ウツシアイ

胸ぐらを掴む僕の手を、駿は静かに、けれどとよく握りしめた。
「違う……違うんだ、サク。最初は、確かにそうだったのかもしれない。サクから親父さんを奪ったのが俺だって知った時、俺のせいでサクの家族がめちゃくちゃになったって知った時、俺は一生をかけてお前の身代わりにならにといけないって思った。義務でもなんでも、サクを守ることだけが、俺の生きる理由だった」
駿の目から、一筋の涙が頬を伝って落ちた。
「でも、サク。小学校でお前に話しかけて、幼馴染になって、お前の中にアキが生まれて、二人とバカみたい笑いあって…気づいたら俺、お前らのことが本当に大切になっちゃってたんだよ。義務とか罪悪感じゃない。サクが、アキが、俺にとって世界で一番の親友だから、だから俺はお前らの笑顔を守りたかったんだ。……ずっと黙って、騙しててごめん。でも、俺の気持ちに、嘘は一つもない」
駿の口から溢れ出た、血を吐くような本音。
その目には、小1のあの日からずっと、たった一人で重すぎる十字架を背負いながらも、それ以上に僕たちを心から愛してくれていた、不器用な親友の痛みが溢れていた。
掴んでいた手の力が、自然と抜けていく。
涙が、僕の目から止めどなく溢れ出てきた。
ずっと母さんに拒絶されていると思い込み、自分のせいでアキに「実態がない」という悲しい思いをさせていると、自分を責め続けていた。けれど、まさかあの舞台の裏で、母さんがアキの存在に気づいて『私の愛しい娘』だと大粒の涙を流し、大好きな親友が、命がけで僕たちの心をずっと守り続けてくれていたなんて。
「駿……っ」
涙を流しながら、どこか憑き物が落ちたように微笑む親友の肩を、僕は壊れるほど強く、強く抱きしめた。
お父さんが命をかけて守った駿が、今度は、僕とアキの心を、ずっと守り続けてくれていたのだ。
『いちばんたいせつなことは、目に見えない――』
劇のセリフが、夕闇に染まる教室の中で、僕の心に本物の、見えない温もりとなって、静かに溶けていった。