昼休みのチャイムが鳴り響く。
今日は遅刻しそうだったため、昼食を持ってきていなかった。
隣で鞄から弁当を出す真琴に声をかける。
「購買行ってくる」
「おけー、先食ってるわ」
「うん」
教室を出て一階の購買に向かうと、すでに人だかりができていて何が置いてあるのかさえ見えなかった。
ひたすら人が捌けるのを待っていると、横から話しかけられる。
「何欲しいの?」
「え?」
聞き覚えのある声に、横を見る。
「せ、先輩!」
「そんな驚くか?」
「す、すみません」
まだメッセージの返事もできていないのに、田所先輩の急な登場に驚いてしまう。
「早く買いに行かねーと。無くなるぞ」
「え?」
「なんでもいい?」
「え?」
僕の話を聞かずに、田所先輩は人混みをかき分けて、その中へ消えていく。
状況が飲み込めないまま立ち尽くしていると、しばらくして田所先輩が戻ってくる。
「これ。美味いから」
僕の目の前に、焼きそばパンとおかか味のおにぎりが差し出される。
「え?」
田所先輩が、僕の顔を見ながら言う。
「お前、放っておくとまた倒れそうだし」
「そ、そんなこと……。ありがとうございます」
「ん」
「いくらですか?」
僕が小銭を出そうとすると、田所先輩は首を横に振る。
「いい。ジャージのお礼」
「え!いや、そんな」
「あー、……でもそうだな」
田所先輩が少し意地の悪い顔をして話し続ける。
「お前、人のジャージを知らない奴に渡して帰ったもんな」
「……す、みませんでした」
「ふっ。まぁいいや。でも、返信はよこせよ」
「……なんて返せばいいか」
僕が小声で話していると、田所先輩が聞こえないと言いながら、グイッと顔を近づけてくる。
「なんて?」
「な、なんでもないです!」
「いや、絶対なんか言ってたろ」
僕は一歩下がって、慌てて頭を下げる。
「これ、ありがとうございました!また、今度お礼します」
じわじわと、頬が熱くなっていくのを感じる。
——顔、赤くなってないよな?
足早に教室に戻り、自分の席に座った。
「おー、無事買えた?」
「え、あ。うん」
「……なんか、顔赤くね?」
「え?!あ、赤い?」
「うん。最近暑くなってきたもんな」
「あ、うん。だね」
真琴の話に相槌を打ちながら、手のひらをパタパタ動かして熱を冷ます。
昼休みが終わる前に、急いで先ほど貰ったものを食べ始める。
「それ美味い?」
「え!あ、うん」
「なら、今度俺もいこーっと」
「あ。でも、めっちゃ混んでるよ」
「え!そうなん?なら、めんどいな」
「うん。ちょっと大変かも」
「要、よく買えたね」
「あ、……うん。たまたま」
「よかったな」
なぜか田所先輩と会ったことを言えなかった。
食べ終えた後、田所先輩にメッセージを送る。
「ご馳走様でした。美味しかったです」
すぐに既読がつく。
「だろ?俺も好きなんだよ」
メッセージを見た瞬間、驚きすぎて机の脚に思い切り膝をぶつけた。
「いっ……」
「どうしたよ」
隣に座る真琴が笑いながら、心配する。
「笑うなよ……」
「いや、だって。ふはっ。急に立ち上がると、危ないぞ」
「……」
真琴に笑われながら、席に座る。
もう一度、スマホを覗くと画面に映った二文字だけが目に止まる。
「動揺しすぎだろ……」
誰にも聞こえない声で、ボソッと呟いた。
何かしら返信しないといけないと思い、桃鳥先輩からもらったえんどう豆のスタンプを送って、スマホを鞄の中に放り込んだ。
数日後。
今日は体育祭前の最後の委員会。
講堂に向かう途中で、桃鳥先輩と鉢合わせる。
「お!お疲れー」
「お疲れ様です」
「そういえば、今度また新作出るんだけど。遠藤がよかったら、また一緒に行かん?」
「え、僕ですか?」
「そーそー。受験で廃れた心を癒すものが欲しいのよ」
「僕そんなゆるキャラ的なものではないですけど」
桃鳥先輩は相変わらず、他愛もない会話で距離を縮めてくる。
「そうか?あげたスタンプとか、遠藤の雰囲気に似てる気がしたけど」
「え?先輩の中での僕って、あんな感じなんですか?」
