一学期最終日。
ホームルームを終え、机の中を確認していると、隣の席の真琴が話しかけてきた。
「要、この後なんかある?」
「いや、特にない。真琴は部活だろ?」
「それがさ、今日顧問の都合で休みになったんだよ。だから、メシ行かん?」
「まじか!行こ行こ!」
思いがけない誘いに嬉しくなる。
学校近くのファミレスに入り、注文を済ませる。
「まじさー、ほんとギリギリだけど何とかなったわ」
「ほんと、ギリだったね」
「田所先輩の過去問がなかったら、俺は今頃塾という名の牢獄に入れられてた」
「ふふ。今度、直接お礼言いなよ」
「もち!部活で会ったら言うつもり」
真琴が食べ終えた後、鞄の中をガサゴソと漁りながら何かを取り出して、僕の目の前に置く。
「これ、家族からもらったんだけどさ。うちの親の会社が付き合いあるから、毎年こういうの貰うんだよ」
「へぇ……」
「要たちが勉強手伝ってくれたお礼」
「……いいの?」
「いいよ。二枚あるから、田所先輩と行ってこいよ」
僕が躊躇っていると、真琴が笑いながら話す。
「俺にとっては、この前の勉強会マジで助かったんだよ。大学行ったら、親の仕事手伝いながら勉強する約束してて、高校までしか好きなことできねぇから。だから、本当に感謝してる」
真琴のことを、まだまだ知らないんだなと思った。
「ありがとう。でもさ、次からはこういうのなしで。テスト前以外も勉強とかして、真琴がやりたいこと、やれるように僕も手伝うから」
「かなめぇ……ほんと、要と友達になれてよかった」
「……僕だって大学とか行っても、真琴とは友達でいたいし」
「はぁ、……なるほどな。はいはい、遠藤要を好きになってしまう人の気持ちを理解してしまったわ」
「え?」
「はぁ、ほんと俺もずっと要と友達でいたいわ」
「んじゃ、また夏休みどっかで会おうな」
「うん!とりあえず、早めに課題の進捗確認するね」
「うわ、それマジでよろしく」
「はいはい」
真琴と駅で別れて、類先輩にメッセージを送る。
「今日、夜とか電話できますか?」
少し経って返信が来た。
「八時過ぎでもいいなら」
「はい。大丈夫です」
夜八時になり、スマホに着信が入る。
「お疲れ」
「お疲れ様です」
「なんかあったのか?」
「え?」
「いや、電話したいって来たから」
「あー、それは。……普通に声聞きたかったし」
「……そ、そうか」
まだ慣れない電話に、耳の奥が痒くなる。
そんな中、僕は手元にあるチケットを見つめる。
「あの、今日真琴とご飯行って」
「あー、バスケ部今日休みだったな」
「はい。それで、真琴から勉強会のお礼にってハーモニーランドのチケット貰ったんですけど」
「え?!まじで?」
「……せっかくなので、行きませんか?」
「おう、行くか」
「はい!」
真琴の粋な計らいで、夏休みの楽しみができた。
約束の日。
七時台の電車に乗り込むと、既に乗っていた類先輩と視線が合う。
「はよ」
「おはようございます」
「空いてるとこ座るか」
空いてる席に座り、電車に揺られながら話す。
「人少ないですね」
「夏休みだからな」
「あー、なるほど」
「行くの久々?」
「そうですね。小学生ぶりです」
「俺も」
時折揺れで肩がぶつかり、その都度ドキドキしてしまう。窓の外から照りつける日差しも相まって、朝から体温が熱くなった。
最寄駅に着き、開演前の列に並ぶ。
周りを見渡すと、男性同士で来ている人もいて少し安心した。
列に並びながら、僕は懸念していることがありチラッと類先輩を見る。
すると僕の視線に気づき、首を傾げた。
「どした?」
「……先輩って、待ち時間とか嫌かなぁって」
「は?」
「いや、その。こういう所って、待ち時間長いからよく険悪になるって聞くので」
テレビだかYouTubeで聞いたことがある別れ話を思い出し、僕は少しだけ不安になっていた。
類先輩はそんな僕の質問に、意味がわからないという顔をする。
「嫌なことあったら嫌っていうし。要も言えばいい。そんなんで嫌になるわけないだろ」
何の躊躇いもなく話す類先輩に、僕はまた好きが増していく。
「そうですね」
「ん」
入園後。
僕たちは入ってすぐのショップで、お揃いのサングラスを買った。
キャラクターものにも憧れたけど、先輩とお揃いにしたくてサングラスを選んだ。
「これ、意外と使えるな」
「ふふ。はい。似合ってますよ」
お互いサングラスをかけて、マップを見ながら行く場所を決める。
