ウツシアイ

気まずそうに言葉を濁す僕を、駿が攻めることなく、ただ静かに見つめながら言葉を重ねた。
「あのお花さ。おばさんと『俺』で、毎年命日の当日に供えに行ってたんだよ。サクが絶対にその日には来ないって、知ってたからさ」
夕暮れの静まり返った教室に、駿の声だけが、重く、切なく響く。
「サク、親父さんが亡くなったのって、誰かを庇ったからって聞いてただろ?」
駿がポツリと言った。 
「その誰かっていうのは…俺なんだよ。小一の時、トラックの前に飛び出した俺を庇って、サクの親父さんは死んだんあ」
頭を殴られたような衝撃が僕を襲った。
世界がバラバラに崩れ去る。あの優しかった父が死んだ本当の理由。誰かを庇って死んだという、その『誰か』が、僕の目の前にいる、唯一の親友だった。
そこからの駿の言葉は、僕の耳を通り抜けて脳髄を直接掻き回した。
駿が母さんに全部正直に話したこと。僕の中にアキが生まれたのも自分のせいだと背負い込んできたこと。だから月に一回母さんと会って僕たちの日常を報告していたこと。アキお小遣い袋も、全部裏でおばさんが駿を介して繋いでいたこと…。
「……っざけんなよ」
気づけば、絞り出すような声が僕の喉から漏れていた。
視界が怒りで真っ赤に染まっていく。
「ふざけるなよ、駿!!」
僕は胸ぐらを思いっきり掴み、後ろの机に叩きつけた。ガタっと激しい音が静かな教室に響き渡る。駿は抵抗することなく、ただ悲しげに目を伏せて僕の怒りを受け止めていた。その態度が、余計に僕のひを煽った。
「じゃあ何か!?お前が今まで僕の隣にいたのも、同じ高校を受けたのも、近くで一人暮らし始めたのも、アキのことも受け入れてくれたのも…全部、全部『罪悪感』からだったっていうのかよ!僕の父さんを殺した償いのために、同情で僕の隣にいやがったのかよ!」
叫ぶ僕の拳が小刻みに震える。
駿が異様なまでに僕たちに優しく、何があっても味方でいてくれて、引きこもりになりそうだった僕を学校へ引っ張り出し、アキの存在すら当たり前のように支え続けてくれていた理由。そのすべてが、ただの『義務』や『自分の罪滅ぼし』だったのだとしたら、僕たちが過ごしてきたあの温かい時間は何だったんだ。騙されていたような、利用されていたような、猛烈な悔しさと悲しさが涙になって溢れそうになる。