「え?そりゃ、そうだろ」
桃鳥先輩と話していると、いきなり後ろから肩を組まれる。
「桃さん、俺にもそんなやつくださいよ」
いきなり登場した田所先輩に驚きつつ、表情に出ないように平静を装う。
「うわっ、類」
「うわってなんすか」
「いや、いきなり入ってくるから。な?」
桃鳥先輩が僕の顔を見ながら、相槌を求めてくる。
「ですね」
「ほら、遠藤もビビってるから。それやめろって」
桃鳥先輩が田所先輩に肩を組むのをやめるよう促すと、自然と腕が離れていった。
田所先輩が僕の顔を覗きながら聞いてくる。
「この前のスタンプ、桃さんからもらったの?」
「え……あ、はい」
「へぇー」
聞いてきた割に、そっけない返答が返ってきた。
そんな雰囲気を断ち切るように、桃鳥先輩が僕に話しかけてくる。
「じゃあ、また都合いい日送っておいて?」
「あ、はい」
「じゃ、俺ちょっと職員室寄るから先行くわ」
桃鳥先輩が去って行き、廊下には僕と田所先輩の二人きりになった。
——なんか、気まずいな。
そんなことを考えていると、隣で歩く田所先輩が話しかけてくる。
「どっか行くの?」
「え?」
「桃さんと」
「あ、桃鳥先輩とこの前カフェ行って。またそこに行く予定です」
僕の返答を聞いて、田所先輩がボソッと話す。
「……桃さんは違ったんだろ?」
どうして先輩は、こんなにも桃鳥先輩のことを気にするんだろう。
「え?」
「お前が探してる『れん』」
「あぁ、はい。違いますけど」
「やっぱ、なんでもねぇ」
「……はい?」
そう言って、先輩はそれ以上何も言わなかった。
少し気まずい雰囲気の中、講堂に入り僕たちはいつも通りバラバラに座る。
委員会の最後に、前日準備の確認を行う。
「設営テントは、主に男子で。小物系は女子でやろうと思う。他にも設置するものあるから、各自割り振られたものが終わったら、他の手伝いに行ってください」
配られた資料を確認して、解散した。
「設営か……」
体力には自信がないため、少し不安な気持ちのまま僕は講堂をあとにした。
今日は遅刻しそうだったため、昼食を持ってきていなかった。
隣で鞄から弁当を出す真琴に声をかける。
「購買行ってくる」
「おけー、先食ってるわ」
「うん」
教室を出て一階の購買に向かうと、すでに人だかりができていて何が置いてあるのかさえ見えなかった。
ひたすら人が捌けるのを待っていると、横から話しかけられる。
「何欲しいの?」
「え?」
聞き覚えのある声に、横を見る。
「せ、先輩!」
「そんな驚くか?」
「す、すみません」
まだメッセージの返事もできていないのに、田所先輩の急な登場に驚いてしまう。
「早く買いに行かねーと。無くなるぞ」
「え?」
「なんでもいい?」
「え?」
僕の話を聞かずに、田所先輩は人混みをかき分けて、その中へ消えていく。
状況が飲み込めないまま立ち尽くしていると、しばらくして田所先輩が戻ってくる。
「これ。美味いから」
僕の目の前に、焼きそばパンとおかか味のおにぎりが差し出される。
「え?」
田所先輩が、僕の顔を見ながら言う。
「お前、放っておくとまた倒れそうだし」
「そ、そんなこと……。ありがとうございます」
「ん」
「いくらですか?」
僕が小銭を出そうとすると、田所先輩は首を横に振る。
「いい。ジャージのお礼」
「え!いや、そんな」
「あー、……でもそうだな」
田所先輩が少し意地の悪い顔をして話し続ける。
「お前、人のジャージを知らない奴に渡して帰ったもんな」
「……す、みませんでした」
「ふっ。まぁいいや。でも、返信はよこせよ」
「……なんて返せばいいか」
僕が小声で話していると、田所先輩が聞こえないと言いながら、グイッと顔を近づけてくる。
「なんて?」
「な、なんでもないです!」
「いや、絶対なんか言ってたろ」
僕は一歩下がって、慌てて頭を下げる。
「これ、ありがとうございました!また、今度お礼します」
じわじわと、頬が熱くなっていくのを感じる。
——顔、赤くなってないよな?
