ウツシアイ

しばらくの静寂のあと、頭の上に、カサついた、けれど驚くほど温かい手のひらがそっと置かれた。おばあちゃんの手だった。
「アキちゃん、顔をあげてごらん」
言われるままに顔を上げると、おばあちゃんの優しい目からも、静かに涙が溢れていた。
「優しい子に育ってくれて、本当にありがとうね。サクも、アキちゃんも、二人がこの家にきてくれてから、私たちは毎日が本当に賑やかで、楽しかったんだよ。おじいちゃんもね、口には出さないけど、アキちゃんが作ったチーズケーキ、いつも美味しい美味しいって、裏で嬉しそうに食べてたんだから」
おばあちゃんの言葉に、コタツのおじいちゃんがバツが悪そうに新聞を大きくガサリと鳴らした。だけど、その横顔は、私が今まで一度も見たことがないくらい、ほんの少しだけ、優しく、誇らしそうに緩んでいた。
「来週からは、二人で新しいアパートでの生活が始まるんだね。誰の手の中じゃなく、自分たちの足で歩いていく一人暮らし。寂しくなるけれど、おばあちゃんもおじいちゃんも、ずっとここで二人のことを応援してるからね。困ったことがあったら、いつでも帰っておいで。冷たいプリンをたくさん用意して待ってるから」
「……うん、うん…っ。ありがとう、おばあちゃん、おじいちゃん……っ」
おばあちゃんの皺くちゃの手が、私の頭を何度も、何度も優しく撫でてくれる。
姿は見えなくても、私たちは確かに、この世界の誰よりも大きな、無償の愛に守られてここまで生きてこられたんだ。胸いっぱいの温もりを抱きしめたまま、私は二人に最後にもう一度深く一礼をして、自分の部屋へと戻った。一刻も早く、サクへ向けて、未来へ向けて、最後のバトンをノートに綴るために。

三月の少し冷たい、だけど柔らかな春の光が、体育館の窓から差し込んでいる。
「城ヶ崎朔夜」
名前が呼ばれ、僕はステージに上がって卒業証書を受け取る。これは僕の証であり、僕の中で一緒に戦って、一緒に生きてくれたアキの証でもあった。僕は心の中でアキの手をしっかりと繋ぎながら、壇上から見える客席を真っ直ぐに見渡した。