すると目の前で、女子高生らしき人たちがお揃いのコスチュームで写真を撮っているのが目に入った。
見つめている僕に、類先輩が声をかけてくる。
「俺らも撮る?」
「え?」
「いや、撮りたいんかなって」
こういう時の類先輩は、察しが良すぎてこちらだけが恥ずかしくなる。
「……類先輩がいいなら撮りたい」
「ふはっ。いいに決まってんだろ」
僕がカメラを構えると、僕の肩をグッと引き寄せて類先輩の顔が近づく。
熱くなった頬が赤くなる前に、僕らは初めて二人で写真を撮った。
二人でポップコーンを食べながら歩いていると、ハーモニーランドで大人気のキャラクターと写真を撮ることができるアトラクションの前に着く。
「類先輩!せっかくだから、撮りましょうよ」
「えー、こういうのってどう反応すれば良いかわかんねぇんだよな」
「そんなの、ノリと勢いで楽しめば良いんですよ」
半ば強引にアトラクションの列に並ぶ。
「次のグループで案内しますね」
いよいよ、ハーモニーランドで大人気のシングくんと、ソングちゃんに会う。
スタッフの人にスマホを渡して、手を振りながら待つ彼らの元に類先輩を引き連れていく。
すると、シングくんが僕と類先輩を真ん中に立たせた後もっと近付くようにジェスチャーをする。
先輩が照れくさそうにしながらも、僕の方へ近づく。
すると、ソングちゃんが僕らの身だしなみを整えるような動きで、僕と類先輩の手を重ねて自分の位置へ戻る。
驚いていると、僕の反対の手をシングくんが繋ぎ、類先輩の反対の手はソングちゃんが繋いだ。
人前で類先輩と手を繋いでいること自体が奇跡のような時間を噛み締める。
あっという間に写真撮影が終わり、最後にソングちゃんが僕らに向けて空中でハートを描いてくれた。
「俺らのこと知ってるのか?」
「ふふ、そんなわけないですよ」
撮影データを受け取り、出口の方へ歩き出す。
「でも、僕は嬉しかったです」
「え?」
「類先輩と手繋いで、写真撮れたの」
撮影してもらったデータを見ると、僕らが手を繋いだ瞬間や、それに驚く表情なども撮られていた。
「え、俺こんな顔してたの」
「僕たち動揺しすぎですね」
「いや、アレは誰だってするだろ」
「あはは。僕これトーク画面の背景にしよ」
「俺もそうするか」
まだまだ人前で手を繋いだりすることはできないけど、僕たちが一緒にいることを受け入れてもらえた気がして嬉しかった。
その後もテーマパーク限定のハンバーガーを食べたり、アトラクションやショーを見て帰宅する。
「最後のプロジェクションマッピング凄かったですね」
「あぁ。俺全然詳しくないけど、感動した」
「僕もです。今度一緒にDVD借りて観ますか?」
「いいな、それ」
帰りの電車で楽しかったことを話していると、あっという間に最寄駅に着く。
——もう、着いちゃった。
一日中歩いて疲れているし、これ以上わがままは良くない。
「じゃあ、また連絡します」
そう言って僕が立ち上がろうとすると、隣に座る類先輩が僕の腕を掴む。
「今日さ、俺ん家みんないねーんだけど」
「……え?」
「だから、母さんたちは実家だし。弟も合宿で。今日誰も家にいねぇから」
「……えっと」
類先輩の言葉に驚きと動揺で、何も返せない。
「……急だよな。やっぱなしで」
困ったように笑いながら話す類先輩を見て、僕は思わず勢いで答えてしまう。
「あの!その、今日何も準備できてないですけど。……それでもいいなら、先輩の家行っていいですか?」
「え?あぁ、服とかは貸すから気にすんな」
「じゃあ、ばぁちゃんに連絡します」
「おう」
類先輩の最寄り駅で降り、近くのコンビニで必要なものを買う。
下着や歯ブラシをカゴに入れながら、僕は類先輩の考えていることが読めずにいた。
——先輩は、どこまで考えてるんだろ……。
すると、後ろから類先輩が声をかけてくる。
「明日の朝飯、パンでいい?」
「あ、はい!」
「おけ。じゃあ、そろそろ行くか」
カゴに入れたものを会計して、類先輩の家へ向かった。
誰もいないと知っていても、緊張する。
「おじゃまします」
少し小さな声でそう言うと、類先輩がクスッと笑う。
「いや、誰もいねぇから」
「は、はい」
リビングに案内され、ソファに座ると類先輩がお茶を出してくれる。
「ありがとうございます」
「ん。俺、風呂沸かしてくる」
「あ、はい」
リビングで一人になり、色々考えてしまう。
——え。今日ってもしかして、そういうこと?
