ウツシアイ

お母さんは、本当にずっと、私の日常を、私の大好きなものを、駿から熱心に聞いて忘れずにいてくれたんだ。そして、今日のこの瞬間のために、私のために用意して待っていてくれたんだ。そのことが、よく冷えたパックの冷たさから、じんわりと私の胸に伝わってきた。
「ありがとう、お母さん」
私はストローを差し込み、いちごミルクを一口、大切に口に含んだ。
舌の上に広がる、どこか懐かしくて甘い味。
中学一年生のあの夏の日、冷凍庫のアイスがなくなっていることに怯え、お母さんに嘘つきだと誤解されて傷ついていたあの日の寂しい過去が、今、この甘いいちごミルクの味と、目の前で愛おしそうに私を見つめるお母さんの優しい笑顔によって、完全に温かく上書きされて消え去っていく。
「美味しい……すごく、美味しいよ、お母さん」
お母さんは私のブレザーの袖の上から、そっと手を重ねてくれた。
重ねられた手のひらから、お母さんの体温が、ブレザーの分厚い生地をじんわりと通り抜けて私の肌へと伝わってくる。その優しくて、どこか少し震えている温もりに触れた瞬間、胸の奥の、一番奥深くにあった強張りが、優しく解れていった。
お母さんの目から、また静かに涙が溢れて、頬を伝って落ちていく。だけど、その顔にはもう、過去に怯えていたような張り詰めた冷たさはどこにもなかった。これ以上ないほど愛おしそうな、世界で一番強くて優しい、私のお母さんの顔で笑い返してくれていた。
『私、生きてていいんだ…。』
胸の中でそう呟いた瞬間、水底の冷たい暗闇に一人きりで沈んでいた私の世界に、眩しいほどの本物の光が、真っ直ぐに、どこまでも深く届いた。
実家を出て門扉を閉める時、夜空には見上げるほどの無数の星が輝いていた。
胸の奥を吹き抜ける夜風は、もう冷たくはなかった。
私は祖父母の家へと続く暗い坂道を、サクへ、そして未来へと繋ぐ世界で一番温かいバトンを胸に抱き締めながら、一歩一歩、確かな足取りで歩き始めた。一刻も早く、自分の部屋に戻ってノートを開きたかった。