て、ふと思い出す。
「あ、あの時の先輩って……」
入学式の日、やけに響き渡る声で騒いでいた上級生が田所先輩だったことに気づいた。
「ふはっ。やっぱ、あの人うるさい」
僕はそう言いながら、スマホの画面を見つめて、ふと笑っていた。


