正面玄関に張り出された名簿を見つめる。
——えっと……、B組か。
自分のクラスを確認した後、隣のA組、C組と、順に視線をずらす。
——れん、れん、れん……。
……いないか。
思わず、小さく息が漏れた。
予想はしていたが、やっぱり落ち込む。
僕はゆっくり教室へ向かい、自分の席についた。
少しよそよそしい雰囲気のクラスを見渡していると、隣の席の人と目が合い、お互い会釈する。
「よろしく」
「あ、うん。よろしく」
「名前……遠藤くん?」
「うん。えっと、鹿島くんかな?」
黒板に張り出された席次表を見て、お互い名前を確認する。
「なんか、この雰囲気ちょっと苦手だわ」
「わかる。なんか、落ち着かないよね」
「だよな。いや、でも遠藤が話しやすくて助かったわ」
「え?そう、かな?」
「うん!これから、よろしくな!」
鹿島くんは挨拶をした後、お兄さんが同じ高校に通っていることもあり、僕が知らない情報をたくさん教えてくれた。
鹿島くんと話しているうちに、担任の先生が教室に来て、体育館へ移動する。
入学式を終えて教室に戻る時、渡り廊下の方から賑やかな声が聞こえてくる。
「おーい!お前ら、ちゃんとこっちに投げろって」
「あははは。類、ごめん!取ってきて」
「お前ら!覚えとけよ!」
騒がしい方に視線を向けると、ネクタイの色が違う男子生徒がいた。
——……上級生か?
ケラケラ笑う彼らを横目に、足早に教室へ戻った。
担任の挨拶が終わり、端の席から一人ずつ立ち上がる。
名前や出身中学などを交えながら、自己紹介が始まった。
「遠藤要です。えっと、中学までは東京の学校で、今年の春から美空市に引っ越してきました。よろしくお願いします」
席に座り、無事挨拶を終えたことに一安心する。
クラス全員の自己紹介が終わると、次に委員会決めが始まった。
入学式前に鹿島くんから教えてもらったことを思い出す。
「俺の兄ちゃんもこの学校なんだけど。体育祭実行委員は、結構大変だからやめとけって言われた」
その時は相槌を打つだけだったが、委員会決めが始まると、誰も手をあげない現状が見えてくる。
みんな大変さを知っているからなのか、それともクラス全体が控えめだからなのか、誰も立候補しない。
入学したばかりのよそよそしい雰囲気に、緊張感も増していく。
そこに追い打ちをかけるように、担任が呆れたように口を開く。
「おーい、誰もやらないのか?居ないなら、くじになるぞ」
——あぁ、……この空気苦手だ。
静まり返る教室で、僕は静かに右手を挙げた。
僕が手を挙げたことで、教壇に立つ担任が嬉しそうに頷く。
「お!遠藤いいね!よろしく」
「……はい」
その後、女子はくじ引きで決まった。
「遠藤!お前、よく手挙げたな」
「……鹿島くん」
「真琴でいいよ」
「あ、うん。僕も、要で」
「俺の忠告があっても、手を挙げるって……。さては要、断れないたちだな」
「……あはは。そんなことないよ」
冗談混じりで話す真琴に、一瞬で僕の人間性が見透かされた気がした。
——今日は記念すべき、高校初日なのに。
名簿には、探していた名前はなかった。
それに、なんだかめんどくさそうな委員会を引き受けてしまった。
——変われてないな……。
物心ついた頃から、僕は自分が周りと少し違うことに気づいていた。そんな自分を守るために、周囲の変化や雰囲気に人一倍敏感になっていた。
だから、みんながやりたくなさそうなことを引き受けてしまう癖がある。
誰もやらないなら、自分がやるしかない。
「高校では、やめようって思ってたのにな……」
きっと『れん』君なら、他の方法でこの空気を変えてしまうんだろうな。
長年拗らせてきた初恋が、僕の中で理想の『れん』君を作り上げていく。
部活は、運動部だろうな。
バスケか……、サッカーとかも似合うなぁ。
めんどくさい委員会も、僕とは違って前向きに引き受けて、なんなら楽しんじゃうんだろうな。
困ってる人がいたら、自然と助けたり……。
今も誰かの頭、撫でてるのかな……。
勝手に妄想して、落ち込む。
——はぁ、会いたいなぁ。
この時の僕は、止まっていた初恋が動き出したことなんて、気づきもしなかった。