自分のセクシャリティを理解してから、そういうことを調べたりもした。
でも、まさか今日そうなるとは思っておらず、気持ちも身体も準備不足だ。
焦りと不安でいっぱいになる中、類先輩が戻ってくる。
「どした?」
僕の気持ちが表情に出ていたのか、類先輩が心配そうに尋ねてくる。
——ちゃんと言わなきゃ。
「あの……」
「ん?」
「その、類先輩のこと好きなので。いずれ、そういうことをしたいと思ってるんですけど。きょ、今日はまだそのちょっと……怖いです」
僕の言葉を聞いて、類先輩が目を見開く。
「あっ、えっと。ごめん、俺そんなつもりで」
「……え?」
「いや。お、俺もいつかは要とそういう事したいけど」
類先輩が顔を赤くしながら話す。
「でも、今日は本当に。もっと一緒にいたくて誘ったっていう……」
「えっ!!あー……」
穴があるなら入りたいは、今の僕のための言葉だ。恥ずかしくて、隣にあったクッションに顔を埋める。
「か、要?」
「……ごめんなさい。ほんと、恥ずかしくて死にそう」
うずくまっている僕の隣に座り、類先輩がそっと抱きしめる。
「ごめん、怒られそうだけど。要がそういう事考えてくれてんのは、結構嬉しい」
「……そりゃあ、僕だって男ですから」
ゆっくりと顔を上げると、類先輩と視線が合う。
お互いの間に甘い空気が流れて僕が目を閉じると、類先輩の唇がゆっくり重なった。
唇が離れ、類先輩の腕に包まれる。
「要、好きだよ」
「うん。僕も」
僕ららしく。
初恋の続きは、ゆっくりとまだまだ続いていく。
ホームルームを終え、机の中を確認していると、隣の席の真琴が話しかけてきた。
「要、この後なんかある?」
「いや、特にない。真琴は部活だろ?」
「それがさ、今日顧問の都合で休みになったんだよ。だから、メシ行かん?」
「まじか!行こ行こ!」
思いがけない誘いに嬉しくなる。
学校近くのファミレスに入り、注文を済ませる。
「まじさー、ほんとギリギリだけど何とかなったわ」
「ほんと、ギリだったね」
「田所先輩の過去問がなかったら、俺は今頃塾という名の牢獄に入れられてた」
「ふふ。今度、直接お礼言いなよ」
「もち!部活で会ったら言うつもり」
真琴が食べ終えた後、鞄の中をガサゴソと漁りながら何かを取り出して、僕の目の前に置く。
「これ、家族からもらったんだけどさ。うちの親の会社が付き合いあるから、毎年こういうの貰うんだよ」
「へぇ……」
「要たちが勉強手伝ってくれたお礼」
「……いいの?」
「いいよ。二枚あるから、田所先輩と行ってこいよ」
僕が躊躇っていると、真琴が笑いながら話す。
「俺にとっては、この前の勉強会マジで助かったんだよ。大学行ったら、親の仕事手伝いながら勉強する約束してて、高校までしか好きなことできねぇから。だから、本当に感謝してる」
真琴のことを、まだまだ知らないんだなと思った。
「ありがとう。でもさ、次からはこういうのなしで。テスト前以外も勉強とかして、真琴がやりたいこと、やれるように僕も手伝うから」
「かなめぇ……ほんと、要と友達になれてよかった」
「……僕だって大学とか行っても、真琴とは友達でいたいし」
「はぁ、……なるほどな。はいはい、遠藤要を好きになってしまう人の気持ちを理解してしまったわ」
「え?」
「はぁ、ほんと俺もずっと要と友達でいたいわ」
「んじゃ、また夏休みどっかで会おうな」
「うん!とりあえず、早めに課題の進捗確認するね」
「うわ、それマジでよろしく」
「はいはい」
真琴と駅で別れて、類先輩にメッセージを送る。
「今日、夜とか電話できますか?」
少し経って返信が来た。
「八時過ぎでもいいなら」
「はい。大丈夫です」
夜八時になり、スマホに着信が入る。
「お疲れ」
「お疲れ様です」
「なんかあったのか?」
「え?」
「いや、電話したいって来たから」
「あー、それは。……普通に声聞きたかったし」
「……そ、そうか」
まだ慣れない電話に、耳の奥が痒くなる。
