そして、私の元へとゆっくり歩み寄ると、その温かくて、節くれ立った大きな手で、私の頭を何度も、何度も優しく撫でてくれた。
「…サクから、聞いたかね。よかったねぇ、アキちゃん。お母さんね、ずっとあんたたちのことを、自分の命よりも大事に思ってたんだよ。ずっと、おばあちゃんに『あの子たちの日常を教えてほしい』って、駿くんと一緒に泣きながら頭を下げに来てたんだよ」
おばあちゃんの皺くちゃの手の温もりが、私の頭を通して、心の奥底の一番冷え切っていた水底にまで、じんわりと染み渡っていくのが分かった。
「う、うん…おばあちゃん、おばあちゃん……っ」
私はおばあちゃんの腰のあたりに顔を埋めて、子供のように声を上げて激しく泣いた。サクが昨日の夜、日記の最後に遺してくれた、世界で一番温かいバトンの言葉を、胸の奥で何度も、何度も繰り返しながら。
『明日、実家でお母さんが待ってる。今度は、アキの番だよ。
怖がらなくていい。僕たちの、本当の家族のところへ、お母さんに会いに行っておいで』
何年も凍りついていた私の時間が、サクの優しさに背中を押されて、今、本当の未来へと、ものすごい熱量を持って動き出そうとしていた。
おばあちゃんの温かい胸の中でひとしきり泣いた後、私は涙を拭い、ゆっくりと立ち上がった。
サクが日記の最後に遺してくれた言葉が今も胸の奥で心地のいい熱を持ってリフレインしている。
『怖がらなくていい。僕たちの、本当の家族のところへ、お母さんに会って行って』
私はいつもの男の子の制服に袖を通し、鏡の前で髪を整えた。
鏡の向こうに映っているのは、サクの体だ。だけど、今朝の私は昨日までの私とは違った。自分は誰の記憶にも残らない幽霊なんかじゃない、お母さんに確かに愛されていた娘なんだという、静かで確かな光が、胸の奥底にボッっと灯っていた。男の子の制服を着ていても、私の心は、私の魂は、完璧に一人の女の子としてそこに立っていた。
「行ってきます、おばあちゃん」
「ええ、気をつけていくんだよ。アキちゃん」
おばあちゃんの優しい笑顔に背中を押され、私は住み慣れた家を出た。
十月の冷たい秋風が私の頬を容赦なく撫でていく。私はサクが昨日の夕暮れに猛烈な衝動のまま駆け抜けたというあの坂道を、一歩一歩、その土を踏み締めるようにして進んでいった。
「…サクから、聞いたかね。よかったねぇ、アキちゃん。お母さんね、ずっとあんたたちのことを、自分の命よりも大事に思ってたんだよ。ずっと、おばあちゃんに『あの子たちの日常を教えてほしい』って、駿くんと一緒に泣きながら頭を下げに来てたんだよ」
おばあちゃんの皺くちゃの手の温もりが、私の頭を通して、心の奥底の一番冷え切っていた水底にまで、じんわりと染み渡っていくのが分かった。
「う、うん…おばあちゃん、おばあちゃん……っ」
私はおばあちゃんの腰のあたりに顔を埋めて、子供のように声を上げて激しく泣いた。サクが昨日の夜、日記の最後に遺してくれた、世界で一番温かいバトンの言葉を、胸の奥で何度も、何度も繰り返しながら。
『明日、実家でお母さんが待ってる。今度は、アキの番だよ。
怖がらなくていい。僕たちの、本当の家族のところへ、お母さんに会いに行っておいで』
何年も凍りついていた私の時間が、サクの優しさに背中を押されて、今、本当の未来へと、ものすごい熱量を持って動き出そうとしていた。
おばあちゃんの温かい胸の中でひとしきり泣いた後、私は涙を拭い、ゆっくりと立ち上がった。
サクが日記の最後に遺してくれた言葉が今も胸の奥で心地のいい熱を持ってリフレインしている。
『怖がらなくていい。僕たちの、本当の家族のところへ、お母さんに会って行って』
私はいつもの男の子の制服に袖を通し、鏡の前で髪を整えた。
鏡の向こうに映っているのは、サクの体だ。だけど、今朝の私は昨日までの私とは違った。自分は誰の記憶にも残らない幽霊なんかじゃない、お母さんに確かに愛されていた娘なんだという、静かで確かな光が、胸の奥底にボッっと灯っていた。男の子の制服を着ていても、私の心は、私の魂は、完璧に一人の女の子としてそこに立っていた。
「行ってきます、おばあちゃん」
「ええ、気をつけていくんだよ。アキちゃん」
おばあちゃんの優しい笑顔に背中を押され、私は住み慣れた家を出た。
十月の冷たい秋風が私の頬を容赦なく撫でていく。私はサクが昨日の夕暮れに猛烈な衝動のまま駆け抜けたというあの坂道を、一歩一歩、その土を踏み締めるようにして進んでいった。