——えっと……、B組か。
自分のクラスを確認した後、隣のA組、C組と、順に視線をずらす。
——れん、れん、れん……。
……いないか。
思わず、小さく息が漏れた。
予想はしていたが、やっぱり落ち込む。
僕はゆっくり教室へ向かい、自分の席についた。
少しよそよそしい雰囲気のクラスを見渡していると、隣の席の人と目が合い、お互い会釈する。
「よろしく」
「あ、うん。よろしく」
「名前……遠藤くん?」
「うん。えっと、鹿島くんかな?」
黒板に張り出された席次表を見て、お互い名前を確認する。
「なんか、この雰囲気ちょっと苦手だわ」
「わかる。なんか、落ち着かないよね」
「だよな。いや、でも遠藤が話しやすくて助かったわ」
「え?そう、かな?」
「うん!これから、よろしくな!」
鹿島くんは挨拶をした後、お兄さんが同じ高校に通っていることもあり、僕が知らない情報をたくさん教えてくれた。
鹿島くんと話しているうちに、担任の先生が教室に来て、体育館へ移動する。
入学式を終えて教室に戻る時、渡り廊下の方から賑やかな声が聞こえてくる。
「おーい!お前ら、ちゃんとこっちに投げろって」
「あははは。類、ごめん!取ってきて」
「お前ら!覚えとけよ!」
騒がしい方に視線を向けると、ネクタイの色が違う男子生徒がいた。
——……上級生か?
ケラケラ笑う彼らを横目に、足早に教室へ戻った。
担任の挨拶が終わり、端の席から一人ずつ立ち上がる。
名前や出身中学などを交えながら、自己紹介が始まった。
「遠藤要です。えっと、中学までは東京の学校で、今年の春から美空市に引っ越してきました。よろしくお願いします」
席に座り、無事挨拶を終えたことに一安心する。
クラス全員の自己紹介が終わると、次に委員会決めが始まった。
入学式前に鹿島くんから教えてもらったことを思い出す。
「俺の兄ちゃんもこの学校なんだけど。体育祭実行委員は、結構大変だからやめとけって言われた」
その時は相槌を打つだけだったが、委員会決めが始まると、誰も手をあげない現状が見えてくる。
みんな大変さを知っているからなのか、それともクラス全体が控えめだからなのか、誰も立候補しない。
入学したばかりのよそよそしい雰囲気に、緊張感も増していく。
そこに追い打ちをかけるように、担任が呆れたように口を開く。
「おーい、誰もやらないのか?居ないなら、くじになるぞ」
——あぁ、……この空気苦手だ。
静まり返る教室で、僕は静かに右手を挙げた。
僕が手を挙げたことで、教壇に立つ担任が嬉しそうに頷く。
「お!遠藤いいね!よろしく」
「……はい」
その後、女子はくじ引きで決まった。
「遠藤!お前、よく手挙げたな」
「……鹿島くん」
「真琴でいいよ」
「あ、うん。僕も、要で」
「俺の忠告があっても、手を挙げるって……。さては要、断れないたちだな」
「……あはは。そんなことないよ」
冗談混じりで話す真琴に、一瞬で僕の人間性が見透かされた気がした。
——今日は記念すべき、高校初日なのに。
名簿には、探していた名前はなかった。
それに、なんだかめんどくさそうな委員会を引き受けてしまった。
——変われてないな……。
物心ついた頃から、僕は自分が周りと少し違うことに気づいていた。そんな自分を守るために、周囲の変化や雰囲気に人一倍敏感になっていた。
だから、みんながやりたくなさそうなことを引き受けてしまう癖がある。
誰もやらないなら、自分がやるしかない。
「高校では、やめようって思ってたのにな……」
きっと『れん』君なら、他の方法でこの空気を変えてしまうんだろうな。
長年拗らせてきた初恋が、僕の中で理想の『れん』君を作り上げていく。
部活は、運動部だろうな。
バスケか……、サッカーとかも似合うなぁ。
めんどくさい委員会も、僕とは違って前向きに引き受けて、なんなら楽しんじゃうんだろうな。
困ってる人がいたら、自然と助けたり……。
今も誰かの頭、撫でてるのかな……。
勝手に妄想して、落ち込む。
——はぁ、会いたいなぁ。
この時の僕は、止まっていた初恋が動き出したことなんて、気づきもしなかった。


