道すがら、あの交差点が視界に入る。今朝サクの日記を読むまでは、ただの通学路の景色でしかなかった場所。だけど今は、お父さんが命をかけて駿を救ってくれた場所なのだと分かっていた。悲しい事故の跡地のはずなのに、不思議と怖さはなかった。そこにはただ、目に見えない無数の愛が、穏やかな光のように満ちているのを肌で感じるだけだった。お父さん、私、お母さんに会いに行ってくるね。胸の中でそう小さく呟いて、私は一歩を踏み出した。
やがて、何年も遠ざけていた懐かしい実家の門扉が視界に入ってくる。
私はインターホンの前に立ち、激しく上下する胸を落ち着かせるように深く、深く息を吸い込んでから、ボタンを静かに押した。
ピンポーン、と間の抜けた音が静かな住宅街に響く。
数秒の静寂の後、家の中からパタパタと慌ただしい足音が近づいてきて、ガチャリとドアが開いた。
「……あ」
ドアの向こうに現れたお母さんは、昨日の夜にサクとたくさん泣いたのだろう、その綺麗な瞳が少しだけ赤く腫れていた。
お母さんは、男の子の制服を着た僕の体を真っ直ぐに見つめ――そして、私の少し内股な立ち姿、気恥ずかしそうにブレザーの裾を弄る指先の仕草、何より不安と期待で小さく揺れる瞳の無垢な光を捉えた瞬間、両手を口元に当てて激しく息を呑んだ。
「……アキちゃん……っ?」
お母さんの口から、掠れた私の名前が零れ落ちる。
その瞬間、張り詰めていた私の心の堤防が決壊し、一気に視界が涙でぐしゃぐしゃに滲んだ。
「お母さん……っ!」
私は実体のない幽霊なんかじゃなかった。
私はお母さんの胸へと、人生で初めて、自分の意思で思いきり飛び込んだ。
「アキちゃん、アキちゃん…! ごめんなさい、本当にごめんなさい……っ!」
お母さんは私を、まるで二度と離さないと誓うような強さで、両腕でぎゅっと抱きしめ返してくれた。その背中を震える手で何度も何度も擦りながら、子供のように声を上げて激しく泣きじゃくった。お母さんの流す涙の熱さが、制服の肩口に、じわりとリアルな温度を伴って染み込んでくる。
「怖がって、手放して、あんなに寂しい思いをさせて……母親なのに、本当にごめんなさい……っ。アキちゃん、生きていてくれてありがとう。私の、私の愛しい娘でいてくれて、本当にありがとう……っ!」
やがて、何年も遠ざけていた懐かしい実家の門扉が視界に入ってくる。
私はインターホンの前に立ち、激しく上下する胸を落ち着かせるように深く、深く息を吸い込んでから、ボタンを静かに押した。
ピンポーン、と間の抜けた音が静かな住宅街に響く。
数秒の静寂の後、家の中からパタパタと慌ただしい足音が近づいてきて、ガチャリとドアが開いた。
「……あ」
ドアの向こうに現れたお母さんは、昨日の夜にサクとたくさん泣いたのだろう、その綺麗な瞳が少しだけ赤く腫れていた。
お母さんは、男の子の制服を着た僕の体を真っ直ぐに見つめ――そして、私の少し内股な立ち姿、気恥ずかしそうにブレザーの裾を弄る指先の仕草、何より不安と期待で小さく揺れる瞳の無垢な光を捉えた瞬間、両手を口元に当てて激しく息を呑んだ。
「……アキちゃん……っ?」
お母さんの口から、掠れた私の名前が零れ落ちる。
その瞬間、張り詰めていた私の心の堤防が決壊し、一気に視界が涙でぐしゃぐしゃに滲んだ。
「お母さん……っ!」
私は実体のない幽霊なんかじゃなかった。
私はお母さんの胸へと、人生で初めて、自分の意思で思いきり飛び込んだ。
「アキちゃん、アキちゃん…! ごめんなさい、本当にごめんなさい……っ!」
お母さんは私を、まるで二度と離さないと誓うような強さで、両腕でぎゅっと抱きしめ返してくれた。その背中を震える手で何度も何度も擦りながら、子供のように声を上げて激しく泣きじゃくった。お母さんの流す涙の熱さが、制服の肩口に、じわりとリアルな温度を伴って染み込んでくる。
「怖がって、手放して、あんなに寂しい思いをさせて……母親なのに、本当にごめんなさい……っ。アキちゃん、生きていてくれてありがとう。私の、私の愛しい娘でいてくれて、本当にありがとう……っ!」

