ウツシアイ

「父さんが、駿を庇って死んだこととか。…全部、聞いたよ」
母さんはゆっくりと振り返った。その顔は、すでに大粒の涙で溢れていた。
「……駿くん、話してくれたのね」
「ごめん、母さん」
僕はきゅっと唇を噛み締め、胸の奥に溜まっていた本音を吐き出した。
「ずっと、僕のせいで母さんを傷つけたと思ってた。母さんが求めてくれた『完璧で良い子』の理想に応えられなくて……それなのに僕の心が弱かったから、アキが生まれて、アキを生み出してしまった。だから母さんに愛想を尽かされて、捨てられたんだって、自分の不甲斐なさばっかり責めてたんだ。母さんに合わせる顔がなくて、怖くて、お墓参りの日にちすら執念でずらして逃げてた。……自分の弱さから目を背けて、母さんをずっと一人にして、拒絶し続けて、本当にごめん」
「違うの!」
母さんは激しく首を振り、僕の元へ駆け寄ると、僕の前に崩れるように膝をついた。
「違う…! 違うのよ、サク。悪いのは、全部、全部私なの……っ。あの日、お父さんが急にいなくなって、私、頭がおかしくなりそうだった……。もう二度と、私の大切な家族をあんな風に失いたくない、私の目が届かないところでサクが傷つくのを見たくないって、そればっかり考えて……。だから、あなたを私の手の中に縛り付けるみたいに、『絶対に嘘をつかない完璧な良い子』でいることを押し付けて……あなたを、あんなに追い詰めてしまったの。中学の最初だってそう…あなたが怯えながらアイス食べた?って聞いてくれたのに、私、あなたが嘘をついてるんだって思い込んで、冷たく突き放して……。そのあと、あなたの中にアキちゃんが生まれたって知った時、自分の不甲斐なさが、我が子を壊してしまった自分が怖くて……母親なのに、あなたたちから逃げちゃったの。不気味だなんて、一度だって思ったことない…! サクも、アキちゃんも、二人とも私の、本当に大切で、愛おしい子供たちなのに…っ」
母さんは僕の手を自分の額に押し当て、声を上げて激しく泣きじゃくった。母さんの小さな肩が、子供のように激しく揺れている。僕は自由になった方の手で、母さんの冷たくなった背中にそっと手を回し、そのまま自分の胸へと強く抱きしめた。
腕の中に収まった母さんの体は、驚くほど軽くて、小さかった。
記憶の中の母さんは、いつも僕を見下ろす高くて大きな壁のようだった。