そんな中、僕は手元にあるチケットを見つめる。
「あの、今日真琴とご飯行って」
「あー、バスケ部今日休みだったな」
「はい。それで、真琴から勉強会のお礼にってハーモニーランドのチケット貰ったんですけど」
「え?!まじで?」
「……せっかくなので、行きませんか?」
「おう、行くか」
「はい!」
真琴の粋な計らいで、夏休みの楽しみができた。
約束の日。
七時台の電車に乗り込むと、既に乗っていた類先輩と視線が合う。
「はよ」
「おはようございます」
「空いてるとこ座るか」
空いてる席に座り、電車に揺られながら話す。
「人少ないですね」
「夏休みだからな」
「あー、なるほど」
「行くの久々?」
「そうですね。小学生ぶりです」
「俺も」
時折揺れで肩がぶつかり、その都度ドキドキしてしまう。窓の外から照りつける日差しも相まって、朝から体温が熱くなった。
最寄駅に着き、開演前の列に並ぶ。
周りを見渡すと、男性同士で来ている人もいて少し安心した。
列に並びながら、僕は懸念していることがありチラッと類先輩を見る。
すると僕の視線に気づき、首を傾げた。
「どした?」
「……先輩って、待ち時間とか嫌かなぁって」
「は?」
「いや、その。こういう所って、待ち時間長いからよく険悪になるって聞くので」
テレビだかYouTubeで聞いたことがある別れ話を思い出し、僕は少しだけ不安になっていた。
類先輩はそんな僕の質問に、意味がわからないという顔をする。
「嫌なことあったら嫌っていうし。要も言えばいい。そんなんで嫌になるわけないだろ」
何の躊躇いもなく話す類先輩に、僕はまた好きが増していく。
「そうですね」
「ん」
入園後。
僕たちは入ってすぐのショップで、お揃いのサングラスを買った。
キャラクターものにも憧れたけど、先輩とお揃いにしたくてサングラスを選んだ。
「これ、意外と使えるな」
「ふふ。はい。似合ってますよ」
お互いサングラスをかけて、マップを見ながら行く場所を決める。
すると目の前で、女子高生らしき人たちがお揃いのコスチュームで写真を撮っているのが目に入った。
見つめている僕に、類先輩が声をかけてくる。
「俺らも撮る?」
「え?」
「いや、撮りたいんかなって」
こういう時の類先輩は、察しが良すぎてこちらだけが恥ずかしくなる。
「……類先輩がいいなら撮りたい」
「ふはっ。いいに決まってんだろ」
僕がカメラを構えると、僕の肩をグッと引き寄せて類先輩の顔が近づく。
熱くなった頬が赤くなる前に、僕らは初めて二人で写真を撮った。
二人でポップコーンを食べながら歩いていると、ハーモニーランドで大人気のキャラクターと写真を撮ることができるアトラクションの前に着く。
「類先輩!せっかくだから、撮りましょうよ」
「えー、こういうのってどう反応すれば良いかわかんねぇんだよな」
「そんなの、ノリと勢いで楽しめば良いんですよ」
半ば強引にアトラクションの列に並ぶ。
「次のグループで案内しますね」
いよいよ、ハーモニーランドで大人気のシングくんと、ソングちゃんに会う。
スタッフの人にスマホを渡して、手を振りながら待つ彼らの元に類先輩を引き連れていく。
すると、シングくんが僕と類先輩を真ん中に立たせた後もっと近付くようにジェスチャーをする。
先輩が照れくさそうにしながらも、僕の方へ近づく。
すると、ソングちゃんが僕らの身だしなみを整えるような動きで、僕と類先輩の手を重ねて自分の位置へ戻る。
驚いていると、僕の反対の手をシングくんが繋ぎ、類先輩の反対の手はソングちゃんが繋いだ。
人前で類先輩と手を繋いでいること自体が奇跡のような時間を噛み締める。
あっという間に写真撮影が終わり、最後にソングちゃんが僕らに向けて空中でハートを描いてくれた。
「俺らのこと知ってるのか?」
「ふふ、そんなわけないですよ」
撮影データを受け取り、出口の方へ歩き出す。
「でも、僕は嬉しかったです」
「え?」
「類先輩と手繋いで、写真撮れたの」