足早に教室に戻り、自分の席に座った。
「おー、無事買えた?」
「え、あ。うん」
「……なんか、顔赤くね?」
「え?!あ、赤い?」
「うん。最近暑くなってきたもんな」
「あ、うん。だね」
真琴の話に相槌を打ちながら、手のひらをパタパタ動かして熱を冷ます。
昼休みが終わる前に、急いで先ほど貰ったものを食べ始める。
「それ美味い?」
「え!あ、うん」
「なら、今度俺もいこーっと」
「あ。でも、めっちゃ混んでるよ」
「え!そうなん?なら、めんどいな」
「うん。ちょっと大変かも」
「要、よく買えたね」
「あ、……うん。たまたま」
「よかったな」
なぜか田所先輩と会ったことを言えなかった。
食べ終えた後、田所先輩にメッセージを送る。
「ご馳走様でした。美味しかったです」
すぐに既読がつく。
「だろ?俺も好きなんだよ」
メッセージを見た瞬間、驚きすぎて机の脚に思い切り膝をぶつけた。
「いっ……」
「どうしたよ」
隣に座る真琴が笑いながら、心配する。
「笑うなよ……」
「いや、だって。ふはっ。急に立ち上がると、危ないぞ」
「……」
真琴に笑われながら、席に座る。
もう一度、スマホを覗くと画面に映った二文字だけが目に止まる。
「動揺しすぎだろ……」
誰にも聞こえない声で、ボソッと呟いた。
何かしら返信しないといけないと思い、桃鳥先輩からもらったえんどう豆のスタンプを送って、スマホを鞄の中に放り込んだ。
数日後。
今日は体育祭前の最後の委員会。
講堂に向かう途中で、桃鳥先輩と鉢合わせる。
「お!お疲れー」
「お疲れ様です」
「そういえば、今度また新作出るんだけど。遠藤がよかったら、また一緒に行かん?」
「え、僕ですか?」
「そーそー。受験で廃れた心を癒すものが欲しいのよ」
「僕そんなゆるキャラ的なものではないですけど」
桃鳥先輩は相変わらず、他愛もない会話で距離を縮めてくる。
「そうか?あげたスタンプとか、遠藤の雰囲気に似てる気がしたけど」
「え?先輩の中での僕って、あんな感じなんですか?」
「え?そりゃ、そうだろ」
桃鳥先輩と話していると、いきなり後ろから肩を組まれる。
「桃さん、俺にもそんなやつくださいよ」
いきなり登場した田所先輩に驚きつつ、表情に出ないように平静を装う。
「うわっ、類」
「うわってなんすか」
「いや、いきなり入ってくるから。な?」
桃鳥先輩が僕の顔を見ながら、相槌を求めてくる。
「ですね」
「ほら、遠藤もビビってるから。それやめろって」
桃鳥先輩が田所先輩に肩を組むのをやめるよう促すと、自然と腕が離れていった。
田所先輩が僕の顔を覗きながら聞いてくる。
「この前のスタンプ、桃さんからもらったの?」
「え……あ、はい」
「へぇー」
聞いてきた割に、そっけない返答が返ってきた。
そんな雰囲気を断ち切るように、桃鳥先輩が僕に話しかけてくる。
「じゃあ、また都合いい日送っておいて?」
「あ、はい」
「じゃ、俺ちょっと職員室寄るから先行くわ」
桃鳥先輩が去って行き、廊下には僕と田所先輩の二人きりになった。
——なんか、気まずいな。
そんなことを考えていると、隣で歩く田所先輩が話しかけてくる。
「どっか行くの?」
「え?」
「桃さんと」
「あ、桃鳥先輩とこの前カフェ行って。またそこに行く予定です」
僕の返答を聞いて、田所先輩がボソッと話す。
「……桃さんは違ったんだろ?」
どうして先輩は、こんなにも桃鳥先輩のことを気にするんだろう。
「え?」
「お前が探してる『れん』」
「あぁ、はい。違いますけど」
「やっぱ、なんでもねぇ」
「……はい?」
そう言って、先輩はそれ以上何も言わなかった。
少し気まずい雰囲気の中、講堂に入り僕たちはいつも通りバラバラに座る。
委員会の最後に、前日準備の確認を行う。
「設営テントは、主に男子で。小物系は女子でやろうと思う。他にも設置するものあるから、各自割り振られたものが終わったら、他の手伝いに行ってください」
配られた資料を確認して、解散した。
「設営か……」
体力には自信がないため、少し不安な気持ちのまま僕は講堂をあとにした。