撮影してもらったデータを見ると、僕らが手を繋いだ瞬間や、それに驚く表情なども撮られていた。
「え、俺こんな顔してたの」
「僕たち動揺しすぎですね」
「いや、アレは誰だってするだろ」
「あはは。僕これトーク画面の背景にしよ」
「俺もそうするか」
まだまだ人前で手を繋いだりすることはできないけど、僕たちが一緒にいることを受け入れてもらえた気がして嬉しかった。
その後もテーマパーク限定のハンバーガーを食べたり、アトラクションやショーを見て帰宅する。
「最後のプロジェクションマッピング凄かったですね」
「あぁ。俺全然詳しくないけど、感動した」
「僕もです。今度一緒にDVD借りて観ますか?」
「いいな、それ」
帰りの電車で楽しかったことを話していると、あっという間に最寄駅に着く。
——もう、着いちゃった。
一日中歩いて疲れているし、これ以上わがままは良くない。
「じゃあ、また連絡します」
そう言って僕が立ち上がろうとすると、隣に座る類先輩が僕の腕を掴む。
「今日さ、俺ん家みんないねーんだけど」
「……え?」
「だから、母さんたちは実家だし。弟も合宿で。今日誰も家にいねぇから」
「……えっと」
類先輩の言葉に驚きと動揺で、何も返せない。
「……急だよな。やっぱなしで」
困ったように笑いながら話す類先輩を見て、僕は思わず勢いで答えてしまう。
「あの!その、今日何も準備できてないですけど。……それでもいいなら、先輩の家行っていいですか?」
「え?あぁ、服とかは貸すから気にすんな」
「じゃあ、ばぁちゃんに連絡します」
「おう」
類先輩の最寄り駅で降り、近くのコンビニで必要なものを買う。
下着や歯ブラシをカゴに入れながら、僕は類先輩の考えていることが読めずにいた。
——先輩は、どこまで考えてるんだろ……。
すると、後ろから類先輩が声をかけてくる。
「明日の朝飯、パンでいい?」
「あ、はい!」
「おけ。じゃあ、そろそろ行くか」
カゴに入れたものを会計して、類先輩の家へ向かった。
誰もいないと知っていても、緊張する。
「おじゃまします」
少し小さな声でそう言うと、類先輩がクスッと笑う。
「いや、誰もいねぇから」
「は、はい」
リビングに案内され、ソファに座ると類先輩がお茶を出してくれる。
「ありがとうございます」
「ん。俺、風呂沸かしてくる」
「あ、はい」
リビングで一人になり、色々考えてしまう。
——え。今日ってもしかして、そういうこと?
自分のセクシャリティを理解してから、そういうことを調べたりもした。
でも、まさか今日そうなるとは思っておらず、気持ちも身体も準備不足だ。
焦りと不安でいっぱいになる中、類先輩が戻ってくる。
「どした?」
僕の気持ちが表情に出ていたのか、類先輩が心配そうに尋ねてくる。
——ちゃんと言わなきゃ。
「あの……」
「ん?」
「その、類先輩のこと好きなので。いずれ、そういうことをしたいと思ってるんですけど。きょ、今日はまだそのちょっと……怖いです」
僕の言葉を聞いて、類先輩が目を見開く。
「あっ、えっと。ごめん、俺そんなつもりで」
「……え?」
「いや。お、俺もいつかは要とそういう事したいけど」
類先輩が顔を赤くしながら話す。
「でも、今日は本当に。もっと一緒にいたくて誘ったっていう……」
「えっ!!あー……」
穴があるなら入りたいは、今の僕のための言葉だ。恥ずかしくて、隣にあったクッションに顔を埋める。
「か、要?」
「……ごめんなさい。ほんと、恥ずかしくて死にそう」
うずくまっている僕の隣に座り、類先輩がそっと抱きしめる。
「ごめん、怒られそうだけど。要がそういう事考えてくれてんのは、結構嬉しい」
「……そりゃあ、僕だって男ですから」
ゆっくりと顔を上げると、類先輩と視線が合う。
お互いの間に甘い空気が流れて僕が目を閉じると、類先輩の唇がゆっくり重なった。
唇が離れ、類先輩の腕に包まれる。
「要、好きだよ」
「うん。僕も」
僕ららしく。
初恋の続きは、ゆっくりとまだまだ続いていく。


